龍を駆る令嬢
結論として、私とアレンは、オーネット領へ向かうことになった。オーネット公爵に、シルビアが何かあった際に向かう可能性がある場所を訪ねたところ、領城ともう一つの候補があった。
「ミレニアフォストの森、ですか。」
「うむ。オーネットの大森林とも呼ばれる大きな森でね。そこに我が妻の別荘があるのだよ。森の中に隠れるようにある小さな別荘さ。シルビアは幼いころその別荘で育ったんだ。それに、今では緊急時の避難先として残してあるから、もしかしたらそこへ向かったのかもしれない。」
周りが自然に囲まれていて、隠れ家になっているのなら、そこへ向かった可能性は高い。シルビアにどんな思惑があったとしても、そこへ向かうには十分な理由だ。
オーネット公爵はずっと領城にいたそうだから、彼女が城に戻った可能性は低いだろう。
「では、その森へ向かいます。」
「ロウ殿。どうか、娘を・・・。」
「ご安心ください、オーネット公爵。私は、シルビア嬢に危害を加えるつもりはありません。ただ、抵抗をされた場合、無傷でとらえることは難しいと思いますので、それについては覚悟をして頂きたい。」
これは脅しでもなんでもなく、事実を言っているだけだ。オーネット家の魔法特性、滅尽は人間に対してはほとんど意味を成さない。しかし、彼女が駆るヴァンレムは、私一人では到底及ばない生き物だ。まともに戦えば、やられるのはこっちの方だろう。
オーネット公爵は、何も言わずに頷いてくれた。できれば私も戦うような真似はしたくないけれど、向こうがその気なら、こっちも黙って見過ごすことはできないのだ。
「ロウ。今回のことは、あえて陛下やエクシアのロイオにはお伝えしないでおきます。」
「フィリアオール様、ありがとうございます。必ずや、シルビア嬢を見つけ出して見せます。」
「それと、アレンを街中には決して降り立たせないようにしてください。それが条件です。それに関して、私は一切責任を取りません。いいですね?」
「はい。」
そんなこんなでオーネットへ旅立つ準備が始まったのだが、エルザをどうするかという問題になった。彼女は私たちの護衛ではあるが、元々はロイオがつけた監視だ。私たちが下手をしたようにと。
だが、状況が状況なため、下手をしなければならなくなってしまったのだ。
「せめて私も、話し合いに参加させていただければ・・・。」
「ごめんなさい、エルザ。でもわかってほしい。今は緊急時なの。」
「・・・はぁ、王妃様もお許しになったのなら、私が何を言える訳もありません。ですが、報告はさせてもらいますよ?いずれ、ロイオ様のお耳には入れておきますで。」
「ええ。それはもちろん。罰は受ける覚悟ですから。」
とりあえず、全てが片付いてからだ。今はとにかく、山積みになっていく問題を解決しなければならないのだ。
「では、私はテムザの街へ戻ります。ハンターズギルドのことや、例の襲撃者についても、そろそろわかっていると思いますので。」
「そうね。そうしてくれる?」
私はエルザに私の使いである証のペンダントタグを渡した。これがあれば、領城のハイゼンやギルドのエルフリードにも、話を通しやすいだろう。
「それではロウ様。それから、アレン殿。アダマンテのテムザでお待ちしております。」
「よろしくね。」
エルザを先に見送った後、私たちも仕度を整えて、王城の上階、以前翼竜で降り立った見張り塔まで来た。
「こんな夜更けに出ていくのか?」
「夜の方が人の目から逃れられるでしょう?それに、急いでるんだから。」
「へいへい。仰せのままに、お嬢様。」
「ちょ、変な呼び方やめてよ。」
アレンは見張り塔から飛び降りると、空中で龍の姿へ変化した。生物のものは思えない大きな羽ばたきの音がすぐ傍で聞こえる。目の前には赤黒い甲殻と巨大な翼をもった龍が、私を見つめていた。
――― トベ ―――
見張り塔からアレンの元まではかなり距離がある。そんなに近づくことはできない。
「ちゃんと受け止めてよね?」
――― ワカッテルヨ ―――
見張り塔の柵に上り、思い切ってアレンに向かって身を投げ出した。ちらっと下を見た時、自分が完全に、空に投げ出されているのが認識できたが、アレンの長い尾が私を巻き付くようにして捕まえ、そのまま彼の背中へと運ばれた。
「・・・器用ね。」
――― マァナ ソレジャア イクカ ―――
アレンの背中には、鐙も手綱もない。むき出しになった甲殻に手をかけて、どうにかバランスを保った。龍化した左手なら、手を斬ることもない。
アレンが大きくつばさを上下させると、体がぐんっと引っ張られるような感覚がした。翼竜の加速とは比べ物にならない、力強い飛翔だった。
天高く上空へ、眼下に見えていた王城がみるみる小さくなっていく。やがて周りに雲が見え始めることになると、さらに上に見える星々の輝きが、異様にまぶしく見え始めた。
翼竜の背に乗っても、ここまで高く飛んだことはないかもしれない。生身の体でこんな世界へ到達したことに、不思議と心が躍っている。
「さぁ、西の方角へ。お行き!」
――― ヨクリュウアツカイスルナ ―――
アレンはそうは言いながらも、素直に西へ進路を取った。まさしく天を賭けるように、私たちはオーネット領へ飛んでいった。




