傲慢
「いや、ダメだろ。」
急遽呼び出されたアレンは、私の考えを聞いてそう答えた。
「別にお前を乗せるのが嫌って言ってるんじゃないぞ?俺は、龍の姿に成ることを禁じられている身だからダメって言ってるんだ。」
確かに彼は、ロイオから念を押されて、変身しないように言われている。彼にとっては、煩わしい縛りでしかないと思うから、頼めば軽く引き受けてくれると思っていたのに。
「あなたが、人間の立場でものを言うとは思わなかったわ。」
「俺だって道理くらいわきまえてる。」
私が提案したのは、翼竜の代わりに龍であるアレンに騎乗して、帝国中を探そうというものだった。現状、竜使いによって手懐けている翼竜は、全て戦場へ出向いている。仮に残っていたとしても、アダマンテ領城まで戻らなければならない。そんな暇も惜しい今、彼に乗っていくのが、最善最速の案だ。
「あなたなら、帝国中を飛び回れる。」
「人目につく。確かに俺は、人間に見られたからと言ってなんとも思わないさ。けどそんな風に思わない連中が、無駄な争いを起こそうとしたから、あんたは今、微妙な立場にいるんだろうが。」
「今回は、ちゃんとした理由があるわ。反逆の容疑に駆けられた貴族を探すため。私たちの行動は、善なるものよ。」
「待ちなさい。ロウ。少し落ち着いて、貴方らしくないわよ。」
つい会話のテンポが上がってしまって、フィリアオールに制止されてしまった。
「彼と共に、シルビアを探すのは確かに最善と言えるでしょう。ですが、二次的な問題が多すぎます。看過できるものではありません。」
「二次的な問題というのは、臣民に見られた場合のことですね?」
「そうです。突然巨大な龍が帝国中で現れたら、臣民にいらぬ不安を与えます。ましてや、それに公爵家の娘が、乗って操っていると知られれば、貴方の家だけにならず、帝国の対する不信任に繋がる可能性だってあります。」
「帝国臣民は、アレンに乗って空を飛んでも、貴族が龍に乗って攻めてきたなんて思ったりはしませんよ。」
「それは、自惚れではありませんか?ロウ。」
「いいえ、自惚れなどではありません。なぜなら、臣民は龍族の存在を知らないからです。帝国領土内には、時たまに翼竜が侵入してくることはままあります。ですが、それらは騎士団が早急に対処し、討伐するか遠くへ逃がすかしています。そういう姿を見ている臣民が、龍族を見て、どう思うでしょう?」
「・・・。」
帝国臣民は龍族を知らない。空を飛ぶ飛翔生物を目にしても、魔物か翼竜としか思うしかない。彼らがアレンに対してとる行動は、魔物の襲来を帝国騎士団へ伝えることだ。その龍に、貴族が乗って操っているとしたら、臣民は飛来した生物に対して、恐怖を抱くだろうか。
「臣民は魔法を知りませんが、魔法の存在は知ってます。竜使いについて知っていなくとも、不思議な現象を魔法であると結論付けることはあります。確かに、一時は不安を煽ることもあるでしょうが、そこに貴族と魔法が関わっていると知れば、彼らが抱くものは、解消されるでしょう。私はアレンと、龍族と共に帝国の空を飛ぶのではなく、翼竜に乗って帝国反逆の疑いがある容疑者を捕えに行くのです。」
「・・・。」
「・・・アレン、何か言いたいことがあって?」
「いや、あんたの言う理屈はわかる。所詮、庶民には何もわかりはしないっていうことだろう?そりゃあそうさ。・・・けど・・・。」
アレンは、なんだか歯切れが悪い感じだった。
「なに?」
「・・・俺は、そういう傲慢な振る舞いはしたくない。」
「えっ?」
頭を金槌で殴られたような気分だった。私は、心のどこかで彼を、こういう話には乗ってくれると思っていたのだろう。所詮は龍族、異世界の住人だと。だからこの世界のルールに従わなくていいとなれば、思うままに行動する人だと思っていた。
けれど、今は彼が私に向けている視線は、今までに無いほど悲しげなものだった。
「・・・いや、今のは忘れてくれ。協力すると言ったのは俺だ。あんたが俺の背に乗っていくというなら、俺も行こう。ただ、責任は取らないからな。エルザの説得も、あんたがやってくれ。」
彼は、そういって応接間から出て行ってしまった。
「・・・ロウ。大丈夫ですか?」
「フィリアオール様・・・。」
「あの青年は、貴方が思っていたような、無邪気な人ではなかったようですね。」
「・・・申し訳ありません。」
「謝る必要はないのですよ?あなたの考え、全肯定はできませんが、今は一刻を争う時です。私は、行ってもよいと思います。ただし、街中へ降り立つのだけはしないように。なるべく人目は避けるように。いいですか?」
「はい。」




