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ロードオブハイネス  作者: 宮野 徹
第三章 陰謀渦巻く貴族社会
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魔を狩る者と白翼の悪神

王領からいざ西へ、オーネット領へ向かって飛んではいるものの、目印も何もない空の旅は、空を見ながらいかねばならない。この世界ではまだコンパスが普及していない。磁石自体は発見されているだろうけど、それを使ってどうこう、という技術は確立されていない。なにせ、魔法があるのだから、科学よりも魔法の方がよっぽど便利というものだ。


とはいえ、私は前世の知識があるから、おそらく正確に西の方がへ進んでいるはずだ。なぜなら、ちょうど真後ろの空が白んできたからだ。


――― ロウ ―――


「なに?」


――― ソロソロコウドヲサゲルゾ? ―――


「ええ、お願い。」


明るくなってくれば、たとえ高高度を飛んでいたとしても、人々に見られる可能性が高くなる。それに、オーネット領には、既に入っているだろうから、どこら辺まで来たか確認するためにも、降りるべきだろう。


アレンは、緩やかに高度を下げながら渦を巻くように旋回してくれて、おかげ余裕をもって地上を観察することが出来た。どうやらオーネット領のちょうど中心部までは来ていると思われた。


ミレニアフォストの森。オーネット公爵が言っていた大森林が位置するのが中心部だ。眼下には、今渡す限りの大自然が広がっていて、人の手が加わっている様子は見られなかった。


「ここまで大きな森は、はじめてみるわ。」


――― イイトコロジャナイカ ―――


ある意味開拓が進んでいないとも考えられるが、この森はオーネットにとってとても重要なものなのだ。

アレンは、少し開けた岩場に着陸し、翼を折りたたんだ。龍の姿からは戻らず、そのまま森の中へはいっていった。この森がどうしてオーネットにとって重要なのかというと、ここにはヴァンレムが群れを成して生息しているのだ。


4つの公爵領の中でも、最大の勢力と言われているのがオーネット領だ。その理由は、陸上の、最強最速の部隊、ヴァンレム部隊のおかげと言ってもいい。それらを手懐ける術、そしてこのミレニアフォストの管理を長年続けてきたからこそ、オーネットは帝国において最大の戦力を有していると言われるのだ。


戦が起きる度に、オーネット領は武功を上げ続け、その魔法特性の強さも相まって、公爵家の地位を盤石のものとしている。もしオーネット領が帝国に反旗を翻せば、国そのものが滅びかねないくらい五分五分の戦争になると言われ、帝国の懐刀と言ったところだろう。


「そのオーネットが、本当に謀反を企てていたとしたら・・・。」


――― ヴァンレムッテノハ ソンナニスゴイノカ? ―――


「まぁね。こと地上戦においては無敵にも等しいかもね。」


ヴァンレムの恐ろしさは、目で追うことのできないほどの速度だ。体の大きさこそさほどではないが、人を乗せても馬の倍以上の速度で駆けるのだ。馬と違って身のこなしも小回りも聞く。そんな生き物を相手にして、人間が太刀打ちできるはずがない。


「野生のヴァンレムは、群れを成して行動するの。群れにはボスがいて、狩りなんかは全員で協力して行うそうよ。」


群れにターゲットにされた生物は、彼らに見つかった時点でゲームオーバーというわけだ。


――― ソンナキケンナセイブツガイルトコロニ ベッソウガアルノカ? ―――


言われてみれば、おかしな話だ。シルビアの母親の別荘だと言っていたけど、どういうことだろうか。考えていると、ふとアレンが足を止めた。


「どうしたの?」


――― チノニオイダ ―――


「っ!?」


森の中で血の匂いがする、というのは、いつだって危険がすぐ近くにあるというサインだ。私の鼻には匂いなど感じないが、龍の姿でいるアレンだから気づけたのだろう。問題は、なんの血であるか、ということだ。


こんな森の中に人が襲われているとは思えないし、普通に考えたら、野生生物と考えるのが妥当なのだが。龍の姿のアレンの表情は、引きつっているように見える。ゆっくりとその歩を進めながら、森の木々をかき分けていくと、匂いの元となる現場はすぐに見つかった。だた、それは私たちが想像していたよりも、はるかに悲惨なものだった。


そこにあったのは、無数のヴァンレムの死骸だった。頭がもげたもの、腸が飛び出ているもの、その形は様々だったけど、何よりすさまじいのは、周囲に飛び散った血の跡だった。まるで一か所に死体を集めてそれを四方から押しつぶしたかのように、辺り一体に飛び散っている。素人目に見ても、異常な飛び方だ。さらに、魔物はその血に毒を持つものがある。ヴァンレムもその一種だ。毒をもった血が、木々に飛び散り、毒を受けた部分から木は溶け落ち、溶けた物体からは、不快な異臭を放っていた。まるで北部の戦場跡のような光景だ。木々がある分、こちらの方が余計禍々しいかもしれないが。


「ひどい有様ね。死に方というか、獲物として狩られたって感じじゃなさそう。」


――― ニンゲンノシワザッテワケデモナサソウダナ ―――


アレンの言う通り、地面が大きくえぐれたあとや、大きなひっかき跡なんかが、そこら中に残っている。ただそうなると、余計に分からなくなってくる。


この森は、オーネット家がヴァンレムを生産するための特別な森だ。森全体を領域魔法で覆っていて、人間以外の生物は、物理的に森を行き来できないようになっている。ごく自然な形でヴァンレムを生息させ、戦力とするための調教をするための、いわば放牧場だ。当然ヴァンレム以外の生物も、営みを作っているからいて当然なのだが、その場合彼らより強い生物がいるとは思えない。


