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ロードオブハイネス  作者: 宮野 徹
第三章 陰謀渦巻く貴族社会
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帝国の血筋

城にいる間は、常に情報を仕入れることを努力した。オーネット領での事件はもちろん、個人的に調べていることや、北部戦線の状況など、知っておかなければならないことはたくさんある。


特にオーネット領の事件に関しては、今一番、解決に力を入れなければならないことだ。敵が未知の勢力である以上、それを討つことは難しいから、せめて相手の思惑通りにならないことを祈るばかりだ。


すでに魔導師団は到着している頃だろうが、現場から情報が来るには、向かうのと同じくらいの時間がかかる。もどかしい限りだ。


その間に、私はジエトから禁書庫への入室の許可をもらい、そこへ足を運んでいた。王城の書庫は、基本的に王城を出入りするものならば、自由に閲覧できるようになっているが、禁書庫は別である。そこには、あまり知られていない帝国の歴史の深い部分や、公にできないアーステイルの歴史が綴られた書物などが置いてある。ここへ立ち入れるのは、アーステイルの王家と、分家の中でも限られた人物のみ。他は、特定の理由がある限り入ることは許されていない。私は、以前アルハイゼンの許婚として、この禁書庫で様々な文献を読み漁る権利を与えられていた。次期王妃となるために、帝国に代々伝わる歴史を学ぶためだ。今では、ここに入室するための専用の鍵は、フィリアオールに返してしまったため、自由に出入りはできないけど、またこうしてここへ足を踏み入れることが出来るとは。


お目当ての書物は、禁書庫に並ぶほどの大層な代物じゃない。アーステイルの家系図だ。現在王家であるリンクスを含めた家系は9つあるけど、アーステイルと血を交わして、アーステイル家から抜けた者は、これまでに数えきれない程いるはずだ。その中に、あの紋章を家紋とする家がないかを確かめたかったのだ。と言っても、帝国王族はの数は無数に存在するため、一つ一つ照らし合わせていたら、一日では探しきれないだろう。


「本当に、長丁場になりそうね。」


本かどうか疑うほど分厚い紙の束を書棚から引っ張り出し、舞い上がる埃を払いながら開いた。そこには、アーステイル王家の家系図が小さな字でびっしりと、アリスの巣のように図で記されていた。最初は、帝国が興った初期から、現在に至るまで、血を分け合ってきたのが見て取れる。前世でも、貴族社会があった国々でも、似たようなことが行われていたのだろうけど、それが1300年もずっと行われていると考えると、末恐ろしく感じる。それくらい、アーステイル家の力が大きかったということだろう。


アーステイルの魔法特性、大地の記憶(アーステイル)は、個々の力の差こそあれど、大地を自由自在に操る力だ。山を作り、盆地を作り、川を分断する。そうやって、人が住みやすい地形を、人が自ら作り上げること可能になる。帝国王族は、その力を使って、山を削り、地下に街を作ったり、その頂上に城を建てたりして、その権威を民衆へ知らしめた。例え分家となれなくても、アーステイルの血を欲しがった貴族は、ある意味その力に魅了されたといってもいいだろう。


戦闘魔法としても申し分はない。地面を隆起させ、足場を制圧できるのであれば、地上戦では無類の強さを誇るだろう。それを成すだけの魔力量と才能があってこその所業だけど、本家、分家を含めた一族は、みな魔法に関しては一流揃いだ。


「・・・才能・・・。」


そういえば、帝国王族の中でも、エクシアの存続が危ぶまれているという話は、今では貴族社会に知らない者はいないだろう。ロイオの息子であるエルドリックが、エクシア特有の魔法特性を継承できなかったらしく、エクシアがエクシアたる所以を失くしてしまうと言われている。


魔法特性の遺伝が100%でない以上、そういった事態も起こりうる。そうはいっても、魔法だけが個人を図る指標じゃない。本人の研鑽次第で、帝国に仕えるに値する者になれるはずだ。


「そうは言っても、限界はあるからなぁ。」


家を継ぐものとしては、悔しいことだろう。男であればなおさらだ。私が魔法特性を継承せずして生まれてくるのとでは、意味合いが大きく違うのだ。家長であるロイオもそうだが、本人が一番つらい思いをしているだろう。そういったことがあるから、この世界では勝ち組負け組がはっきりとしている。悲しい話だが。


本題の無数にある家系図、それぞれの家紋を見比べているのだが、刺客が持っていた紋章と合致する家は見当たらない。ただ、気になることはあった。似たような家紋を持つ家はいくつか存在したのだ。最初は単なる偶然だと思っていた。家紋はどの家も企画が決まっているし、記号を組み合わせていたりするものが多い。家によっては、その土地で有名なものを絵にしたり、象徴となるものを飾っているのもあるが、ごく一部の家だけだ。ちなみにアダマンテは、翼竜が翼を広げたような紋章になっていて、私はとても気に入っている。代々公爵家に引き継がれてきた竜使い(ドラグーン)を象徴しているのだ。


刺客が持っていた紋章は、そういった具体的な形ではなく、丸とか四角を組み合わせた抽象的な模様だ。しがない帝国王族にはありそうなものだが、見事にどれとも一致しない。けど、似ている家紋はあった。しかも、その似方が上半分だけ同じだったり、色を変えただけのものだったり。絶妙に同じものにならないようになっている。それがどうにも気になったのだ。


思うところはあるが、結論を出せるほどではなかった。とりあえず今日のところは、これでいいとして、一度シルビアの様子を見に行こうと、書庫を出た廊下で、不穏な空気を感じ取った。


