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ロードオブハイネス  作者: 宮野 徹
第三章 陰謀渦巻く貴族社会
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敵は霊峰にあり

「陛下、敵は想像をはるかに超える大きな存在だと、私は思っております。オーネット家に反逆の意ありと思わせ、帝国を内部から勢力を削ごうとしているのです。」

「ロウ殿。いささか妄想が過ぎませんか?物事を推測するのは確かに重要なことです。しかし、証拠もないのに第三者の存在を議会に持ち込むのは、いかがかと思います。」

「可笑しなことを言いますね。では、あなた方は、戦に負けてから証拠が見つかったら、潔く死を受け入れるのですか?証拠なんて待っていたら、クリスハイト様が仰ったとおり、後手に回るだけです。それに、生憎私は現場を見てものを言っているつもりです。証拠が欲しいのであれば、それなりに提示することはできますわ。」


私は頭の中にある材料を使って、どうにかこの石頭どもの口を黙らせる方法を考えていた。いや、国王であるジエト一人が納得してくれればいいのだ。彼の一言に、宰相であろうと、文官であろうと、従わないものはいないのだから。


「陛下、私は陛下の考えに賛同いたします。帝国王族の御力で、すぐにでもオーネット領を救うべきです。おそらくですが、シルビア嬢は何者かにそそのかされたのだと思います。」

「ふむ。具体的にいうと?」

「父であるオーネット公爵が帝国への反逆罪で拿捕された、とでも伝えられたのでしょう。彼女は、政に関しては、冷酷なまでに冷静な人ですが、身内となると何よりも優先する傾向があります。」


あの女は、性格こそ悪悪だけど、家族を想う気持ちは人並み以上に強い。


「真実を確かめるべく、彼女は戦線を離れ、自領へ帰還しようとした。実際にオーネット公爵は、フィリアオール様の召喚に応じて王領へ来ていました。父親のいない王城について、シルビア嬢は酷く狼狽したことでしょう。敵はそこを狙い、彼女へ襲い掛かったのでしょう。」

「つまり、オーネットの領城には、すでに敵性勢力がいたと?」

「あるいは、領城へたどり着く前に、彼女を手に駆けようとしたのかもしれません。」


実際に彼女が見つかったのは、ミレニアフォストの森。身の危険を感じたあの女が、万が一の時に逃げ込む場所としてあの別荘を選んだのだとすれば、彼女の足跡は明らかだ。


「それで?ロウ殿。いったい誰が、それをやってのけたというのです?見ず知らずの人間からの情報を聞いて、そんな奇行に走るほど、シルビア嬢は愚かだというのですか?」

「いいえ、彼女と同時に、もう一人消息を絶った者がいます。ヴァンレムの部隊長を務めているヒヨリという人物。彼女はシルビア嬢の副官ですが、シルビアと同時に姿を消したという情報が入っています。指揮官である二人が同時にいなくなる理由はある程度予測がつきます。シルビアが単身で自領へ戻ろうとするところを、護衛としてヒヨリが同行したか。あるいは、ヒヨリ自身がシルビアに手をかける実行役だったかです。ヒヨリには、戦線を離れる理由が他にありませんので。現に彼女は行方知れずのままで、現状最も疑い深い人物だと思われます。」


面倒で、意味のない質問ばかりしてくる文官たちも、ようやく耳を貸す気になったのか、それ以上の野次を飛ばしてこなくなった。私はあくまで可能性の話をしているにすぎないが、彼らは実際に何が起きているかを把握しきれていないから、野次を飛ばし、仕事をしている風に振舞っているだけだ。


「ウンウォルよ。部隊長について、何か不審な点は思い当たらないか?」

「・・・不審な点と言っていいかわかりませぬが、確かに娘とはあまり仲が良くなかったと思います。同じ部隊を預かる者として、形式的な関係ではあったようですが。」


オーネット公爵がそう感じていたなら、実際にそうなのだろう。もともとヴァンレム部隊は女性のみで構成された部隊。女の友情は酷く面倒くさいものだ。ましてや彼女たちは、才能もあるだろうが、ヴァンレムに乗るためのストイックな体作りを実現した、いわば苦労ものだ。妬みや嫉みは尽きないことだろう。


