アルの無茶振り、その1
「あなたもそんな顔することもあるのね。」
あの自由人の愚行に、思わず素の反応をしてしまっていたようだ。
「っ、失礼しました。それで、殿下は?」
「別の部屋に待機させているわ。まさかあの子が、ここまで後先考えていない子だとは思ってなかったわ。」
アルハイゼンは、私といる時こそ、自由人としての振る舞いをしているけど、普段からそういうわけではない。次期国王たる自覚はあるようだし、客観的に見ても彼はその才能を惜しみなく帝国のために使っている。だから、まさかそんな後先考えない言動を取るとは、思えないのだけど・・・。
普段の彼を知っている身としては、ありえない話ではない。けど、周りに迷惑をこうむるのだけはごめんだ。
「はぁー、殿下と、少し話してきます。」
「あっ。待ちなさい、ロウ。その前に会場での騒ぎを、どうにかするのが先です。」
「どうにかなるなら、フィリアオール様がしてるんじゃないですか?」
だから私が呼び出されたんだろうから、今出ていったところで、彼女が質問責めにされるだけだ。なら、まだ名は知れてても、王子殿下との関係が知れていない私なら、まだ自由に動ける。地味な格好で来たのも功を奏したようだ。
「とにかく、殿下に真意を聞いてきますので。解決策はそれからにしましょう。」
「はぁ。あなた、案外図太いのね。私を前に大した度胸だわ。」
自他ともに認める傲慢は伊達じゃない。もとより、これが私の生き方だ。解決すべき目標を見定め、どんなに腹黒い手段だとしても、それを成しえる。過程はそれほど重要じゃない。
今一番に優先すべきことは、大会場で騒ぎ立てている、貴族たちをなだめられる材料を用意するか、彼らが納得のいく方法で落ち着かせなければならない。できることなら、アルハイゼン本人がその策を考えていてくれることを願うのだが。
私は彼が控えているという会場の離れに行った。そこには、呆れた様子の侍女と、平然とした彼の姿があった。
「ロウ、どうした急に?」
「はぁー、どうしたじゃありません。あなたという人は、またしてもやらかしてくれましたね。」
「あぁ、外の連中のことか?俺は、事実を言っただけなんだがなぁ。」
お茶らけているのか、それとも天然なのか定かではないが、とりあえずふざけていることはわかったから、彼の両頬を力いっぱいつねってやった。
「い、痛い。痛いぞ、ロウ。」
「痛くしてるんだから当然です!」
後ろで侍女があわあわとして、私の行いを止めようとしていたが、例え国王の制止だろうと、私は止めなかっただろう。上下左右につねってやって、ようやく私の気は済んだのだけど、何も問題が解決していない。この男に八つ当たりしても、事態は何にも進んでいないのだ。
「いったいどうするおつもりですか?」
「どうって、どうにでもなるだろう?」
「・・・王家とオーネット家の縁談が破談となったことが、既に知れ渡っていることには驚きましたが、これほどまでに多くの貴族が、リンクスの血を求めているのです。通例であれば、次期王妃候補は、厳粛な選定の元、最長数か月にも及ぶ審査を、王家と帝国議会が行うはずです。一件一件国王、王妃、そして王子が宴会を行い、当人同士の相性や、妃側の素質、才能を見極めるためです。」
次期王候補が優秀であればある程、王妃に求められる基準も引き上げられる。この巨大な帝国を導くに相応しい人物かどうかを、慎重に選ばなければならない。
「少なくともシルビア嬢はそうやって選ばれたはずです。ですかそれは、貴方の我がままによって、破談となった。それに関しては、私も思うところはありますが、気にはしません。あなたが私を選ぶというのなら、喜んで受け入れましょう。ですが、まだそれは公になっていない話です。そんな中で、既に婚約者が決まっているなどと口にすれば、王家が単独で次期王妃候補を見定めたと思われても言い訳はできません。」
だからこそ、会場の貴族たちは騒いでいるのだ。王家の、ひいてはジエトに対する信頼に関わる話だ。王に対する不満や信任が薄くなることは、政にも影響するだろう。何より、この事態を聞いた帝国議会や、他の帝国王族が、なんというか。事と次第によっては、王国の内部分裂につながるだろう。
仮にそういった事態にならなかったとしても、王子であるアルハイゼンが収拾できる事態ではない。
「だ、大丈夫だって。俺も無策なわけじゃないぞ?」
「なら、どうやってこの騒ぎを収めるおつもりですか?」
「貴族たちが騒いでいるのは、王家が、俺の許婚となる相手を勝手に決めてしまったことだ。次期国王の妃は優秀な人物でなければならない。今、それに対して反発しているということは、自分の娘が、それにふさわしい人物だと思っている連中だろう。手塩にかけて、育ててきた自慢の娘を、妃となる選抜にすら扱われないことに憤慨しているんだ。だったら、話は簡単だろう?」
「・・・・・・それは、・・・つまり。」
「あぁ、証明してやればいい。お前が、帝国の全ての令嬢の中で、一番優れているということを。実力主義の帝国においては、それで全てを黙らせることが出来る。お前が一番得意とする手法だろう?ロウ、お前が一番、俺の妃にふさわしいと、この場で示してやれ。」
・・・とりあえず、私は、彼の頬を再び力いっぱいつねってやった。




