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ロードオブハイネス  作者: 宮野 徹
第四章 反逆する貴族と世界の脅威
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蝶となった人々

鱗粉に対抗する魔法を施されたからと言って、変な色の粉が舞う中へ入るのに、抵抗がないわけじゃない。物理的にも髪や礼服にまとわりつくそれを、永遠と払いながら進むのは、なんとも言えない気持ち悪さがあった。


ピスケスの上空、魔獣の腹の下あたりまで来ると、昼間だというのに、街は暗く闇に包まれていた。鱗粉が光を遮っているせいもあるだろうが、魔獣のサイズが大きすぎる。体の影だけで、街全体を覆いつくすほどの巨体なのだ。いったいどこから攻め崩せばいいのだろうか。


とはいえ、それよりも先に、街の状態を確認しなければいけない。どんな地獄絵図がそこにあるのかを。

地上を見ると、既に領域魔法に守られた魔導師団と騎士団がピスケスの正門へと辿り着いていた。アレンは彼らの上空を悠々と飛び越え、ようやく城下街の真上へとやってきた。そこにいたのは、人の姿をした、人間ではない何かだった。


「―――まさに地獄絵図だな。―――」


アレンはそういうが、その光景を見た私は、言葉が出ず、思わず唾を飲み込んでしまった。それが全部魔獣の鱗粉のせいだというのなら、納得することはできても、それを受け入れられるほど軟なものではなかった。


シンプンに包まれた人々が、背中から魔獣と同じ蝶のような羽が生えていて、、意味もなく建物に群がっている。まるで光の集まる羽虫のように。


魔導師団らがこれから突破しようとしている正門前には、そんな人々が武器を持って構えている。おそらく、領城に残っていたオーネットの騎士団だろう。


「人が、・・・蝶みたいに・・・。」


信じられない、というより、起きてしまったことの重大さに驚きを隠せなかったのだ。人ならざるものへの転化は、自分自身が似たような現象になっているから、今更気にしないけど・・・。


「魔獣が引き起こす被害は、想像を遥かに超えるようね。」

「―――もともと俺が持ちかけた問題だ。・・・ここまで大きくなるとは思っていなかったけどな。―――」

「ごめんね、貴方からしたら、すぐにでもあれに飛び掛かりたい気分でしょうけど、その前に住民をどうにかしないと。」

「―――わかってる。俺も無駄な人死には起こしたくない。人命最優先で行こう。―――」


とはいえ、ピスケスに住む住人の数は、万で片付く数ではない。上にいる魔獣のせいでその大きさが霞んでしまうが、ピスケスはオーネット領の中で1、2を争う大都市。魔導師団が全ての住人を救い出すのに、どれほどの時間がかかるかわからない。


そもそも、彼らを救えるかどうかもわからない。あれが、体に取り込んでしまった魔力の物質化による現象なのだとしたら、それを解く術は、私にもまだわからない。それはフロストとて同じこと。そもそも魔力の物資化は、一般的に周知されていない技術だ。フロストがそれを知っていたとしても、他の魔導士たちは存在すら知らないだろう。


そうやって考えているうちに、地上の部隊は正門を力ずくでこじ開け、正門前に集まっていた騎士団と邂逅した。そして、予想通りに、彼らは動き出した。


とても人間の動きとは思えない歩き方で、蝶化した騎士団は、魔導師団の巨人に襲い掛かってきた。私は思わず舌打ちを漏らしてしまって、すぐに光魔法で後退するよう指示を出した。だけど、この鱗粉のせいなのか、光は発せられたものの、地上には届いていないようだった。


瞬く間に正門前は戦場と化し、一番最悪の事態となってしまった。


「―――どうするんだ?味方同士で戦いになってるぞ。―――」


急に襲い掛かられた魔導師団は、本格的な反撃は行っていないようだが、あれほどの規模の数を、魔法で解呪しながら戦線を維持するのは、ほぼ不可能だ。下がらせようにも、後ろからウンウォルと騎士団が詰め寄っているから、すぐには下がれないし、下がれという指示も、聞こえもしないし見えもしない。


