あの人が喜ぶもの?
さて、お題は決まったので、大会場で野次馬のように集まっていた貴族は、各々散り散りに去っていった。貴族会議は数日間に渡って行われる。その間に、アルをうんと言わせる手料理、まぁ、料理であれば何でもいいのだろうが、それを用意し、アルの興味を引かなければならない。
といっても、貴族として育てられてきた娘が、まともな料理を作れるのは極まれだろう。私も、前世の記憶がなければ、パンを焼くことすらできなかっただろう。そもそも、こっちの世界には独特な調味料が多い。万能と言われた醤油や日本酒等は、作ろうと思えば作れるが、そこまでして作ろうとは思わない。焼き菓子などは、砂糖や乳があるため、かろうじて作れるだろう。
とまぁ、それは置いておいて、私とアルは、フィリアオールに呼び出されていた。
「まったくあなたたちは。無茶なことして。特に、ロウ。あなたはこの子の暴走を止めに行ったんじゃなかったの?」
別にそうと言ったつもりはないけれど、どの道この人を止めることなどできはしなかっただろう。
「ですが、こうでもしなければ、あの方たちをどうにかするのは難しかったと思います。」
「ロウの言う通りです。母上。これは起こるべくして起こる事態でしたから。手っ取り早く解決に導いたと言えましょう。」
自信満々気にいうアルハイゼンに対して、母親であるフィリアオールは頭に手を当てて頭を振っていた。
「そうかしれないけど・・・。まぁいいわ。あなたの問題です。収集できたのなら、陛下も声を上げることもしないでしょう。」
問題はそっちだ。父親であるジエトが何というか。国王の立場としては、無駄にことを大きくして、変に話がこじれさせたくはないだろう。そのためにも、私はどうにかして、今いる座を譲るわけにはいかない。
「ロウ。」
「はい。」
「王家としては、貴方に、アルハイゼンの妃となることを望んでいます。それは、ちょっとやそっとのことでは覆りません。」
「・・・わかっています。」
「よろしい。・・・万が一が無いように、貴方もしばらく気を抜かないでいてね。」
というわけで、他の貴族令嬢と比べて私は優位に立っているわけだけど、とりあえず私も何か作ることにしたのだ。
「何がいいと思うライラ?」
「お嬢様が作られたものであれば、殿下はお喜びになってくれると思いますが。」
それはそうかもしれない。ただ、そういう話ではないからなぁ。
別に私の手料理で、アルの情緒が明るくなるのであれば、時間のある時にいつでも作ってやっても構わないのだが。今は、他の貴族と、いわば冷たい戦争をしているのだ。誰がトップなのか。彼の隣に立つに相応しい女は誰なのか。それを決める戦いだ。
・・・いつからこんなドロドロの展開になったのだろうか。他の女と競うだなんて。そもそも料理の良し悪しを決めるなんて、単に好みの話になるじゃないか。まぁそれを見極めて作るのも審査に入るのかもだけど。
「今頃、今回の貴族会議に参加した令嬢たちは、躍起になって台所に立っているのかな。」
身分の高い人間は、甘やかされて育つ家も多いだろう。中には着替えすら侍女にすべて任せている者だって少なくないだろうに。
「お嬢様はいかがされるのですか?」
「そうねぇ。大したものは作れないしなぁ。」
・・・彼は、何をもらったら喜ぶだろうか。残念ながら、私は彼に恋しているわけではない。ただ、結婚すれば、夫に対して料理を作ることだってあるだろう。少なくとも私はそうありたいと思っている。貴族だから、雇った料理人に任せるのではなく、貴族である以前に、一家族として。
こういう時に思い浮かぶのは、やはり前世の世界での食べ物だ。自分の好物、家でよく出ていたもの。近くのレストランで人気だったメニューなど。だけど、この世界のものだけで作れるとは思えなかった。もともと、あっちの世界のものをこっちの世界へ輸入するのは、いささか躊躇われたのだ。文明レベルが違う、というより、文明の質が違う。科学と魔法を比べるのは野暮な話だけど、世界の規模も特性も全く異なる故に、そういったことは避けるべきだと思ったのだ。
さんざん思案した結果、どうにかこの世界でも作れそうで、なおかつまともな料理、サンドイッチにすることにした。
パンを焼いて、肉や野菜を挟み込むだけ。味付けのソースさえどうにかすればいい簡単な料理。他にもシチューとか、焼き魚とか出来そうだと思ったのけど、私自身が好きじゃないのだ。
如何せん生の刺身を食べてきた身としては、魚の青臭さには敏感で、海の幸ならともかく、川魚の独特な魚臭さは到底受け付けないのだ。鮮度もそれほど良くないし。
シチューの方は、・・・なんとうか、この世界のシチューは味が薄い。企業が一般人でも食べやすいように生み出した万能なルーは、やはり偉大だったのだ。あの味をこの世界で再現するなど、私には無理だ。
というわけで、サンドイッチをアルに振舞うことにしたのだ。作るのは簡単だけど、問題はいつ振舞うかだ。いったい何人の令嬢から料理を振舞われるのか。なかには食事のために、場を設ける家も出てくるだろう。
「ライラ、いつでももてなせるように、準備だけは整えておいてくれる?」
「はぁい。かしこまりました。楽しみですね。」
そりゃあライラは好きだから楽しみだろうけど、私はまたしても巻き込まれている側なのだから、あまり気は進まない。フィリアオールも言っていたが、よほどのことがない限り、私の優位は揺るがないのは間違いない。だけど、ポーズは取っておかないと、平等性に欠け、また別の意味で野次を飛ばす者たちが出てくるだろう。
二次的な問題を防ぐためにも、私もこの選定に真剣に臨まなければならない。
「今日から、少し練習しなくちゃね。」
「では、食材を手配いたしましょう。」