「うむ。ロウの言う通りだとすれば、敵の目的はシルビア嬢に、あるいは、オーネット勢力として反旗をあげさせようとしたということか。」

「お待ちください、陛下。公爵令嬢とは言え、子供の話に耳を傾けるというのですか。確かに筋は通っているかもしれませんが、所詮はこどもの・・・。」

「我にとっては、大事な臣下だ。それに、我とてロウの言うことを全て真に受けているわけではない。だが、ろくに意見も述べず、ただ無意味な論争を繰り広げようとするおぬし等に、耳を傾けるつもりはない。クリスハイト、お前はどう思う。」


そういわれてしまった文官は、さなぎのように縮こまってしまった。かわいそうに。


「はい。少々無理やりな推測にも思えますが、我らの指針を定めるには十分な材料となりましょう。」

「よし、すぐにヘイローズへ使いを送れ。テレジアの魔導師団を王勅をもって出陣させる。目的は、ピスケスの解放だ。帝国臣民の救助をいち早く行うのだ。」

「はっ。すぐに。」


クリスハイトに指示が下ると、彼は一人一人に細かな指示をおろしていき、文官たちが一人、また一人と議会を後にしていった。


「さて、ロウ。そなたは我と同じく、ピスケスへの派兵に賛同していたが、他に言いたいことはないか?」

「はい。陛下。ピスケス解放のため、と仰いましたが、私は領域魔法による包囲を進言いたします。」

「・・・その理由は?」

「テレジアが誇る魔導師団のお力ならば、ピスケス全体に霊子解放の領域魔法を展開することも可能でしょう。それを行わせるのです。」

「霊子解放・・・。まさか、領城に居座っている戦力とやらは、精神侵食魔法を受けているというのか?」

「オーネット領城にはおそらく部隊長のヒヨリがいると思われます。もちろん彼女でなくともいいのですが、精神侵食魔法であれば、短期間で騎士団を逆軍として仕立て上げることも出来ましょう。」


片眼鏡をくいっとあげて、クリスハイトが前へ出た。


「つまり、現在オーネット領城に居座っているのは、もともと領城にいた騎士団であり、それが魔法によって帝国へ敵意を見せているということですか?」

「そして、城下街の帝国臣民も、同じような状態にあると、私は考えています。」


街全体に精神侵食魔法をかければ、当然臣民にも影響が呼ぶだろう。


「城下街を覆うほどの領域魔法を?確かに可能かもしれませんが、そんなことが出来る使い手が敵側にいるとなると・・・。」


相手は限られてくる、クリスハイトはそう言いたいのだろう。だが、それを詮索している暇は、今はない。あくまで私の憶測だから、目的以外の問題は口にするべきじゃない。


「いいでしょう。陛下。ロウ殿の進言通り、魔導師団に霊子解放の領域魔法を展開させましょう。大規模な術式ゆえに、少々時間がかかるかもしれませんが。」

「うむ。よろしく頼む。それと、先に向かわせた騎士団にも下手に手を出すなと、ルクスを走らせろ。領域魔法ならば、入ったとたん影響を受けてしまうだろうからな。」


ようやく議会は終結に向かい、決まった指針通りに進むよう、文官たちが仕事をはじめに行った。だが、まだまだ問題は残っている。


「して、ロウよ。ここまで大きく出たのだ。相手の正体について、そなたは何か掴んでいるのではないか?」

「・・・それは・・・。」

「言いずらいことか?構わず申して見よ。」

「いえ、その、推測に推測を重ねるのは、あまりよくないと思いまして・・・。」


実際、議会を動かすため嘘をつきまくっているのだから、せめて公ではないときは、本心で話をしたいのだが、いまさら全部さらけ出すのも後が怖い。


「ロウ。例え嘘でも、妄言であっても、帝国という大きな理を動かすには、言葉と、決断力が必要なのだ。帝国の臣民を幸せにするためなら、我は真実すら伝える必要はないと思っている。そなたはそれを見事に実行して見せた。やはりそなたは、人の上に立つ器を持つ者だ。」


