審問会、第一
オーネット領より、フィリアオールの召喚に応じたウンウォルが到着し、すぐに審問会は開かれた。今回の審問会は、あくまで事情聴取が目的のものだ。まだウンウォルは罪人と決まったわけではなく、それを確かめるための審問会だ。
司法所に集ったのは、フィリアオールをはじめとした今回の審問会を開いた陣営。フィリアオール、私、そして証人になるという理由でエルザにも同席してもらっている。また、ヘイローズのフロストからの親書をすでに陪審員に提出済みで、魔法都市での事件を隠すことはできなくなっている。
対して、召喚されたオーネット公爵は、従士らしき男を一人連れて、司法省へ姿を現した。今回の審問会は、最古権力者であり、被害者でもあるフィリアオールが仕切ることになっている。司法省には幾人か、やじ馬が集っていて、準備は万端だった。
「召喚に応じ、参上いたしました。オーネット領公爵、ウンウォル・オーネット・アルバトロスでございます。」
「よくぞ来てくれました。オーネット公爵。審問会は召喚に応じない無礼者も多くいると聞きますが、貴方がその一人でないことにほっと一安心していますよ。」
「王妃殿下、ご機嫌麗しゅう。我が、オーネット家の潔白を証明するためです。どこへなりとも参上いたしましょう。」
オーネット公爵は、娘と違って温厚そうな人物だ。もともと文官で、争いを好まない人物だったと聞く。すでに齢55を超えているため、余計そう感じるのかもしれないが。見た目からは腹黒さはあまり見受けられない。
「早速ですが、オーネット公爵。あなたの騎士団が、ヘイローズの私の離宮へ押し入ってきた事件について、話を聞かせてください。いったいどういった理由で、騎士団の派兵を行ったのですか?」
司法省の係りの者が、袖から前へ進み出て、オーネット公爵へ事件の詳細を綴った羊皮紙を渡した。それを見た公爵は、大して慌てる様子もなく、従士のものに合図を送ると、従士がフィリアオールの前へ出て封をされた親書を渡してきた。
「それは濡れ衣でございます。今お渡しした親書に、公爵領で騎士団の運営記録が綴ってあります。事件が日を見ていただければわかると思いますが、その日騎士団に特別な出兵は行っておりません。」
フィリアオールが受け取った親書を私も横眼で覗き込んだ。事細かに騎士団の運営記録が大きめの紙に書かれている。召喚を受けてからそれほど日数は立っていないはずだが、短期間で潔白を証明する証拠を取り揃えてきたのだろう。さすが公爵家と言ったところか。
「ではあの騎士団は、偽物だったと?」
「何者であるかは、わたしにもわかりませぬ。ただ、我々とは無関係であるとご理解いただきたい。」
フィリアオールが彼の言い分を認めると、私の方をちらっと見て、発言を促された。
「・・・アダマンテ公爵家、ロウ・アダマンテ・スプリングです。オーネット公爵様へ
お伺いします。あなたは、私の命か、あるいは身柄を狙っておいででしょうか?」
「・・・?」
ややストレートな言い方だが、審問会ではこれくらいまっすぐにものを申した方が、下手を撃たないで済む。ここには事件関係者と司法省の人間に、まったく関係ないやじ馬がいる。彼らは単なるやじ馬ではなく、話に矛盾がないか、態度に不自然さはないかなど、ごく自然と見ながら判断しているのだ。それを利用して、強気に出て相手が動揺でもすれば、優位に話を持ち込める。ここでは、そういう駆け引きが行われているのだ。
「私はここに至るまで、3度の襲撃を受けています。一度目は、北部戦線のフォルゾの街。二度目が、故郷のテムザ。そして、三度目が事件となったヘイローズです。オーネットの騎士団が名乗りを上げていたのはヘイローズの事件のみですが、他二回の襲撃も、オーネット家によるものなのではないですか?」
「ロウ殿。言いがかりはよしていただきたい。我らに何の意があって、そのようなことを?」
「ロウの身柄を狙って、騎士団をヘイローズへ差し向けたわけではないのですね?」
「ロウ殿がグランドレイブの霊峰へ入ったことすら我々には知らされていない。三度の種撃すべてが、我らの所業ならば、北部戦線からずっと、ロウ殿を監視していたことになります。現実的ではないと思いますが。それに、現在我が騎士団の半数は、王領警護の任を請け負っています。自領の戦力を減らすような真似は致しませぬ。」
「私の監視については、シルビア嬢にまかせ、ヴァンレムを使ったのではありませんか?」
「娘を?」
「あなたのご息女、シルビア嬢は今、北部戦線にいます。実際に顔を合わせてもいますからね。その時から、狙っているとすれば、私の追跡は可能になります。」
「それは、そうかもしませぬが・・・。」
「それに、襲撃の規模も、回を増すごとに大きくなっています。王妃様の離宮の従士たちを殺してまで、目的達成に固執した結果、騎士団を差し向けたのではないですか?」
