魔獣の鱗粉
騎士団と魔導師団が陣を構えている場所へは下りずに、光魔法をを使って暗号でやり取りをした。現場にはフロストがいるはずだから、私が龍であるアレンに跨っていることは理解できたはずだ。
やはり、騎士団たちはあの怪物を前に攻めあぐねている様子で、大気中をまうこの鱗粉にも、足止めを食らっているようだ。どうにかして、この鱗粉を一時的に吹き飛ばして、街の中へ突入できればいいのだけど、魔獣はあまりにも大きすぎて、鱗粉が舞っている範囲が広すぎる。魔法で同行できる規模ではないし、仮にできたとしても、継続的に鱗粉は降り注いでいるから、根本的なことを解決しなければ焼け石に水だ。
そもそも、この鱗粉が人間にどんな影響を及ぼすかさえわからない。決死の覚悟で、私たちが確かめるべきだろうか。
「―――俺たちが囮になって、どこかへ誘導するか?―――」
「ダメよ!今でこそ、ピスケスの周りだけに留まっている鱗粉が、そこら中に広がっちゃう。せめて、これが何なのかだけでしれれば・・・。」
可能性としては二つの者があると考えている。一つは、単純な毒粉。いわゆる化学物質だ。人体に置く影響を及ぼすもの。昆虫が毒を持っていることなんて珍しくもない。一番現実的な可能性だ。もう一つは、この鱗粉が、あの魔獣の魔法である可能性。この世界、異世界らしい考え方だが、根拠がない。魔獣がタイタンネストで、いや、そうでなくとも邪龍とやらの力で魔法に目覚めている可能背もなくはない。そう出れば、対処法もあるのだが、確かめるにはやはり実際に体で確かめるしかない。
「・・・アレン。鱗粉の中へ入りましょう。」
「―――入ってどうなる?猛毒の類だったら、そこで終わりだぞ!―――」
「魔導師団の元へ行けば医術士か医療術士がいるはず。毒であれば、吸ってすぐ死に至るわけじゃないわ。もし魔法であったのなら、貴方の体で確かめられるでしょう?」
龍族は、自身以外のあらゆる魔法を打ち消してしまうという特性を持っている。今までも何度か経験したからわかるが、アレンの体があの鱗粉に触れれば、魔法かどうかはすぐにわかるはずだ。
「―――そういうことか。無茶な考えだな。―――」
「無茶でもなんでもやるしかないの。行って!」
私が意を決して叫ぶと、それに呼応してアレンは、翼を折りたたみ滑るように鱗粉が舞う中へと入っていった。
入ってそうそう、喉に何かがつっかえるような息苦しさが襲ってきたが、生命活動に使用をきたす以上は感じられなかった。そして、案の定、アレンの体に触れた鱗粉は、空気が破裂するようなぱちぱちとした音をまき散らしながら、消えていった。アレンが通った空路が、まるで浄化されて行っているようだが、鱗粉の総量が多すぎて、すぐに鱗粉まみれになっていく。
「こっほ、こっほ。やっぱり、魔法みたいね、これ。」
「―――あんまりしゃべるな。すぐに抜けるぞ。―――」
アレンは急旋回して、鱗粉の中から飛び出た。綺麗な空気に出てみると、まるで花粉のように粉が礼装にまとわりついていて、それのせいなのか、意識がぼんやりとしてしまっている。犬みたいに体をぶるぶる左右に振って、振り落としても、意識の回復は見られない。そういう類の魔法だろうか。
「・・・我が身に憑りつく、邪悪なる魂魄を払いたまえ、霊子解放。」
自分に霊子解放の魔法をかけると、喉の奥の方から、何かが這い出るような感覚がして、咳と共にそれを吐き出した。あの数秒の間でも、やはりかなりの鱗粉を吸い込んでいたようで。それだけで、意識が朦朧としてしまったのだろう。
「はぁ、はぁ、厄介ね。アレンは、なんともない?」
「―――あぁ。あんたの予想通り、あれは魔法みたいだな。―――」
あのまま鱗粉を吸い続けると、おそらく意識を失うか、あるいは、意識そのものを奪われてしまう可能性もある。まずはあの魔法をどうにかしないといけないようだ。
「フロスト様に、領域魔法を展開してもらいましょう。」
「こんな広範囲に、展開できるのか?」
「・・・わからない。だけど、今あの魔獣と正面からやりあうには、鱗粉を吸っても正常な状態を維持できないといけない。誰かが意識を失って、それを助けようとまた誰かが意識を失うみたいな、面倒な事態になってしまう。」
おそらくピスケス内部は住民は全員、眠らされているのだろう。これだけ高密度の魔法に晒されていては、無事かどうかも危ういだろう。
「―――あんたの魔法で、どうにかならないのか?―――」
「私の?なんの魔法よ。」
「―――あの火の魔法とかでだよ。あんたは、この国でも随一の魔法の使い手なんだろう?手っ取り早い魔法はないのかよ?―――」
「・・・。」
アレンにそう言われて、私は思いを巡らせてしまった。彼の言うように、力技でどうにかする方法がないわけじゃない。だけどそれは、・・・中にいる臣民たちにも、被害を及ぼしてしまう可能性があるのだ。
「あるわ。あるけど・・・。うまく、行かないと思う。」
「―――でも、迷っている時間もないんじゃないか?―――」
「そうじゃなくて、中にいる人にまで被害が出るからとか、そういうんじゃなくて・・・・。」
被害、という言葉では説明しきれない。正確には、何が起こるかわからない、と言った方が正しいだろう。滅びの真炎、白翼の悪神、彼の禁書から読み解くことが出来た3つの魔法の内の最後の一つ。それが、私にとっての最大の切り札だ。だけど、禁書に書かれていた内容では、きっとすべての人間を救うことはできない。たぶん、そういう魔法なのだ。私は、その内容の恐ろしさゆえに、まだ一度も、その魔法を使ったことはない。
「・・・それをやるくらいなら、貴方が息吹で片っ端から焼き払っていった方がいいわ。」
「―――そりゃかまわんが、俺も無暗に人間を殺めるのはごめんだ。―――」
「なら、やっぱり、フロスト様に任せましょう。領域魔法を展開できれば、中に入って状況もわかるし。」
「―――はぁ、わかったよ。そうするとしよう。―――」
アレンはそういうと、魔導師団の駐屯地へ進路を変えてくれた。でも、なんであんなこと聞いてきたんだろう。私ならどうにかできるって、確信でもあったのだろうか?




