魔を狩る者
今更ですが、全然政略結婚とか、そういう話をしてなくて、タイトル詐欺してることに気づきました。。
帝国全土の支援を得るという大きな仕事を終え、挙句ジエトたちとの戯れをどうにかやり切り、ようやく帰れると思っていたのに。
「あら、こんな時間にどこへ行かれるのですか、傲慢なお妃さま?」
「っー・・・。」
思わず足を止めてしまって、私はすぐに後悔した。こんな人に構っている時間はないというのに、無視して通り過ぎるつもりだったのに、安い挑発に乗ってしまった。
「王子殿下に先立たれ、儚い令嬢を演じているつもりかもしれませんが、そんなんじゃ同情はされても、新しい殿方はやってこないでしょう。」
「ふーーーー。何をおっしゃりたいのですか?オーネット公爵令嬢、シルビア。」
「あら、呼び捨てだなんて、嫌われたものね。私とあなたの仲じゃない。もう少し心を開いてくれてもいいのではなくて?」
このねっちこいしゃべり方は、貴族に限ったものじゃない。女特有のものだ。女が気に入らない同性を煽る際に使う、女がめんどくさい生き物である理由の一つだ。前世でも、こういう奴は五万といたし、私自身もそういう一面がないわけじゃないことはわかっている。
けど、この女の声でこれをされると、腹の内がにたぎるような怒りを感じてしまうのだ。
彼女の名前はシルビア・オーネット・アルバトロス。帝国が誇る公爵家が一つ。オーネット家の長女で、現在19歳。二十歳になると同時に、彼女はオーネット公爵の爵位を受け継ぐことになっている。
本来、女が爵位を継承することはほとんどない話だが、彼女はその類稀なる才能と実力で、それを可能とした、いわば天才という奴だ。
実際、アルハイゼンの相手を巡って、最初の候補に挙がったのがシルビアだ。なぜ彼女が、妃の候補から外れたのかは知らないが、こんなきつい性格の女が妻になるのは、どんな男だっていやだろうさ。
「あなたと縁などありません、シルビア。それに、あなたと違って、殿方を物色するような趣味はございません。」
「ちっ、かわいくない娘ね。少しは慰めてあげようと思ったのに。聞けば、幾たびにも縁談を断っているそうじゃない?男を物色しているのは、・・・どっちかしらね?」
人の気も知らないで。好き勝手言ってくれるものだ。だが、ここでこんな女に時間を食っているわけにはいかない。今はとにかく、アダマンテ領へ戻らなければ。
「失礼、シルビア嬢。私、すぐにでも自領へ戻らなくてはいけませんので。」
「あら、そうだったの?呼び止めて悪かったわね。まぁ、どうせすぐに戦場で会うでしょうから、お互い、仲良くしましょうね、傲慢なお嬢さん。」
シルビアは、そう言って高らかに笑い声をあげながら去っていった。
「あんたも来るのね・・・。はぁ。」
(ていうか、情報早すぎるでしょう。ついさっき決まったことなのに。)
彼女は帝国王族ではなく、オーネット領の者だ。オーネットは帝国西部を領土とした一家で、今回の戦に兵力を投入する命令は受けていないはずだが。私的に騎士団を派兵するというのであれば、ありがたい話ではあるが、先が思いやられる。ていうか、なんで王城にいるのだろうか。
犬猿の仲、というわけじゃない。普通に嫌いだ。そもそも彼女とは生物としての相性が悪いのだ。その理由は、お互いの魔法特性にある。
アダマンテの血統のみが有する魔法、竜使いは、一般的に知られているのは、翼竜との意思疎通ができるというもの。意思疎通というのは、いわば、翼竜の言葉がわかるということだ。翼竜は言葉を発しないけど、どんな生き物にも、声は存在する。その声を認識できるのが、竜使いの力の一つだ。その気になれば、服従させることだってできるけど、私には、他種族を奴隷のように飼いならす趣味はない。むしろ、私にとって翼竜は、魔物であってもペットに近い存在だ。
それに対して、シルビアの魔法、オーネットの血統が持つ能力は、私から言わせれば横暴なものとしか言いようがない。滅尽。そう呼ばれている。他家の魔法特性なので、詳しく把握しているわけではないが、掻い摘んでいえば、人間以外の生物に対する特攻魔法だ。主に武器に纏って使われるエンチャント系統の魔法だが、その威力は対生物に対して無類の強さを誇る。強靭な肉体を持つ翼竜ですら、一太刀で首を墜としてしまうという。そしてシルビアは、その性格も相まって、いつも残虐に魔物を屠ってきたことから、魔を狩る者という二つ名がつけられているのだ。
あの性格悪悪女には、お似合いのあだ名だけど、魔物であっても、心を通わせることが出来ること知っている身としては、何でもかんでもぶった切ろうとする、彼女のやり方は気に入らないのよ。
本当に嫌いだ、あんな奴。