魔法の継承について
ヘイローズの魔法大学にて、自分の体を調べ、そして、不完全な背中の翼を完全に復元しようとしていた時だ。時間こそかからなかったものの、その過程で私は、この世界における魔法の性質に気づいたのだ。
帝国では、血を交わすことで、新たな力を得て、より強い血統を生み出そうとする。前世の記憶を頼りに、科学的にものを言えば、遺伝子が交わることで、100%ではないにせよ、両家の魔法特性、両方を有する子供が生まれてくる。遺伝子が交わるというのは、言い方が変かもしれない。性格には遺伝子が合わさるということだろう。二つの魔法特性が単に合わさったのが、これまで帝国が行ってきた継承だ。
けれど、私はアレンと出会い、龍化という不可思議な現象を体験することとなった。彼曰く、魔力が交わり、私が龍族に成り代わろうとしているというが、その実態は、アレンの魔力が私の中へ流れ込み、その溢れ出た魔力が翼や腕に形となって現れた。純度の高い龍族の魔力が、物質化を起こし、そうなったと私は結論付けた。しかし、それが可能なのであれば、私も龍の姿に成ることできるということになる。彼の魔力さえあれば、体全体を龍の姿へと物質化することは可能だと思う・・・。
それはある意味、龍族の魔法を、彼らの魔法特性を継承したと言えるのではないだろうか。彼と血を交わすことなく、魔法特性を継承した。いや、彼の魔力を取り込むことによって継承できるのだとすれば、この世界の魔法の性質は、わざわざ交配せずとも魔法を継承することが出来るということではないだろうか。
そう思った私は、翼の形成に、アレンが私の剣にしたのと同じ方法を試したのだ。私は、アレンの魔力によって、龍のものとなってしまった左腕を、小さな刃物で切り付け、龍化した皮膚を少しだけ剥いだのだ。その皮膚を使って、感覚的に習得した魔力の物資化を行った。物質化は純度の高い魔力でしか行えないのだとしたら、同じ彼の魔力で出来た龍化した左腕を使えば、翼の形成は可能だ。実験は見事に成功し、アレンから魔力をもらわずとも、翼の形成が可能になったのだ。
剥いだ皮膚はすぐに再生されていて、元の形に戻っていたのだ。その物資化に必要な魔力をどこから得たのかは定かではない。普通に考えれば私の魔力を代用したのかと思うが、人間の魔力は純度が低く、物質化はできないはずだ。私の体は、いつの間にかアレンの魔力を生成することが出来るようになっていたのだ。
そうなると、すでに私は、人間が人間の魔力を自然生成すのと同じように、龍族が龍族の魔力を生成する体、になってしまっているということだ。もっともそれを含めて龍化、という現象になるのかもしれないが。
仮にこの龍化という現象を一種の魔法と捉えたとしよう。私は、彼が剣を繋いだ一部、魔力の塊を体内で触れてしまったため、あるいは、血液に触れてしまったため、龍化が起こってしまった。まさしく魔力を体内に入れてしまったため、龍化が起きたのだ。
そして本来帝国では、血の交配、遺伝子が合わさることで、新たな力を得てきた。ならば、遺伝子を物理的に取り込むことが出来れば、交配せずとも魔力継承することが出来るのではないだろか。
魔力イコール物質化した肉体、肉体イコール遺伝子、と考えれば、私に起きた状況にも合う。アレンの魔力、遺伝子を取り込んだことで、龍化が起きた、と。
「血は、いうなれば、魔力の源泉と言っていもいいかもしれません。」
私が、ヘイローズで知りえた情報を話すと、小会議に参加した全員の表情が険しくなった。
「私たちが持つ魔法特性を、証明するのが血統です。血がなければ魔法を発動することすらできない。ですが逆に言えば、血さえあれば、平民から魔法特性を持つ者が生まれる。そして、交配をせずとも、血を取り込むことで、魔法特性を手に入れることが出来る。そうは考えれらませんか?」
私がアレンから龍化という力を得たように、敵は血統を手にしようとしているのではないか。私はそう考えたのだ。
