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ロードオブハイネス  作者: 宮野 徹
第四章 反逆する貴族と世界の脅威
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敵を知る

アレンの飛翔速度は、翼竜よりも快速だった。夜のうちに王城を飛び出したけど、朝日が昇る頃には、テムザの街上空へ辿り着いていた。


「―――このまま降り立っていいのか?」

「ええ。テムザの人たちは、翼竜が城に降り立つのを見慣れているから、気にする必要はないわ。」


仮に怪しまれたとしても、市民は領城へは来れないし、来たとしても門前払いするのが慣習だ。


アダマンテの領城の翼竜を管理している厩舎へ降り立つと、管理をしている城の従士が、驚いたような顔をしていたけど、私の姿を見つけると、彼はアレンに臆することなく傍へ近づいてきた。


「おかえりなさいませ。ロウお嬢様。」

「ご苦労様です。ハイゼンはどちらに?」


「従士長でしたら、今日も執務室で、総務に取り掛かっております。


彼に礼をいって、アレンもすぐに人の姿に成って付いてきた。翼竜だと思っていたのが、人の姿に成るのを見て、管理人は驚いていた。彼の事情も後で伝えておいてやらねば。これからは、幾度もアレンに世話になるだろうから。


アレンには別邸の方で休んでもらうことにして、私は城の執務室へと急いだ。ノックもせずに入ると、以前と変わらない様子のハイゼンが卓に付いていた。


「お嬢様。おかえりなさいませ。」

「ただいま。ハイゼン。城は変わりありませんか?」

「ええ。みな息災で、懸命に務めを果たしてくれており、わたくしもどうにか留守を預かれております。」

「それはよかったわ。早速で悪いんだけど、例の刺客について、情報を聞きたいの。」


私がその話を切り出すと、ハイゼンの表情がきりっと険しくなった。


「お嬢様、それに関してですが、・・・」

「何かわかったの?」

「・・・とにかく、実際に見ていただいた方がよろしいかと。」


すぐに確認するため、ハイゼンと共に、領城の独房へやってきた。監視役の騎士見習いがきれいな敬礼をする脇通り、件の刺客は鎖に繋がれていた。体にあざなどの痕跡はないが、おそらくハイゼンが得意とする、香による意識操作を行ったのだろう。独特な香りが独房に充満していた。


ある特定の匂いを嗅がせることで、人の意識を強引に引き出すというものだ。人体への悪影響を及ぼす、いわば薬物を使用しているため、危険な方法だ。彼女の様子は、いかにも尋問をされた後の様子で、酷く泣いた跡が頬に残っている。手段を選ぶなと言ったのは私だから、今さら同情などはしない。


襲われたときはあまりわからなかったけど、かなり若い。私と大して変わらないのではないだろうか。体つきも人を殺す暗殺者の者ではなく、どこにでもいそうな平凡な筋肉をしている。鍛えあがられたような跡はなく、おそらく捨て石なのだろう。


ハイゼンは一人、独房の中へ入り、片腕をあげて、そのわき腹にある傷跡を見せた。


「それは?」

「はっ、わたくしは貴族の出身ではないので、魔法に関しては知識でしか知りえていないのですが、これは、医療魔術を施した後だそうです。」

「医療魔法・・・。」

「はい。本人にも問いただしたところ、心臓の移植を行われたようです。」


医療魔法とは、治癒魔法とは違う。治癒魔法は基本的に外的損傷を直す魔法だ。切り傷や欠損した部位が残っていれば、くっつけるなど、そういった外傷には効果がてきめんだ。しかし、多量の内出血や、内臓の損傷などには効果が薄い。治癒魔法の欠点として、損傷部位を直接触れていなければ何らいという制約があるからだ。故に、体の内部で起きた外傷には、治癒魔法で対処できないのだ。


それに、そもそも内臓が悪くなったり、病気にかかったりすると、治癒魔法では全く意味がなくなる。そのため、前世でも存在した医療を主な目的とした魔法が開発されたのだ。


「それが、どうかしたの?」


魔法自体、使える者は限られているというのに、医療魔法になると、習得している人物は帝国にも数少ない。彼女はその使い手ということだろうか?


「は、この娘、貴族の出身ではないそうです。この娘が言うには、心臓を移植され、それから魔法を使いこなせるようになったと言っていました。」


心臓の移植によって、魔法を発現した?


