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ロードオブハイネス  作者: 宮野 徹
第一章 魔物の大侵攻
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ジエト三世

グランドレイブ山脈。それは、帝国において古くからこの地に聳え立ってきた霊峰であり、帝国の中心地でもある。山脈の一番高い山、エクシアさんの頂上には、帝国の象徴たる王城が聳え立っている。


高度は、約2ルクス。富士山よりは低いが、山脈であるため、山の大きさは富士山の比ではない。もし明るい時間に来ていれば、前世の世界ではお目にかかることのできない絶景を見ることが出来ただろう。しかし、正午くらいに出発したから、すでに日が沈み暗くなっていた。


とはいえ、夜は夜で山脈には、イルミネーションのように煌びやかな明かりがまとわりついてる。山脈には王城を含めた九つの城が建てられているが、その城それぞれに城下街があり、また、それ以外にも小さな町が点々としている。クリスマスツリーならぬ、クリスマスマウンテンといったところだろう、季節外れだけど・・・。


王城の高さへ生身のまま上るのは、結構体力がいるものだ。地上よりも空気が薄いから、翼竜の背に乗っているだけで肺が締め付けられるような感覚になる。風を切っているせいで気温は真冬のように寒い。しっかりとした格好で来ていなければ、節々が霜焼けになっていただろう。


王城の上空で、翼竜に円を描くように飛び続けるよう指示した。


「虹の結晶よ、来たれ。ファイアフライ!」


詠唱を唱えると同時に、小指に刺した指輪が眩い光を放ち始めた。光は、残像を残すように粒子をばら撒きながら、尾を引いている。


右手でしっかりと翼竜の手綱に捕まり、左手を空に投げ出すことで、魔法の流星の出来上がりである。しばらくそうやって飛んでいると、王城の離れの離塔の見張り台から返答があった。手持ちランタンの光を、信号のように点滅させているのが見える。見張り台ではこの子を止めるスペースはなさそうだから、王城と離塔をつないでいる懸け橋に向けて、翼竜を急降下させた。


「何者であるか!」


降りるなり数人の守衛が槍を以て私を取り囲んできた。こんな時間でも警備を怠らない辺りは、さすが王領の騎士団というべきだろう。


「アダマンテ公爵の娘、ロウ・アダマンテ・スプリング。ジエト陛下へ、緊急の報を知らせるために参上いたしました。謁見のお目通りを!」




出迎えてくれた守衛に案内されながら、息を整えていた。何せ、空の旅は寒いし、息は苦しいしで、意外と大変なのだ。これから、陛下にお会いするというのに、息切れをしたままでは、逆に心配をかけてしまう。


謁見の間へはすぐには向かわず、少し離れた小部屋で待つように指示が下った。当然と言えば当然だが、こんな時間に訪ねてすぐに用件を済ませられるほど、階級社会は簡単ではない。謁見の間というのは、国王や宰相、その他にも多くの大臣等が集って、初めて謁見の間と呼べるのだ。


今はたぶん、すでに眠っているか、寝ようとしていた面子を起こしている最中だろう。それを想像すると、少し悪いことしているような気持ちになるけど、一刻を争う今は、そんなこと気にしてられない。


10分は待った。ようやく守衛の者から、謁見の間へ入るように促された。王城の謁見の間は、学校の体育館位に広い。そこへ集うのは、帝国の政治を司る重鎮たち。中には60を過ぎたご老体もいたはずだが。10分程で集まったのはまだ早い方だろう。


「アダマンテ公爵家、ご令嬢。ロウ・アダマンテ・スプリング様をお迎えします!」


謁見の間から、外にまで聞こえるほどの掛け声が聞こえる。私が何をするまでもなく、その扉は開かれた。この世界では、こうやって大仰にするものなのだが、今回ばかりは笑い事ではない。言葉一つ間違うだけで、無礼に値し、嘘を吐こうものなら、それだけで罪に問われることだってあるのだから。