「アレン、正門前へ降りて!」

「―――何する気だ。―――」

「私が囮になるしかないでしょ。」

「―――なっ!?何万人いるんだ、ここに。逃げ切れるわけない。第一、目の前の魔導師団に向かっているのに、どうやって目を引くつもりだ?―――」

「考えがあるの。あの魔獣がなんの魔物かはわからないけど、虫や蝶の類ならやりようがあるはず。」


用は強い光や熱に引き寄せられるはずだから、それを構えたまま、ピスケス内部へ逃げ込めばいいのだ。


もっとも、街の中も住民たちが同じように蝶化していて、襲い掛かってくるかもしれないが、白翼の悪神(ライア・カハネ)で逃げ回れば、どうにかなるはずだ。


あの禁術は長く使用し続ければ、体に負担がかかりすぎる。私が魔法を維持していられるうちに、どうにか魔導師団に解呪を進めてもらえれば、最小限の犠牲でこの難局を乗り越えられる。


・・・少ない犠牲、という、妥協案であることには、どうしようもないが。誰一人死なずに超えられるほど、低い壁ではないだろう。それに、もし本当にどうにもならない局面であるならば、その時は、全ての責を負う覚悟はある。


「―――本当にやるのか?―――」

「ええ。あなたは、上空で飛び回って、少しでも鱗粉の量を減らして。」

「―――・・・・・・わかった。―――」


アレンの沈黙は、何かを考えていたのか、それとも他にやりようがあるのか。あるいは、全てを葬ることで問題を解決しようとしたのか。なんにせよ、それを彼には頼めない。魔獣を倒す云々は、確かに彼からの依頼だけど、彼に帝国の臣民の命を背負わせるわけにはいかない。


私は刺剣を抜いて、剣に魔力を集中させた。


「汝、夜よを照らす白の神。光あるところに汝あり。その輝きは、遥か彼方、星より継ぎし威光なり。我、今汝を権能をこの身に宿し、その威光を体現せし者となろう。白翼の悪神(ライア・カハネ)!」


詠唱完了と同時に、全身が魔力に包まれ、体が浮かび上がろうとする力に包まれる。しっかりとアレンの背に捕まりながら、人々が集まっているど真ん中へ急降下した。


「―――気を付けろよ。―――」

「ええ。あとはお願い。」


可能な限りの初速をアレンからもらい、ぱっと手を離して、空へ体を投げ出した。真っ逆さまに地面へと突っ込む最中に、翼を使って姿勢を制御して、魔法で減速を起こした。そのまま小指の白い指輪に魔力を込めた。


「虹の結晶よ集え、世は祭り、静寂を取り払わん!蛍火の宴(オーラント・フライ)


閃光が指輪から放たれて、鱗粉が舞う中でも辺り一帯に影を作る程の明かりが、私の手に宿った。これでどうにか、注意を惹きつけて・・・。


思った通り、彼らの視線を一点にくぎ付けにすることが出来た。魔導師団と交戦をしていた者たちまで、一斉に私めがけて駆け始めた。まるで濁流のように土煙をあげながら、人々が私の元へ集まってくる。空を飛んでいなければ、陸上では逃げ場がなくなるほど、蝶化した人々が集まってきた。


正門の方では、やっと魔導師団が街の中へ入ってきたところだ。戦闘でフロストが事態を察して、魔導士たちに指示を下していた。


話が早くて助かる。私は指輪を光らせながら、ピスケスの街の方へと、飛んでいった。つられて彼らも飛んで・・・・・・飛んで!?


「噓でしょ!?」


飛ぶ速度こそ、白翼の悪神(ライア・カハネ)には及ばないけど、下手をすれば空中にも逃げ場を失う。それに、あまり高くへ逃げすぎると、地上からの魔法が届かなくなる可能性も。


それでも、今足を止めるわけにはいかない。可能な限り高速で、空中を飛び回るしかないのだ。




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