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ロードオブハイネス  作者: 宮野 徹
第三章 陰謀渦巻く貴族社会
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審問会の続き

魔法特性の継承についてのことは、小会議に参加したものの、秘匿事項として血の誓いを立てることとなった。ヘイローズに入る際の、血の証明と似た魔法で、血を触媒として人にかける魔法だ。特定の内容の言葉を他者へ話すことが出来なくなるという、禁句を施す魔法だ。血の誓いを施した者同士もその会話について話すことが出来なくなるが、言葉を使わなければ羊皮紙なんかに書いての意思疎通は可能だ。


そして、本格的に敵性勢力のあぶり出しが始まったのだが、ジエトやフィリアオール、オーネット公爵らが、表立ってこのことに注視できないため、必然的に私やクリスハイトに、その役が回ってきた。表向きは、エクシアの客卿としている私が、一番動きやすいということで、敵の目的を探らねばならない。

王領には、ヘイローズから派遣された魔導師団がすでに到着しており、オーネット領への出陣の準備が整えられていた。


「あら、ローちゃん。また会ったわね。元気にしてた?」


会って早々、背中の翼に興味津々で詰め寄ってくるフロストが来た。彼女が直々に魔導師団を指揮するとは思っていなかった。なにせ、魔法の研究に障害を尽くそうとする人だ。彼女は見込んだが、テレジアの人材は他にもいるだろうに、いったいどういう風の吹き回しだろうか。


「お久しぶりです。フロスト様。まさか家長自ら指揮をなさるとは。」

「私だって、出来れば王城なんかに顔を出したくはなかったわ。でも、しょうがないでしょう?ジエトからの王勅だもの。従わないわけにはいかないの。それに、一応私もアーステイル家のもの。帝国の一大事に地下でのんびり魔導書を読み耽っているわけにはいかないのよ。」


ズボラそうな人だけど、一応は分家としての誇りがあるということか。まぁ、これから出陣するような人の恰好とは思えないほど、ラフなローブ姿なのだが。


「あなたも大変ね。・・・ふっ。血の誓いまで施されて、ジエトに何を頼まれたのかしら?」

「っ!?・・・わかるのですか?」

「ええ。中身まではわからないけどね。あれも魔法の一種。目に見えずとも、魔法の痕跡は隠せないわ。」


さすがは魔法都市を収める家系ということか。一目で見破られるとは思わなかった。そもそもこれに気づける人間など、いるとは思っていなかった。


「他言無用で、お願いいたします。フロスト様。」

「もちろん、興味ないもの。安心なさい。」


フロストはそう言って、去っていった。アーステイルの血を分け合ったものはみな実力でその地位を勝ち取った者たちだ。そんなものたち相手に、真相を暴かなくてはならないのは、先が思いやられるものだ。



私の最初の仕事は、シルビアの尋問だった。彼女が目を覚ましたという報を聞いたのは、議会が行われた翌日だった。


王城の地下にある魔法抵抗が施された、特別な独房に彼女は繋がれている。守衛の話では、まだ意識が判然としていないようで、まともに会話をするのは難しいかもしれないが、それでも聞き出せることはあるはずだ。


既にウンウォルは、オーネット領へ向かっているため、無事な姿を見せることはできないが、好都合だった。最悪の場合、少し非道なやり方をしなければならないかもしれないからだ。


地下の独房は、領域魔法の触媒となっている魔導樹脂でできた蝋燭がそこら中に設置されていて、地下であっても案外明るいものだ。ただ、魔導樹脂の蝋燭の火は、青色に輝くため、不気味さがあるのは否めないが。


シルビアは、独房でうずくまる様にして隅っこにいた。両手には鉄錠が嵌められ、足にも鎖が取り付けられている。当然、得物となるようなものは持たせていない。例え小さなナイフであっても、彼女の魔法をもってすれば、兵器に変わってしまう。


「・・・・・シルビア、起きていますか?」

「・・・。」


声をかけると、返事はしなかったものの、シルビアは顔をあげて、こちらを見た。立った数日とはいえ、少しやつれたように見える。まぁ、ずっと気を失っていたそうだから、食事もとっていないのだろう。


「意識はありますか?」

「・・・ええ。・・・・お腹が空いたわ。」

「そうでしょうね。食事はすぐにでも用意いたします。ですがその前に、私の質問に答えなさい。」

「・・・私に命令をするなんて、随分と太々しさが増したわね。」

「あなたへの嫌疑は晴れていません。自由の身になりたければ、おとなしく従いなさい。お父君も、貴方を心配していました。」


ウンウォルも、シルビアも、お互い家族思いの人間だ。普段の彼女からは想像もつかないが、ウンウォルの名を出せば、否が応でもシルビアはおとなしくなるだろう。


「お父様は?」

「騎士団と、魔導師団と共に、オーネット領の鎮圧へ向かわれました。」

「そう。」


表に出さないように努めているのだろうが、隠しきれていない。私よりも二つ上だというのに、子供じみた一面があることが、とても珍しかった。普段は私がからかわれる側だけど、これをネタに今後シルビアをいじるのもいいだろう。


「シルビア、精神侵食を受けた自覚はありますか?」

「いいえ、ずっと意識がふわふわしててね。でも記憶ははっきりとしているわ。あなたに襲い掛かったこと、覚えている。最後の方はあんまり覚えていないけど、こういう状況ってことは、貴方に負けたのね。」

「勝ち負けなど、この際どうでもいいことです。あなたを戦闘不能に追い込んだ後、私はあなたに霊子解放の魔法で解呪を行い、黒い靄を払いました。どうやらあなたは、何者かによる魔法の攻撃をされていたようです。何か覚えていることは?」