開かれた道をゆっくりと進み、視線は決して前以外向いてはならない。集まった人々が私のことをどれだけ見つめていようとも、決して振り向いてはならない。謁見の間の最奥で居座っている、黄金に煌めく冠を頂く人の前にたどり着くまで。


やがてその場所にたどり着き、私は跪いた。


「ロウ・アダマンテ・スプリング。参上いたしました。」

「久方ぶりだな、ロウよ。面を上げるがよい。」


首だけを上げ、その視線をジエトに向ける。だが、決して立ち上がってはならない。


「本当にお久しゅうございます。陛下。このような時間に皆様方を招集してくださり、感謝いたします。」

「気にするな。そなたが直々に王城へ参ったとあれば、緊急の要件があるのであろう。大臣たちにもわかるように、申してみよ。」

「はっ。」


今のは軽い挨拶みたいのものだが、それだけでも気が滅入る。ようやく立ち上がる権利を受けて、ジエトに、そして大臣たちに振り向くことが出来た。


私は、ユース侯爵がアダマンテ領城へ来たことから話をし始めた。どういった経緯で、どのようして、ここに至ったのか。そして、何を求めてわざわざ王城へ参上したのかを、事細かに説明してあげた。


「200万の魔物の軍勢か・・・。」

「はい。アダマンテ領の戦力だけでは、到底対処しきれないと判断し、父は私をここへよこしたのです。」


ジエトは、しばらく顎に手を当てて、考え込んでいるようだった。


「200万とはいえ、所詮は魔物。アダマンテ領の帝国騎士は、その程度の魔物に恐れをなしているというのか?帝国騎士の名が廃るなぁ?」


ねちっこい言い方をしてくるのは、この国の国防を担っている防衛大臣、ノブナ・コーア。貴族出身の帝国王族で、元は騎士団所属から成りあがったいわゆる体育会系の脳筋だ。こいつに話をされると、論点がすり替えられてしまって、面倒くさいことになるから。、あまり刺激できない。


「アダマンテの騎士たちは、恐れなど抱きません。ノブナ閣下。しかし、どれだけ士気があっても、気持ちで国は救えません。私たちがするべきは、帝国を守れる戦力を整えることではありませんか?」


私がそういうと、今度はジエトの右腕、宰相クリスハイトが釘を刺してきた。


「ロウ殿の言う通りだ。アダマンテ領北部州は帝国防衛の要。そこを突破されれば、被害は帝国全土へと繋がる。アダマンテ領の騎士団だけでは足りないというのであれば、我々が助力するのは当然のことです。陛下、すぐにでも王領騎士団の招集を進言いたします。」


ナイスな援護射撃だが、それで黙っている人たちではないことは重々承知している。政治というものは、どこの世界でも腹黒いやつがいるものだ。


「わざわざ王領騎士団を向かわせるのか?彼らは、ここを守るための戦力ではないのか?いったい何のために、各領と州に騎士団を配置している。クリスハイト殿、貴殿の言うように王領騎士団を援軍として向かわせている間、誰が国王陛下を守るというのだ?」


なおもノブナが、噛みついてくる。ほんっとうに面倒くさい。


彼の思惑はこうだ。王領騎士団は、防衛大臣である彼自身が管轄している。それを好き勝手動かされるのが気に入らないのだろう。ましてや、援軍という形だから、たとえ出陣させたとしても、主な手柄を上げるのはアダマンテ領の騎士団の方だ。名誉無き戦に意義は無し。武人としてはそれでいいのかもしれないが、彼は文官だ。直接戦場へ出もしないノブナが、気にするようなことじゃない。


「アダマンテ領の防衛線を強化するなら、貴殿の家と良い関係のエクシアに助力を求めてはいかがですかな?」


どうして今エクシアの名前が出てくるんだろう。まさか、ノブナ大臣は、先月のことを言っているのだろうか。さすがにそれはボロが出たとしか言いようがないのだけど・・・。


「どういう意味だ、ノブナ。」


さすがに重い腰を上げたのは、アーステイルの分家、エクシアの家長。ロイオ・アーステイル・エクシア。ジエトの実弟に当たる者で、クリスハイトと同じくジエトの左腕と呼ぶにふさわしい権力者だ。まぁ、関係がないのは確かにそうだが、一応先月縁談を断ったばかりだから、面と向かって話す勇気は私にもない。


