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ロードオブハイネス  作者: 宮野 徹
閑章
87/153

アルハイゼンとの逢瀬、その2

王城の最上階、泉の階。転移魔法によって呼び出された深水が溢れる台座には、かなり広い展望台がある。決闘するにはうってつけの場所だ。高所のため、いかんせん風が強いのが少々辛いけど。

天気は快晴だけど、耳元を駆け抜けていく風は、私とアルハイゼンの間に仄かな緊張感をもたらしていく。魔法決闘は、お互いの魔法力を駆使して力をぶつけ合う儀式なのだ。

魔法というものは本来、奇跡を起こすための手段として用いられてきた。だけど、力が強いものが生まれると、それがどのくらいのものなのか、人間は計りたくなるものだ。魔法を論理的に数値化するのは難しく、また、まだ一つの学問として確立されていなかった時代には、誰かと力くべをすることで、その大きさを図ってきたのだ。それによって生まれたのが、魔法決闘。

それは時代と共に、形を変えて、貴族の間における誇りを駆けた戦いになった。今これから行うのは、戯れという名の、プライドの勝負なのだ。



「ロウ。せっかくの決闘なんだ。何か賭けないか?」

「誇り意外に、賭けに値するものがあるというのですか?」

「そういう賭けじゃない。勝った方は、相手に何か一つ要求できるっていうのはどうだろうか?」

彼らしい提案だけど、生憎私は彼に求めるものはない。いや、戯れ程度のことならばいくらでも思いつくけど、たぶん、彼が言っている要求は、そんなつまらないことではないのだろうけど。

「いいでしょう。何があれ、負けるつもりはありませんが。」

「ふっ、そう来なくちゃな。」

何がそんなにうれしいのか。私が賭けに乗ると、彼の表情はぱっと明るくなった。まさか、帝国の王子ともあろう人が、よからぬことを要求してくることはないだろうが、自由奔放な彼の頭の中は何を考えているかはわからない。王子とはいえ、齢15の思春期真っ盛りな少年であることには変わりない。

「魔法種別は問わない。発動可能制限は2回まで。いいな?」

「承知しました。」

「よし、それじゃあ・・・。」

アルハイゼンは、懐から小綺麗な短刀を抜いた。あれは、短刀としての意味を成さない魔法触媒だ。リンクスの紋章が施された、現王家に伝わる儀礼剣だろう。

私も彼に続いて左手にアルハイゼンへと向ける。触媒の指輪がしっかりとはめ込まれていることを確かめた。

見た所、彼の儀礼剣に宝石にはめられている宝石は1属性のみ。火の属性の赤色の宝石だけだ。ただ、彼にはアーステイル家の魔法特性とリンクス家の特色を持つ魔法を持ち合わせている。前者については、知識としても聞き及んでいるけど、後者はまったくもって未知の力だ。大地の記憶(アーステイル)の亜種のような魔法だろうけど、とっさに対応できるかはやってみないことにはわからない。

使える魔法は、2階まで。しかし、私は5つの指輪すべての宝石に、魔力を込めた。

「おいおい、使える魔法は2階だぞ?決闘でのルール違反は、両者の誇りを侮辱するものだぞ。」

「もちろん。ですがまだ、私は魔法を1階も発動しておりません。何か問題があるでしょうか?」

触媒に魔力を込めただけで、決闘はまだ何も始まっていない。私が指にはめている触媒の属性は、水、雷、風、光、闇の5つだ。それのどれかから魔法を放とうという、ロシアンルーレット的なブラフだ。

「考えたな。だが、触媒を使った魔法での攻撃は大方想像がつく。直線的な放出魔法だ。アダマンテ家の魔法特性は、竜使い(ドラグーン)。この決闘では役に立たない。奇跡の申し子と呼ばれているお前にしては、やけに短絡的な判断だな。」

「力比べはお嫌いですか?」

「いいや。だが、俺も手加減はしない。思う存分やらせてもらうぞ。」

そういうとアルハイゼンは、無詠唱のまま右手を地面に付き、お得意の大地の記憶(アーステイル)で階の大理石を操りだした。

地面から無数の棘が浮き上がり、彼の周囲に連なっていく。何重にも盾となっていく。強度は大理石のままで、あそこまで流動的に大地を変形できるのは、さすがというべきだろう。

