休む間もなく
シルビアが、行方不明と知れたのは、王城で皆寝静まった頃だ。夜中の内に、アレンに乗って空を駆け、彼女を探しに行った。なんだかんだあって、再び王城へ戻ったのは、また真夜中だった。後先考えず、24時間活動していたのだと思うと、どっと疲れが襲い掛かってきた。シルビアの身柄を、引き渡した後は、私もアレンも寝台に突撃して爆睡だったのだ。怪我をしたのもあるし、魔法を使い過ぎた。当然と言えば当然だ。そんなだから、朝、目が覚めても体は酷く重かった。考えてみれば、ここまで大分強行軍だった気がする。休める状況ではなかったのもあるが、使命感に駆られて、ひたすら走り抜けてきたような感じだ。それでも、まだゴールしたとは言えないけれど。
昨夜のうちにシルビアを確保したことは、フィリアオールに大変驚かれた。まさか一日足らずで見つけてくるとは思っていなかったのだろう。私も見つけられるとは思っていなかったから、確かに、我ながらすごいことだと思う。
ただ、新たな問題が増えているのだが・・・。
「彼女が抵抗した理由は?」
「わかりません。精神侵食を受けていたのは確かですが・・・。」
精神侵食魔法は、あくまで正常な判断をさせないための、興奮剤のようなものだ。それを受けたからと言って、私に敵対しようなどと仕向けることはできない。つまり、彼女には明確に私を攻撃する理由があったということだ。騙されているかもしれないけど。
「彼女の容態は?」
フィリアオールは、傍で控えている守衛に投げかけた。
「はっ。現在、魔法抵抗を施した軟禁部屋にて投獄しておりますが、まだ目は覚ましておりません。」
「そうですか。とりあえず、オーネット公爵には知らせて差し上げなさい。」
「かしこまりました。」
審問会も、彼女の目が覚めなければ、再開はできないし。その前にいろいろと確かめたいこともある。あと寝たいし・・・。
「とにかく、シルビア嬢の処遇については、審問会の後です。ロウ、今は体を休めてください。」
「え?いや、まだやるべきことが。」
「目にクマを残した状態で、淑女が人目に出てくるものじゃありません。あなたは仕事を完遂してくれたのですから。相応の休暇が必要です。」
フィリアオールの目は、子供を叱る親の瞳になっていた。彼女にこう言われては、引き下がるしかないだろう。そうして私は、王城の寝室に戻されて、せめて起きていて情報を整理していようと思ったのだが、その日は結局、机に突っ伏すようにして一日を眠って過ごしてしまったのだった。
再び目が覚めたのは、窓から夕陽が差し込んでくるような時間帯だった。
ちゃんとした服装で、椅子に座りながら寝てしまったからか、頭はさえているけど、体が痛くてしょうがなかった。涎も溢し放題で、なんともみっともない口元になってしまっていた。
寝ている間、側仕えが何回か来ていただろうから、寝顔を見られてしまっただろう。王城には今、ライラもエルザもいないから、知らない侍女にあられもない姿を晒すのは、少しだけ恥ずかしかった。
火がほとんど沈み始めた頃、夕食と一緒にメイドたちがやってきて、食事をとりながら、寝ている最中のことを聞いていた。
「緊急招集?」
「はい。詳しい話は分かりませんが、王領を守護する他領から派遣された騎士団が、再招集されて、オーネット領へ向かったそうです。」
「オーネット領に・・・。」
王領の治安維持と守護のため、各地から集められた多国籍な騎士団。彼らは王領騎士団に変わって、このグランドレイブに集められたのだが、彼らが再びどこかへ出向くなど、よほどの大事がオーネットで起きたのだろうか。
食事をとりながら、嫌な予感が再び喉元まで上がってくる。ミレニアフォストの森での惨状、ヘラクレスの出現。思い当たる節があり過ぎて、また面倒なことになっていないといいが。
しかし、想像しているよりもことは大きく膨れ上がっていたようだ。
夜、王城は慌ただしく人が動いていて、正しく緊急事態という感じだった。どうやら謁見の間にて、多くの権力者が集って話し合いをしているそうだ。謁見の間ともなれば、ジエトもいるだろうし、大臣たちも勢ぞろいで事に当たっているというのは、想像していなかった。
私の元へ情報が来たのは、翌日のお昼前だった。
「オーネット領城が・・・占拠された!?」
「はい。正体不明の軍勢が、領城を占拠し、城下街ごと制圧したそうです。」
「民間人の被害は?」
「先日、王領にある戦力を向かわせたところです。まだ何も情報は入ってきておりません。」
昨日メイドたちが言っていたのはそのためだったのか。
あまりにも唐突な出来事のせいで、頭がついていかなかった。領城が占拠されたということは、帝国は、侵略を受けているのだろうか?




