アルの無茶振り、その3
ここまで大事になったのだから、今さら何をしようと大したことじゃない。
「お初にお目に掛かる。アダマンテ家の令嬢、ロウ殿。私は、プラチナム領西部州を統治する、ファロス子爵でございます。」
最初に進み出てきたのは、縦長の強面、年は50代と言ったところだろか。プラチナム領西部ということは、ひし形の帝国の東部領、そのうちのさらに西部ということは、グランドレイブ山脈にかなり近い領土を治めているということになる。それ自体は特に問題はないけれど、普段から内地で暮らしている者ほど、結構平和ボケしていることが多い。
このグランドレイブ帝国は、東西南北の四方からの魔物の脅威に、常に晒されている。魔物だけでなく、他国勢力の存在し、基本的に国境線沿いは危険と隣り合わせだ。内地の貴族は、それとは逆に争いの火種がないから、政に注視でき、他よりも都市の発達などが早かったりする。それも当然と言えば当然だけど。
「殿下、殿下がアダマンテ家のご令嬢をお気に召したというのであれば、私に介入の余地はないのかもしれませんが、少しでよいので、我が娘を見ていただけないでしょうか?」
ファロス子爵がそういうと、彼の後ろから父親と同じくらいの背丈を誇る女が現れた。小綺麗に整った容姿はいかにも貴族の令嬢らしいが、そのドレス姿はあまりにも細く感じた。棒のような手足は私も同じだけど、身長がある分、余計に目立って見える。年齢は、見た目ではわからなかったが、背丈で見れば成人していても不思議ではないと思えた。
「初めまして、殿下。ファロス家の一人娘の、エルフと申します。」
ドレスの裾を持ち上げた、令嬢らしい挨拶だけど、アルの表情を見る限り、何かが不服のようだ。
「さて、ファロス子爵。貴殿の愛娘の何を見ればいい?」
「それはもちろん、エルフの全てを見たください。きっと殿下も気に入ってくださると思います。」
「そうか、なら、エルフ殿の魔法を見せてくれ。」
「・・・は、はい?」
「魔法さ。ロウは、俺の私的な好奇心を、魔法の力で満たしてくれるのさ。エルフ殿も同じことか、それ以上のもの期待したいものだ。」
アルの言葉に、ファロス子爵もエルフも、そしてその場に集まっている他の貴族や令嬢も、目を点にして驚いていた。普通の縁談であれば、そんなことを聞かれたりはしないし、他の令嬢と比べるという行為は、無礼に値する。
しかし、既に婚約者が決まっている今の状況では、ファロス家に退路はない。王子が魔法をご所望とあれば、それを見せなければ、自家には振り向いてはもらえないだろう。だた・・・。
「そ、それはいささか酷というものでは?かのアダマンテ家の、奇跡の申し子と魔法で競えというのは。」
「俺は別に競えだなんて言ってないぞ?エルフ殿の魔法に興味があるだけだ。」
淡々とした様子でそう答えたが、ファロス家からしてみれば、そういうことだ。ただ、彼らの言うようにいきなりそんなことをしろと言われるのは、ある意味職権濫用ともいえる。身分が高いゆえにとれる態度だ。
それに、こんな場所で魔法を披露するというのも、自家の情報を他の貴族にも晒すことになる。
「殿下、もう少し意地悪が過ぎるのではないですか?」
「ん?そうか。ふむ。だが自らを最良と謳うのであれば、何事も秀でていると自負すべきだと思うけどな。」
それはそうなのだが、今それでは事態は収拾しないだろう。私は彼の耳元で、助言というか、それっぽい話をささやいた。
「花嫁らしいことをさせる、か。」
妃とは言え、その本質は殿方の花嫁になれるかどうかだ。女を計るなら、そういったことの方がいいだろう。とはいえ、自分で言っておいて、その点は私もあまり自身がないのだけど・・・。
「なら、手料理を作ってもらおうか。」
「・・・。」
「りょう、り?」
アルにしては、なかなか無難な線を選んだと思った。ファロス子爵とエルフは言葉を失っているようだが。
「この際だ。他の令嬢たちにも、何か作ってもらおうか。俺との縁談を考えていたのだから、一斉にその審査をやろうじゃないか。」
「お、お待ちください、アルハイゼン殿下。料理ですと?そんなもので、貴殿は自らの妃を選ぶというのですか?」
「何を言っている、ファロス子爵、もちろんそれだけじゃないぞ?手始めというだけだ。ただ一つの分野において優秀なだけでは、妃候補など勤まらんだろう?」
彼の物言いには、フィリアオールも無言で頷いていた。
方法はともかく、このような選定は、おのずと行うものだ。むろん貴族らも何の準備もしていないわけじゃないだろう。まさか手料理を作らされるとは思ってもいなかっただろうが。
「貴殿らがそこまで俺との縁談を望んでいるんだ。今すぐにとは言わない。この貴族会議の間、俺に手料理を作ってもらう。あぁ、重いものはよしてくれよ?いったいいくつの料理を食べることになるかわからないからな。」
かくして、異例中の異例で、次期王妃の選定試験が始まってしまったのだ。