しかし、あれでは彼自身もこちらに攻撃は通らないと思うが。そう思った矢先、アルハイゼンは、さらに飛び出た大地を変形させ、彼の背後に巨大な大理石の蛇のような彫像を作り出した。もちろん、生きているかのように、動いている彫像だ。

「見事ですね。さすがはアーステイル家と言ったところでしょうか。」

攻防一帯の魔法。私が習得している魔法にはない強みだ。アダマンテ家が有する竜使い(ドラグーン)は、彼の言うように、私一人ではほとんど役に立たない。

だけど、奇跡の申し子と呼ばれているからには、そんな大地の記憶(アーステイル)に対抗できる魔法が思いつかないわけではない。その異名は、個人的にはあまり好きではないけれど、この第二の人生で、幼いころから取りつかれたように魔法の鍛錬を行ってきたからこそ、この状況も打開できるというものだ。

「巡れ運命よ。等しく今を不変のものと定めよ。時の円環(クロノ・エンツェオ)。」

詠唱に従って指輪に込められたすべての魔力が、私の眼前で渦を巻くように回り、不透明の空気のゆがみを作り出した。見た目は単なる風の盾なのだが、これはそんな軟な魔法ではない。

「くろの・・・なんだって?」

「手の内を相手に話すほど、私は優しくありません。この魔法で、アーステイル家の奥義を打ち破って見せましょう。」

「ふむ、俺の知らない魔法か。お望み通り、力比べといこうじゃないか。」

楽しそうなアルハイゼンが、その腕を振るうと、魔法によって生み出された大理石の蛇が私めがけて突撃してきた。私は左手をかざし、風の盾を構えた。

盾と蛇がぶつかり合ったとたん、まるで金属同士が擦れたように火花を散らして、左手を通して彼の魔法の重みを体感できた。しかし、蛇はすぐにボロボロと崩れてしまい、階の大理石に戻ってしまった。

「そんな小さな風の防壁で、大地の力に対抗するとは。いったいどんな種があるのやら。」

「・・・。」

アルハイゼンは、なおも不敵な笑みを浮かべながら腕を振り、再び大理石の蛇を生み出した。今度は5体も。

「・・・2回目の発動ですか?一辺倒では、貴方に勝ち目はありませんね。」

「お前のその魔法で防げるのは正面だけ、あるいは、盾がある方向だけだ。周囲からの一斉攻撃には耐えられないだろう?」

なるほど、考えたものだ。頭の回転の速さは、さすが次期国王と言ったところだろう。こちらの魔法の性質が理解できなくとも、対応してくるなんて。

だけど、それは私だって同じだ。何も考えずに戦いに身を投じているわけではない。

私は、勢いよく地面を蹴り、アルハイゼンに向かって駆け出した。

「なっ?」

5体もの蛇であれば、1点を取り囲んで集中攻撃することは可能だろう。だが、向かってくる相手に対しては、そうはいかないはずだ。正面から向かってくる相手を止めるために、蛇を背後に回らせる余裕はできない。

「これで決めます!」

「・・・ふっ、そうだ。来い!ロウ。」

アルハイゼンは、先ほど言ったように、蛇で私を取り囲んで一斉攻撃するつもりのようだけど、生憎私の魔法発動回数はまだ1回。そして、左手の触媒の魔力は一つだけ残してある。

大地の記憶(アーステイル)で生み出した彼を守る棘は、蛇に成り代わっている。彼の周囲は、今守りが薄い。正面から襲い掛かる蛇を盾で粉々にし、そのまま左手をアルハイゼンに向けて伸ばす、そして、詠唱もなしに氷柱を生み出そうとした。それを彼に放てば、勝負は決まる。・・・そう思っていた。

砕かれた蛇の向こう側には、アルハイゼンがすぐそこまで迫っていたのだ。おそらく、私が彼に向かって駆け出すのと同時に、彼も距離を詰めていたのだろう。

私はとっさにすべての魔法を解除して、その場で足を止めざるを得なくなった。アルハイゼンとの距離は、1メートルほどにまで狭まっていて、彼は急に止まった私を抱き留めるようにして受け止め、周囲を残りの蛇で囲んできた。

「・・・・・・。」

「俺の勝ち、でいいよな?」

「・・・・はぁ。そうですね。私の負けです。」

どうやら完敗のようだ。何せ彼は、私の魔法がどんなものかを冷静に分析していたのだ。そして、それ以上に私のことを理解していた。わかっていたからこそ、それを逆手にとってきた。

そう、彼は初めから私が勝つ気がないことを見抜いていたのだ。

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