「ロウ。そなたがアレンの力を受け継いだ理屈はわかる。だが、今回の敵がそれをしようとしているという話にはつながらないだろう。」
もっともな指摘をするジエトに対して、私はもう一度あの紋章のペンダントを見せた。
「ヘイローズの魔法大学で、私は数年前に行われたという、魔力の物質化に関する実験記録を見ました。提唱者の名前は、サードル。家名はありませんでした。その実験記録は、あくまで大学で行われたものであり、最後のページが実験失敗で終わっています。そして、このサードルという者が何を考えていたのかはわかりませんが、その紋章を記録の最後に残していたのです。」
「なんだと!?」
「ロウ、あなた、どうしてそんなことを黙っていたの?ヘイローズにいた時から、その情報を知りえていたということでしょう?」
「・・・私自身、確信があった情報ではなかったからです。それに、敵が本当にアーステイル家であったなら・・・。」
ジエトやフィリアオールも、たとえ私を親身に思っていてもアーステイル家の者だ。数多くいるアーステイル家の中では脅威度は低いだろうが、疑わないわけにはいかない。そこまで冷静さを欠くわけにはいかなかった。
「つまり、ロウ殿は、陛下とフィリアオール様も疑っておられたのですね。」
言いずらくしている私を案じて、クリスハイトが代わりに告げてくれた。私も頷いて肯定し、改めて二人に向き合った。例え王でも臆すくれたようで、ようやく本題に入ることが出来た。
「では、今回の敵は、そのサードルという者が元凶なのでしょうか?」
「そこは何とも言えないですね。そもそも実験自体、魔法大学では行われなくなっているようですから。ですが、実験凍結されているとは書かれておりませんでいた。現に大地の記憶を行使できる人間が刺客として私の前に現れた。今は、アダマンテの領城で監禁中です。城の従士長が、尋問を行っていると思いますが、答えが得られるかどうかは・・・。」
あの刺客が、アーステイル家の者であろうと、そうでなかろうと、大きな問題にはなる。アーステイルを偽っての行動だとすれば、刺客の後ろにいるものを裁けばいいだけの話だが、今までの継承の仕方ではなく、遺伝子を取り込むことで継承した者であれば、それこそ厄介ない相手だ。
「ロウ殿が仰っている、事の危険度は確かに帝国の在り方を揺るがしかねないものです。ですが、それに対処するには、ここにいる我々だけでは難しいでしょう。あまりにも敵が未知数で、不透明すぎます。」
この小会議には7人いるが、うち二人は兵糧関係の役割を担うため、実際の対処に当たるのは、私とジエト、フィリアオールにクリスハイト。そして、オーネット公爵だけだ。
「うむ。仮に味方に引き込むにしても、この、血の交配を必要としない、魔法特性の継承をどう説明したものか。いや、真実を話さずにすることも出来よう。だが、それがもし敵側の者だとすれば。」
「・・・ロウ。本当にそんなことが出来るのかしら?あなたは優秀で知識もある人です。あなたほどの者がいうのですから、可能性は十分にあると思います。ですが、にわかに信じられません。魔法特性の継承を、単に血を取り込むだけで可能にするなんて・・・。」
フィリアオールの指摘はもっともなことだ。まだ私も実際に誰かの魔法特性を受け継いだのを見たわけじゃない。私とアレンの場合は、腕や翼に物質化が起こり、明確に目に見えて継承の様子が見て取れた。しかし、それも、龍化という現象を魔法ととらえた場合の話だ。
「・・・試しましょうか?」
私は恐る恐る言った。非常に危険な賭けだ。私でなくとも、誰かに誰かの魔法特性を実際に継承させるというのは、その家の血統にひびを入れるようなものだ。
「・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「ロウ、私の血を使え。」
「え?」
ジエトが一人進み出てきた。