廊下の窓からは、知らぬ間に夜が訪れていたことを気づかされ、随分時間を食ってしまったようだ。しかし、それを加味しても、廊下が異様に暗く感じられ、照らしている蝋燭が不気味に揺らめいている。


「これって、・・・闇属性の魔法ね。」

「・・・・流石は、アダマンテの令嬢と言ったところか。」

「!?何者ですか。」


どこからともなく声がした。魔法の触媒を介して、特定の地点に幻影を見せる魔法。


幻影の帯(ファントムベール)か。」

「あぁ、そうさ。なかなかのものだろう?この暗がりでも姿をくらますには、質の高い触媒が必要になるんだけどね。でも、それを見破るとは、本当に流石としか言えないよ。」


これはやや子供っぽい声だった。性別はおそらく男。幻影の帯(ファントムベール)は幻を見せる魔法だ。本人がすぐ近くにいるとは限らない。けど、周囲を見渡しても、触媒らしきものは見当たらない。


「君では触媒を見つけられない。そんなことより、今は自分の身を案じたらどうだい?」

幻影の帯(ファントムベール)は、幻を見せる魔法。これで私をどうこうすることはできないと思いますが。」

「あぁ。そうさ。だけど君には見えていないんだろう?この魔法に隠れて見えない、君を取り囲む刃がね。」

「っ!?」


そういうことか。こんな廊下でいったい何を隠すのだと思ったが、私の目には見えていないのだ。もしかしたら、私は既に取り囲まれていて、一歩でも動けば心臓を貫けれてしまうのかもしれない。


「ようやく、事の危うさに気づいたかい?それでいい。安心しなよ。下手に動かなければ、危害は加えない。」

「・・・何が目的ですか?」

「目的なんてない。僕は君に、忠告と、宣戦布告に来たのさ。」

「なんですって!?」


穏やかじゃない内容だ。忠告まではわかる。脅しをかけてくるにはうってつけの状況だし、事と次第によっては、受け入れてもいいだろう。しかし、そのうえで宣戦布告をするというのは、今は泳がせてやるが、いずれ私に戦いを挑むということだ。穏やかじゃないし、こういうやり方は、私の性に合わない。


「アダマンテ令嬢。随分活躍しているみたいだけど、僕たちの計画の邪魔をするというのなら、ただじゃおかない。機を待たずに、君の心臓を貰い受けることになる。」

「計画って・・・。貴方が誰だかもわからないのに、わざわざそんなことを言いに来るということは、私の考えていることは、おおよそあっているということかしら?」

「ああ。本当に君は素晴らしい人だよ。あのアルハイゼンが認めるだけのことはあるね。でも、残念だ。君はあくまで帝国の側につく。自分の立場がどうなろうと、君の人生は、この帝国という箱庭でしか輝けない。実に残念だよ。」


嫌な言い方。面と向かって話をしていたら、その頬をひっぱたいていただろう。だけど、


「安い挑発に乗るつもりはありません。言いたいことはそれだけですか?」

「いいね、そういうところも。けどだめだ。君は知り過ぎた。いや、君は悪くないんだけどね。僕の部下が無能すぎたから。まさか、あんな方法で君を捕まえようとするなんてね。君も相手としては不足だったんじゃないかい?」


部下、ということは、この男が私たちに刺客を?だけど、彼自身が命令したわけではなさそうだが。


「まぁいい。ロウ・アダマンテ・スプリング。僕はこの帝国が嫌いだ。恨んでさえいる。だから戦うよ。君たちすべてとね。だからこそ、全力で受けてたってくれ。その全てを無に帰してあげるよ。」


もう少し話を伸ばしたかったが、どうやら迷っている暇はないみたいだ。


「逃がすと思って?炎転!斬!」


無詠唱でのとっさの魔法を周囲へ向けて放った。威力は最小限に抑えた小魔法だが、炎転による火の破裂はあたりを吹き飛ばすには十分な力だ。爆発と共に暗がりが晴れ、廊下が急に明るくなった。幻影の帯(ファントムベール)がきれたように見えたが、


「あっはっはっはっは。いやぁ、実に素晴らしいよ。全属性を同時に操る、その才能。うらやましいくらいだ。これじゃあ、はったりを仕掛けた僕が、情けないじゃないか。」


魔法の効果はなくなった。しかし、周囲には誰もいなかった。私を狙う剣先はどこにない。どうやらカマを掛けられたようだ。だけど、声は相変わらず聞こえてくる。まだ何らかの魔法があるはずなのだが、見当がつかない。


「今回は、この辺で失礼するよ。次のお相手が待っているんでね。」

「次?」

「あぁ、君ととても仲がいい、シルビア嬢さ。」

「・・・。」

「君と違って扱いやすい人だからね。まぁ、彼女には、そろそろ退場してもらいたいんだ。」

「退場ですって?」

「ふふふ。ほら、早くしないと、お友達のご令嬢の首が飛ぶことになるよ?ふっふっふ。あっはっはっはっはっはっは・・・。」


高らかに笑う男の声を最後まで聞かずに、私は全速力で駆けだした。シルビアはまだあの独房に繋がれたままだ。魔法抵抗を施された牢だから、殺るとした物理的な殺人が行われるはず。


途中、王城の人間と何度もすれ違ったが、彼らの言葉に耳を貸している余裕はない。あの男が本当にシルビアを殺そうとしているのだとしたら、・・・。


「くそっ。何だっていうのよ、ほんとに。」


あの女のために、奔走するのも癪だけど、今シルビアを消されるわけにはいかない。


「お願い。間に合って・・・。」



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