「ノブナ閣下。今は冗談を言っている場合ではないと思いますが。」


縁談の話を暴露されるのなら、別にそれは構わないのだが、そんな煽りで怒りを買うのはノブナの方だ。

エクシアの思惑は計り知れなけど、この様子だとどうやら公にする気はないようだから、こっちもありがたくその意思を利用させてもらおう。


「仮にロイオ殿下が、我がアダマンテに助力してくださるとしても、それでも戦力はまだまだ足りないと思われます。」

「ほぅ?その根拠は?」

「1300年の帝国の歴史を振り返ってみても、魔物の大侵攻は数多とありますが、200万もの大軍勢が押し寄せた例は、今回が初めてだからです。それに、今回の大侵攻。ユース侯爵様も仰っていましたが、おそらく大物がいると思われます。」

「大物?」


その一言に、ノブナを含めたあらゆる大臣たちの目の色が変わった。


彼らにとって、戦争をするのはそう難しいことじゃない。相手が魔物だろうと人だろうと、戦力はいくらでも投入するのが戦というものだ。じゃあなぜ渋っているのか。大義名分が欲しいのだ。この戦いに参加して、得られる名誉。単なる国防という名目ではなく、ただ一つの勝利へと導いた名誉があれば、彼らは惜しみなく兵を派遣するだろう。


「タイタンネストか?」


ジエトが再び口を開いた。


「はい。タイタンネストは既に偵察の者が確認済みです。それも一頭ではありません。」


私はもう一度、魔物の軍勢についての情報を説明した。多種多様な種族が秩序だって群れを成していること、ここ最近の魔物の様子がおかしかったこと、それに加え、タイタン級の魔物が控えていることを。

そこまで話せば、彼らの重い腰を上げるには十分な証言だろう。


「ロウよ、その情報が確かなのであれば、タイタンネストも群れの一部と、そう考えてもいいかもしれんな。」

「陛下の仰る通りです。200万の軍勢を作り上げるに至った大物が、いるのではないかと。私はそう考えています。」


ようやく、謁見の間が静かになった。


全て計画通り、とまではいかなかったが、概ね予定通りに事は進んだと思う。助けてください、で済むような人たちではないのはわかっていた。これくらいがベストだろう。


「クリスハイト、すぐに全領公へ伝書を送れ。帝国の全ての騎士を以て、北の魔物の軍勢を叩く。」

「お待ちください、陛下。すべての騎士を向かわせるのはあまりにも・・・。」

「誰もすべての兵を出陣させるとは言っておらぬ。ノブナ大臣。王領騎士団の招集を始めよ。編成が済み次第、アダマンテ北部州へ向けて出陣せよ。」

「はっ!」

「プラチナム、ミスリアル、オーネット領から、それぞれ騎士団の一部を王領へ派遣させろ。一時的な王領警護はそれらに任せる。西部、南部、東部の防衛線強化も忘れるな。」


的確で細かない指示も忘れない。人の上に立つ者は決して焦るようなことをしてはならない。むしろジエトは、玉座であれこれ指示を出すだけで、気怠そうにさえ見える。王たる者の器。その姿は、やはり強いと感じた。強くて、それだけで安堵を覚えるのだ。


「各帝国王族からも出陣を許す。だがこれは、帝国の存亡を賭けた戦と心得よ。私も戦場へ出る。」


ジエトは玉座から立ち上がり、大臣たちもそれに合わせて立ち上がる。私も、ジエトに向かって姿勢を正した。


「グランドレイブに名乗りを上げよ。我らが大地に、火の神の加護があらんことを!」

「「我らが大地に、火の神の加護があらんことを!!」」


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