「今一番この現象を理解できているのは、そなただ。そなた意外に適任はいない。だが、他家の魔法特性をそなたが手に入れたと知れたら、それはそれで大きな問題だ。だから、我が許そう。責任は国王である我が持つ。」
「陛下!」
誰もが止めに入ったが、ジエトの覚悟はよほど大きなものらしく、最終的にはフィリアオールもクリスハイトも折れた。
場所を移し、アニスフィアとミスリアル公爵は、自身の仕事へ向かっていき、残りの5人で実験を行うため、王城の中にやってきた。ジエトは徹底的な人払いを守衛や従士に頼み、本来城で役職をこなす多くの人が行き来する中には、しんと、静まり返っていた。
「どうすればいい?ロウ。」
「はい。短剣で、少しばかり皮膚をお切りください。血が付いた短剣を頂ければ十分です。クリスハイト様は、治癒の魔法の準備をお願いします。」
「わかりました。」
それぞれが準備を整えて、全員が固唾をのんでいた。正直私もどのような結果になるかはわからなかった。何度も言うように憶測に憶測を重ねた、もはや妄想に近い理論だ。それを敵が知ってしまった可能性があるため、こうして事実かどうかを確かめ、敵がやろうとしていることを図ろうというのだ。
私もいだり腕の包帯を巻きとり、準備が整った。
「随分な腕になりましたね。ロウ。」
「はい。」
「では始めるぞ。」
ジエトがそういうと、震える手でフィリアオールが短剣でジエトの腕を斬った。浅く細くその刃先を突き立てたとしても、血はにじみ出てくるものだ。ジエトは十分に血が出るまでの間、顔色一つ変えずにじっとその刃先を睨んでいた。
「それくらいで大丈夫です。短剣を。」
刃にジエトの血液が付着したままの短剣を受け取り、私はそれを龍化した左腕に当てた。そして少しだけ、刃を肉に食い込ませ、切り口を作る。ちくりとした痛みが鈍痛となって腕から伝わってくるが、龍化しているせいか、それほど苦痛に感じなかった。
初めてアレンの魔力に触れてしまったときは、激しい眩暈が起きた。気を失うほどの高熱があふれて、経つことさえできなかったはずだが、今回はそうならなかった。だけど、体の中に何かが入り込んだような感覚が左腕から感じ取れた。なんとなく、アレンから魔力を分けてもらっていた時と似ている感覚だった。ジエトの魔力が私の中へ入ったのだろう。
私もすぐに治癒魔法をかけてもらい、小さな傷跡はすぐになくなった。体にも不調は感じないから、おそらく大丈夫なはず…。
「では、行きます。」
恐る恐る、魔力の流れを感じながら、大地の記憶の力を呼び起こそうとした。初めて使用する魔法だとしても、魔法は全て感覚的なものだ。発現させるには鮮明なイメージが必要だ。
左手を地面に付き、手から魔力を送り込むようなイメージをする。魔力で大地を突き上げるような、大地そのものを手足のように動かすようなイメージを!
ボンッ!
それを起こすまで、想像以上に集中力を使ってしまったけど、私たちの前に、小さな土の山が一つ出来上がった。高さは1メートルくらいだろうか。まるで地の底から押し上げられたような飛び出し方だった。
山はすぐにボロボロと崩れてしまい、元の姿へと戻ってしまったが、その痕跡は消えていなかった。モグラが穴を掘った後のような円形の盛りが出来上がったのだ。
「・・・信じられない。本当に可能なのか!?」
「どうやら、そのようですね。」
「・・・。」
実験は成功だった。成功してしまったと言った方がいいか。今回は血で行ったが、おそらく遺伝子を取り込めれば、血でなくとも可能なのだろう。例えば、唾液とかでも同じように可能なはずだ。
子に継承させなくとも、魔法特性を取り込む方法がある。それは、帝国の歴史を大きく塗り替えるほど理論だと言えるだろう。
もはや何の話か忘れかけてしまった。
敵の目的を暴くためにこんなわけわからん理論を生み出してしまった。
もっとスマートな話がしたかったけど、既におそし・・・。修正不可。
うわあああぁぁぁぁぁん(;´Д`)