霊子解放の魔法を行ったときに出てきた黒い靄のようなもの。精神侵食魔法の一種なのは間違いないが、あんなものは見たことがなかった。


「靄、ね。よく思い出せないわ。本当に、意識に靄がかかっているような感覚なの。これが精神侵食の影響だっていうなら、納得するでしょうけど、初めての経験だからわからないわ。」

「では質問を変えます。なぜ北部戦線を離れたのですが?こちらの推測では、その頃はまだ、貴方はまともだったはずです。」


現に私は彼女と会っているし、その時はこんなことになるとは思っていなかった。推測通り、ヒヨリが何かしたというのであれば、話は簡単なのだが。


「・・・たしか、お父様が謀反を起こしたと、報があって・・・。」

「それで?」

「・・・急いで、オーネットに戻ろうとして、それから・・・・。」


必死に思い出そうとしているようだが、彼女の額や項に汗が浮かんでいる。精神侵食の影響で、思考力が削がれているのかもしれない。あまり無理をさせると、後遺症になる可能性もある。


「もういいです。シルビア。独房から出すことは叶いませんが、拘束を少し緩めましょう。」


私は、専属の守衛に手枷を外すよう指示し、食事を持ってくるよう頼んだ。かなり長灯場になるだろうが、無理をしても真実は引き出せない。こればかりは我慢しないといけない。


「優しいのね。傲慢な性格してるくせに。」

「勘違いしないでください。私はあなたが嫌いです。ですが、公爵家の誇りとして、使命を全うしなければなりませんので。それに、誇りという点では、私の傲慢で、貴方のそれを踏みにじるわけにはいきませんから。同じ公爵家として。」


私はシルビアが嫌いだ。それは間違いない。けど、一人の人間として彼女を見た時、シルビアにはわたしにない素質を多く持っている。それこそ、人の上に立つ器を彼女は持っている。私のような傲慢さもなければ、破天荒な行動も、冷静であればしない人だ。性格は悪いと思うけど。


認めたくはないが、彼女は帝国に必要な人材だ。この先に訪れるであろう困難に立ち向かうためにも。


尋問はわずか数分で終わってしまったけど、彼女はやはり騙されて戦線を離脱したのだ。


「おおよそ、ヒヨリか、彼女の周囲にいた人物が、そそのかしたか・・・。」


ヒヨリは現在も行方不明のままだ。一番怪しいのは彼女だが、そればかりに注視して他を疑うことを忘れてはならない。アダマンテ領城へ向かわせたエルザからも、情報が欲しいけど、今王城を離れるわけにはいかない。魔法で携帯電話のようなまね事が出来ればいいと思うけど、そんな都合のいい代物はない。


「せめて、翼竜が一匹いればいいんだけど・・・。」


今後は移動用に翼竜を常に連れたほうがいいかもしれない。さすがに、アレンを使いまわすのは本人にも悪いと思うし・・・。


「行くか?」

「ふぇ!?」


いつの間にか与えられた個室にたどり着いていて、隣の部屋から来たアレンに気づかなかった。


「あんたの家まで飛べばいいんだろう?夜の間なら、人目に付かないし、言って帰ってくるくらいの時間はあるだろう?」

「えっと、いや、そこまでしてもらわなくても・・・。さすがに、何度も徹夜は私もきついから。」

「・・・そうか。・・・。」

「・・・?」


何か言いたげな様子だけど、結局何も言ってくれなかったので、部屋に招くことにした。


ライラほどじゃないけど、一応私も紅茶を入れられる。個人的には、紅茶よりコーヒーはだったから、そんなに好きじゃないんだけど。


「体は大丈夫か?」

「ん?ええ。発作も、ほとんど起こらないわね。」


匂いの方はよくわからないけど、髪の毛もあれから一向に桃色にならず、毛先が少し色が抜けている程度だ。たぶん、背中の翼の魔力を補おうと、アレンの魔力に飢えていた結果なのだろう。動物的本能については、きっとまちがいだったのだ。


「元の体に戻りたいと、今でも思うか?」

「それは、まぁ。でも、そんなには気にしてないわ。実害はないし。」


服をいちいち専用のものに仕立て直さないといけないのは面倒だけど、衣服で悩むのは貴族として生まれれば誰だってそうさ。変にコルセットを巻いたり、体形を維持しなければならないのだから。


「それに、龍化にしても、悪いことばかりじゃないわ。シルビアと戦ったとき、飛行魔法を使ったでしょう?翼が自由に動かせるようになってから、あれを使ったのは初めてだけど。すごく動きやすかったのよね。」


まだ使い慣れていないから、何とも言えないけど、空中での姿勢制御が以前よりも楽になっていた。翼だけで空を飛ぶことはできそうにないけど、おかげで負荷の掛かる禁術の白翼の悪神(ライア・カハネ)が完全なものとなった。名前の通り白い翼だし。


「腕も、太くなって見てくれが悪くなったかなって思ったけど、包帯を巻いてれば気にならないし、ちょっとかっこいいでしょ?」


中二病、と言われてもおかしくないけど、アレンには通じないか。そう思ったのだが、


「中二病か?」

「え?」

「ああいや、何でもない。」


声を小さくしてい言ったから、聞き間違いかと思った。それとも、元居た世界では、そういう概念があるのだろうか?


「飛びたくなったら、言ってくれよ。ここまで来たら、隠すこともないだろうからな。」


アレンはそう言って、紅茶を一気に飲み干すと、和苦笑いを浮かべながら、部屋を出て行ってしまった。



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