「・・・その子は、平民の出なのね?」

「はい。出身は、霊峰のはずれにある、クルルアーンだそうで。」


霊峰の外れ、クルルアーン。グランドレイブ山脈の南側の麓にある、辺境の街、いや地域と呼ぶべきだろう。そこにあるのは、帝国で最も貧しいとされている巨大なスラム街。1世紀ほど昔、クルルアーンというアーステイル家の分家があり、その一族が治めていた地域だ。帝国1300年の歴史の中でも最大の悪歴と言われるクルルアーン家の台頭は、帝国の人間であれば、知らぬ者はいない。


「・・・その子に忠誠心はあるの?」

「そこまでは。ただ、雇い主に関しては一向に口を開こうとしないので。」


何がそこまで刺客の心を惹きつける?こんな目に合ってまで、上の人間を庇う理由はいったい何だろうか。私は彼女と直接話をしていないから、どういう子なのかすらわからないけど。仮に私が、彼女に餌を与えれれば、この子の忠誠はこちらに向くのだろうか?


「話はできるの?」

「・・・起きなさい。話せるか?」


ハイゼンが頬を軽くたたくと、少女は呻き声をあげてから、その目を開いた。その目の色を見ただけで、ついため息を漏らしたくなった。赤い瞳。クルルアーンの被害者である証拠だ。


「誰?」

「あなたが殺そうとした人よ。あの時はどうも。安心して、今さらあなたを咎めることはしない。」

「・・・ごめんなさい。」

「え?」

「・・・あなたを殺さないと、生きて、いけなかった。」

「・・・はぁ。いいわ。あなたに聞きたいことがあるの。」

「・・・答えないと、ダメ?」

「なら、逆に答えられない理由を聞いてもいいかしら?」


雇い主に脅されているのか、それとも本当に忠誠心があるのか。この子はまだ子供だ。付け入られる隙はいくらでもあるだろう。


「・・・あなたを殺せば、お金が手に入った。殺さなければ、みんなが、貴方を殺しに行くから。」

「みんな?」

「村の、みんな。私よりも、小さい子供たち。心臓を移植されて、戦士にされる。」

「心臓を移植されて、戦士にされる?」

「魔法の力、移植されると、それが・・・ゴホッゴホッ。」

「・・・。」


それっきり、彼女はせき込んでまともに話が出来る状態ではなくなった。


「病気?」

「いえ、・・・おそらくですが・・・。」


心臓の移植による副作用。この世界の人間に、血液型というものがあるのかはわからないけど、人間にも種類があるだろう。それを気にせず、とにかく目的のために心臓を移植されれば、体に支障が起きてもおかしくない。支障だけでなく、寿命を縮めている可能性だってある。もっとも彼女は、そんなこと考えもしなかっただろうが。


心臓を移植した目的だが、以前ジエトの元で実験したことと同じだろう。敵は、臓器移植によって魔法特性の継承をやってのけたのだ。


「・・・・・・・・・・ハイゼン。医術士の手配を。」

「!?よろしいのですか?」

「ええ。私の別邸のほうで軟禁してください。」


このまま独房で繋げておけば、近いうちに彼女は息を引き取るだろう。そうなっても、私は一向にかまわない。自領の民でもないし、自分を殺そうとした者だ。だから、これは同情ではない。この子から可能な限り情報を搾り取るための、延命させるのだ。


「・・・かしこまりました。お嬢様の仰せの通りに。」




ライラにも頼んで、彼女の面倒はメイドたちに任せることにした。衰弱した彼女を見たライラは、まるで我が子のように、彼女のお召し変えをしたり、食事を取ったりさせていた。


「らしくないな。同情なんて。」

「ううん。違うわ。あの子に死なれちゃ困るから。」


別邸で休んでいたアレンに、釘を刺されてしまった。


「あんたの性格なら、問答無用で切り捨てていただろうに。」

「・・・そうね。」


彼の言うことは間違いない。例えどんな理由があったとしても、彼女は罪人だ。その矛先が私だろうと、父だろうと、臣民だろうと、殺人を犯そうとしたのだ。本来なら彼女は罰せられなければいけない。けれど、それを差し置いても、今は事件の解決へ向かわな変えればいけないのだ。



読んでくださり、ありがとうございます。

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