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ロードオブハイネス  作者: 宮野 徹
第四章 反逆する貴族と世界の脅威
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魔獣登場

真新しい礼服に身を包み、刺剣、指輪、左腕の包帯の感触を確かめて、私はアレンの元へ戻った。


彼は堂々と翼竜たちが使う厩舎で、龍の姿のままとぐろを巻いてくつろいでいた。いや、ちょっとくつろぎ過ぎな様な気もするけど、厩舎の管理人もちょっと呆れているようだ。


「相変わらずね。」

「―――ん?新しい服だな。お偉いさんにでも会うのか?―――」

「違うわ。そういう意味の礼装じゃない。」


旅服の方が、身動きとりやすいし、個人的に好みではあるけど、今は立場を優先させなければいけない。


「―――どこへ行くんだ?―――」

「オーネット領へ。ピスケスの様子を、確かめに行くわ。」

「―――了解。―――」


とぐろを巻いていたアレンは、体を起こすと、厩舎を壊さないように、ゆっくりと進み出た。相変わらずその大きさには圧倒されるが、こうして間近で見ると、やはり恐ろしいものだ。


尻尾を伝ってアレンの背中に乗り移り、左手で彼の背中の大きな甲殻を掴んだ。アレンが大きく翼をはためかせると、体が重力に逆らう感覚がしてすぐ、私たちは空へと舞い上がっていた。




風を切る笛のような音が、耳元をつんざくように通り過ぎていく。こうしてアレンの背に乗った空の旅も、もうどれくらいしただろう。彼の背中は翼竜ほど安定して乗れるわけではないから、快適さは全くないけれど、やはり空の道のりは、世界を俯瞰して見れるから、心を落ち着かせるのにちょうどいい。


「―――あんた、珍しく思い詰めてるな。―――」

一人で髪を風に靡かせながら、ぼーっとしていると、アレンが器用に首だけをこちらに向けて話しかけてきた。

「そう?別に、何か考えているわけじゃないんだけど・・・。」

「―――オーネット領、だっけか?そこで大きな戦いがおこっているかもしれないんだろう?―――」

「うん。魔法師団が、うまく対処してくれるといいんだけど。」


現場へは、ウンウォルとフロストが直接向かっているし、魔法師団の力をもってすれば、強固な領域魔法であっても対処は難しくないだろう。ピスケスが私の予想通り、魔法による制圧をされているのなら、解呪を施すことで解決できるはずだ。


「あなたにも、これから悪いことするかもしれないし。」

「―――俺が?―――」

「ええ。例えば・・・、街を焼き払ったりとか。」

「―――おいおい、随分物騒だな。本気でそんなことする気なのか?―――」

「さぁね。わからないわ。・・・行ってみないと。」


あくまでオーネット領へ向かうのはついでだ。特に大したことがなければ、一度王城のジエトへ、ハートから聞き出した情報を共有し、そのまま私もクルルアーンへ向かうつもりだ。エルザが先発して、状況を見ていてくれているだろうし。


ただ、今一番恐れているのは、黒幕が見えないところで悪事を働いていないかということだ。私が狙われ、次にオーネット家が狙われ、その次は?あの、宣戦布告をしてきた男が、誰を手にかけてもおかしくない状況だ。事情を伝えたのはクリスハイトのだけだし、彼ならジエトやフィリアオールを守ってくれると信じているが、狭い城の中は緊迫しているだろう。


もうそろそろ、ピスケスの上空へ辿り着くという頃に、アレンが何やら匂いをしきりに嗅ぐような仕草をし始めた。


「どうしたの?」

「―――・・・嫌な匂いだ。―――」

「匂い?」

「―――あぁ、血と・・・邪龍の匂いだ。―――」

「邪龍!?」

「―――ロウ、近くに魔獣がいるかもしれない。―――」


いるかもと言われても、ここは高度1000くらいはある上空だし、地上を見たって何かが見えるわけでもない。だけど、ピスケスの街並みが見え始めると、その光景に背筋が凍てしまった。


「・・・何?あれ・・・。」


虫か、アメンボ、あるいは足がやたらと長い蝶か。とにかく、巨大な生き物が、その六つの足でピスケスの街並みを覆うように立っていた。足の長さだけで、200メートルはありそうで、それで支えている胴体はさらに大きい。


蛾や蝶が巨大化したような生物が、そこにはいた。今まで見た生物の中で、最も巨大な生き物だ。胴体の背中から生えている、2対の羽は、色味を気色悪くしたオーロラのように光をうねらせている。頭と思われる部分は、虫特有の複眼となっていて、見ただけで寒気がするようだった。


「あれが・・・魔獣?」

「―――時間が経ってしまったからな。こういうこともあるとは思ってた。奴の背中の角を見ろ。―――」


アレンが蝶のような生物の背中を見やすいように、ピスケスの上空を飛んでくれた。そこには、かつてヘラクレスにもついていたあの棘のような角があった。


「―――あれが魔獣の証だ。―――」

「なんなのよ!あの大きさ。街よりも大きいじゃない!」

「―――あの角に侵されると、邪龍の力で巨大化したり、狂暴化したりするんだろう。―――」


冗談じゃない。じゃあ、オーネット領での一連の騒動は全部、あの魔獣が引き起こしたとでもいうのだろうか。いや、それはおかしい。あんな巨大な生物がいるのであれば、ウンウォルは王城へ来る前に気づいていたはずだ。それとも、たった数日のうちにピスケスを根城にしてしまったとでもいうのだろうか。


魔獣に近づくと、何やら怪しげな砂のような粉末が大気中に漂っていた。おそらく魔獣の羽から落ちている鱗粉的なものだと思うが、いかにも毒々しい。


「これ、吸って大丈夫かしら?」

「―――奴の羽よりも高度を上げる。それまで息を止めていろ!―――」


アレンの指示通り、その場で鼻をつまんで、彼の背中をしっかりと掴んだ。猛スピードで上昇したため、少しめまいがしたけれど、弱音を吐いている暇はない。高度を上げてその光景を見渡すと、遠近感が狂ってしまって、信じられない光景だった。


望遠魔法を使って、王城から遣わされた騎士団と魔導師団がどこにいるのかを確かめた。こんな怪物が、いれば、むやみやたらとピスケスの街に近づいたりはしないだろうが。


「いた、あそこ。」


私が彼らの駐屯地らしき場所を指さすと、アレンはその方向へ向かって進路を取った。なるべく魔獣の鱗粉が降り注いでいるあたりを通らないように、そして、魔獣本体に見つからないように。奴がどうしてこんなところにただ突っ立っているのかは不明だけど、こんな化け物を相手にするのに、さすがに私とアレンだけでは骨が折れる。騎士団や魔導師団と連携を取らなければ。


とはいえ、こんな巨大な敵を相手に、いったい何ができるというのだろうか。


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