さらに奥へ進むと、何かを引きずった跡が見受けられる。死体となったヴァンレムを持っていった跡だろうか。その痕跡を辿っていくと、森が開けて高い草が生い茂った空間に出た。今はアレンに跨っているから関係ないが、地に足ついていれば、かなり邪魔になる高草だった。


森が開けたおかげで気づくことが出来たが、空を見ると煙が上がっていた。


「・・・?火事?」


――― ミタイダナ ―――


こんな森の中で、火事が起きる場所など限られている。


「急いでアレン!」


目標を定め、豹のように身を低くしてから、4つの足で地面を蹴り上げた。馬よりも、ルクスよりも早く駆ける背に乗り続けるのは、なかなか大変だったが、別にきれいに乗りこなす必要もないから、普通に足を立てたりしているけれど。


火事の元へはすぐにたどり着いた。こじんまりとした、趣ある建物が半焼している。今は煙を吐き出すのみとなっていて、火は収まっているようだった。おそらく、あれがオーネット家の別荘なのだろう。それがどうして火事なんかに・・・。


――― ダレカイル ―――


燻る建物の前に、人がへたり込んでいた。膝をつき、首を垂れるようにしている。ただ、傍目から見る限りでは、火事に絶望しているようにも見えない。そもそも彼女がそんな気の弱い人間でないことは、嫌というほど知っている。


彼女、シルビアがそこにいたのだ。彼女の相棒である、タイタンネストのヴァンレムの姿は見当たらないが、彼女の身なりは、ボロボロで血まみれだった。シルビア自身が怪我をしているようには見えないけど、あまりに異様な姿だ。


「シルビア!」


アレンから飛び降りて、彼女に駆け寄ろうとすると、


――― ヨケロ! ―――


アレンの声が耳に届き、私は瞬間的に足を止めた。すると、目の前を空気の層が薙ぎ払っていくような気がした。直後に、足元の地面が爪で引き裂いたようにえぐれて、ちょうどその線上にあった小石が真っ二つに割れた。


明らかに魔法による攻撃。その正体は、おそらく・・・。


「私の・・・大事なものを奪うのは、・・・お前か。この、生娘!」


シルビアはゆっくりと立ち上がり、こちらを振り向いた。見間違うはずもない髪色、オーネット家特有の銀髪は、返り血らしきものに汚れている。髪も乱れれ、一流の令嬢として名を馳せている彼女のイメージからは、想像もつかない姿だった。


「シルビア!あなたと争うつもりはありません。私たちと一緒に、王城へk・・・。」

「黙れぇ!!」


急に大声をあげたシルビアは、彼女の側に落ちていた大曲刀を拾い上げ、意味もなくそれを地面に叩きつけていた。


「!?」


いや、意味のない行動ではない。とっさに刺剣を抜いて、目に見えない衝撃波をどうにか防ぎきった。


「ぐうっ!」


重い。直接剣を受け止めるよりも、明らかに異常な重さがある斬撃。下手をすれば刺剣事切られていた可能性もあっただろう。受け止め方を一歩間違えれば、今の一撃で死んでいただろう。


「シルビア。ここで戦っても、意味はありません。私情の決闘ならば、いつでも受けてたちます。ここはおとなしく・・・。」

「黙れと言っている、薄汚いガキが!私は世界を壊す。私の大切なものを奪う貴様たちを、破滅へと追い込んでやる!」


彼女の言動、明らかに正常ではない。いつも冷静で、性格の悪い彼女の姿はどこにもない。目も血走っていて、視線が定まっていない。洗脳?あるいは侵食の魔法で意識に傷を与えられたのかもしれない。


――― コロスノカ? ―――


「いいえ、少し痛い目に合ってもらうだけよ。あなたは手を出さないで。」


――― ダマッテミテイロト? ―――


「これは、帝国の問題。あなたなら、シルビアを傷一つ付けることなく、制圧できるのかもしれないけど、帝国の人間ですらない、貴方の手によって敗北を喫するのは、彼女にとって大きな侮辱になるの。理解してほしいとは思わないけど、これは私がやらなければいけない。」


――― ・・・ ―――


本当に理解してくれたのかどうかはわからないけど、アレンは身を引いてくれた。たぶん、思うところはあるんだろうけど、今はそれをしている暇はない。


「コロシテやる。小娘が!」

「・・・シルビア、貴方にいったい何があったのかは測りかねますが、黙ってついてくる気がないのなら、仕方ないですね。泣いて許しを請いても、私は止まりませんよ?」


魔法触媒の指輪がしっかりはまっていることを確かめて、愛用の刺剣を構えた。


「・・・汝、を照らす白の神。光あるところに汝あり。その輝きは、遥か彼方、星より継ぎし威光なり。我、今汝を権能をこの身に宿し、その威光を体現せし者となろう。・・・・・・。最後の忠告です、シルビア。剣を捨てなさい。」

「黙れぇ!!!」


本当はこんなことをしている暇さえ惜しいのだけど、やらねばならないというのなら、私が止めるしかない。


「・・・白翼の悪神(ライア・カハネ)、傲慢なる私をお許しください。・・・来なさい、シルビア!」


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