ほめられているとは思うが、おそらくジエトは薄々気づいてはいるのだろう。お咎めがないようで何よりだが、人の上に立つ器・・・か。その言葉は、本来あの人に向けられる言葉だったのに。私もいつの間にか、影響を受けてしまっていたのあろうか。


「では、あえて言わせていただきます。私たちを貶めようとする敵は、・・・帝国王族にいると考えられます。」


私の言葉に、目の色を変えたのは、ジエトや傍にいるフィリアオールだけではない。まだ残っていた数人の文官たちも、聞き捨てならないといったように怒りを露にしていた。


「あくまで憶測と申しておったが、何か根拠があるのか?」

「・・・私は、ロイオ様の客卿となったあと、アダマンテ領のテムザの街に戻った際、間者に一度襲撃を受けています。その刺客が、大地の記憶(アーステイル)を使用したのです。」


今さら隠すこともないと思い、そして、こんな場所で公言したのには大きな意味がある。ここ最近、私の周りで不可解な事件が起きていることは、ジエトは既に知っている。その問題と、オーネット領の問題は、同一犯だと言っているようなものだ。そして、アーステイルの血筋が絡んでいることを、私は知っている。知っていることを、敵に知らしめるために、あえて帝国議会という、偽りが許されない場で口にしたのだ。


私のものの考え方は、転生してからの貴族としてのものと、転生する前のものがあるが、どちらも基本的にまっすぐなものだ。まっすぐというのは、言ってみれば頑固とも取られるかもしれないが、小細工をするよりも、力押しで正面から相手に立ち向かう方が性に合っているのだ。


だからこそ、刺客に狙われている状況でも、身を隠すという選択をしなかったし、傲慢が許されるのであれば、たとえどんな手段でも実行に移す。目的のために手段を選ばない、それが私の処世術なのだ。


「口を慎め、小娘!貴殿の傲慢さは、許されざるものであるぞ!陛下、これ以上このものの言葉に耳を傾けてはなりません。誉ある帝国王族に反逆者がいるなど、正気とは思えませぬ。」

「そうです!きっと彼女も、精神侵食を受けているに違いない。即刻、解呪の魔法をかけねば!」


文官たちが後ろで何か言っているが、私は気に留めない。個人的に、ジエトやフィリアオール、ロイオやテレジアのフロストには、信情があるものの、あの時大地の記憶(アーステイル)の使い手に襲撃を受けた時点で、私の帝国王族に対する信頼は、地の底まで落ちていたのだ。


「・・・陛下、やはり私は、人の上に立つ器は持ち合わせておりません。帝国議会の文官たちの心でさえ、こうして遠ざけてしまうのですから。ですが、帝国に仇なす者がいるのであれば、私は、たとえ王であっても、臆することはありません。」


最後の言葉は、かなり危ない言葉だ。私は国王をも疑っているのですよ、というふうにもとらえられかねない。けれど、私は自分の信念を曲げるつもりはない。どれだけ気に食わないと思われても、傲慢だと思われても。


「・・・懐かしい目をしている。」

「・・・?」

「・・・なぁフィリア?」

「ええ。陛下。あの子の意思は、まだ途絶えていないようですね。」


二人が私に何を見てるのか、私以外の者たちは誰もわからなかっただろう。そう。私は、あの人の義を受け継ぎたいのだ。それを私に伝えたまま、ともにそういう国を目指そうと誓っていながら、今は亡きあの人のために。


「敵は、霊峰にあり、か。よいだろう。そなたの言葉、羅針盤としてみても良いだろう。」


ジエトはそう言って、私に微笑んで見せた。



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