疑ってかかっているが、実際はそこまで疑っているわけじゃない。これに対してオーネット公爵が違うと言えば、その主張を受け入れるし、向こうもただ黙って聞いているわけもないだろうから、あくまで形式として疑っているだけだ。
「すべて濡れ衣でございます。我々は、関与していない・・・。」
どうやら、反論できる材料を持ちあわせていないようだ。もっとも、こちらもオーネット領の騎士団、という点しか判断材料がないため、これ以上詰めるのはよした方がいいだろう。それとは別で・・・。
「わかりました。では、こちらの紋章について、何かご存じですか?」
私が取りだしたのは、フォルゾ、テムザで襲撃してきた間者が持っていたペンダントと、同じ模様を施したナイフだ。
「・・・?私は存じませんな。少なくとも我々が知る貴族の紋章ではないでしょう。」
私はその返答の態度を一辺たりとも逃さず観察していたが、演技ではなさそうだった。実際のペンダントを出されると、それについて知っていれば、あぁ、これがばれたのか、と開き直ることが出来るが、違うもので同じ紋章が施されていると、なぜあんなものに、という別の視点から動揺が生まれることがある。しかし、どうやらこれも空振りのようだ。
「ええ。私も、このような紋章は初めて見ました。これを持った間者が、大地の記憶を使用したのです。」
私の言葉にやじ馬たちもどよめきをあげていた。その名は、帝国王族のトップたちの名だ。そもそも間者が魔法を扱うこと自体おかしな話なのだ。魔法は本来貴族たちだけが扱えるもの。アーステイルの血を引く帝国王族が、間者として襲撃をしたというのが、どれほどおかしな話か。
「で、でしたら、我らオーネットにはなおさら、関係のないことでしょう。我らオーネット家には、親戚等を含めても、アーステイル家と婚姻したものはおりません。」
「・・・どうやら、そのようですね・・・。」
残念ながら、これ以上の聴取は、意味がない様だった。私は、聞きたいことを終えた旨をフィリアオールに目配せをして伝えた。
実を言うと、この審問会の間、竜使いを使って、オーネット公爵の声を聞き取ろうとしていたのだ。竜使いは、一般的に翼竜と意思疎通ができるもの、として知られている。しかし、その実態は、声を聴く魔法なのだ。声というものは、口から発せられたものではなく、いわゆる心の声というやつだ。竜使いはそれを聞き取ることができる。そして、声とは、どんな生物にも存在し、人間だって例外ではない。つまり、その気になれば、どんな生物も意思疎通を取ることが出来るというわけだ。
ただ、人の声は、翼竜に比べて非常に小さく、まともに聞き取ることも出来ない。魔法で、聞こえる声を大きくしようとすると、今度は周囲の音が大きくなりすぎて肝心の声を聴きとれなくなってしまう。外部から音を小さく、竜使いの声を大きくするという、なんとも面倒くさい状態を作り出して、ようやく声を聴けるようになる。さらに言えば、人間は必ずしも声を発しているわけでもない。それが出来るなら、アダマンテはもっと忌み嫌われる一族として存続していたはずだ。
けど、動揺や焦りが起きた時に、偶発的に声を引き出すことがある。それを狙って竜使いを展開し続けていたのだが、収穫はなかったのである。
自分にかけていたすべての魔法を同時にとくと、少しめまいがした。無茶をして状態を保っていたせい。まぁ、この様子だと、オーネット公爵の白黒をつけるのは難しいだろう。所詮、審問会は罪を告発する場じゃない。
「いいでしょう、オーネット公爵。あなたの証言は、貴方のご息女の審問会での参考にさせていただきます。現状、貴方の罪を証明する証拠はありません。ですが、容疑が張れたわけでもありません。しばらくの間は、王領での特務を命じます。このことは、陛下にもご了承済みです。」
「・・・はっ、心してお受けいたします。」
「一刻も早い、解放を望むならば、真犯人の確保に協力してください。」
最後にオーネット公爵は、フィリアオールに一礼をして跪いた。
人が少なくなった審問会場で、私とフィリアオールは考えをすり合わせていた。
「無理をしてくれたのに、こうも埃がおちてこないと、シルビア嬢の方も期待はできなさそうですね。」
「やはり、オーネット家は、無関係と思います。」
「そうだとして、わざわざオーネットの騎士であることを、名乗った理由がわかりませんね。むやみ名前を出せば、それだけ敵を増やすというのに。」
今回の審問会で、オーネット公爵も事態の収束に向けて、力を貸さざるを得なくなった。彼が、今回の事件をどう思っているかはわからないが、彼らにとってはいい迷惑だろう。
こうやって一つずつ可能性を潰していくしかない。次は、・・・シルビアだけど・・・。
本当に、何もしていないでしょうね。シルビア。
こういう駆け引きみたいなのすごい難しい・・・。
ごり押ししてるし。
面白く書ける気がしない。




