断罪の時は・・・
次の日は、私は時間さえあれば、魔力の物質化を行い、切り落とされた翼を形成し続けた。時にアレンに魔力を分けてもらいながら、意識を持ってかれそうになりながらも、どうにか翼を修復するに至った。
「できた!」
「できたなぁ。」
我が身のことながら、こんなにも美しい翼が存在しうるとは。翼は、淡く白く輝きを放っているかのようで、儚くも翼の小羽根からわずかに繊維が舞ってしまっている。
背中に、いや、翼に力を込めるとゆっくりとだが羽ばたくことが出来るし、飛ぶのは無理だが、飾りとしても邪魔にならない程度にはなったようだ。
「きれいですね。本当に。」
「ちょっと複雑ね。こうも美しいものだと。人でなくなってしまったのが残念に思えなくなっちゃう。」
本当は、普通の人の姿に戻りたいと思うけど、これはこれで満足してしまっているのだ。
「別にいいんじゃないか?生活に支障がなければ、そのままでいればいい。」
「それは、結構勇気がいる選択ね。」
とにかく、これはこれで良しとして、今日はフィリアオールの元へ行こうと思っていたのだ。何をするかというと、先日の事件について、王城へ使いを出したそうだから、今後の動きを確認したいのだ。
「それでは今日は、王妃様の元へ行きましょうか。」
「ええ。エルザ、護衛をお願いね。アレンも、来てもらうわよ。」
「はいよ。」
向かった場所は、ヘイローズを管理しているアーステイルの分家、テレジアの城だ。地下都市なため、テレジアの城は、かなりこじんまりとしていて、他のものと比べても迫力はない。だが、ここは魔法都市だ。華やかさで言えば、テレジアの城は他の死をに引けを取らないだろう。魔法の城、と言えばなんだかメルヘンチックな感じがするけど、実際はそんなかわいらしいものじゃない。この城ではテレジアの家長であるフロスト・アーステイル・テレジアが常に領域魔法を展開していて、何か悪さをしようものなら、すぐさま魔法による迎撃が行われる。城の中にいれば、どんな魔導士だろうとも、無事では済まないだろう。
テレジアの家系は、有力な魔法特性こそないものの、魔法に関する知識や技術を駆使して、アーステイル家の中でも、かなりの実力を持った家系だ。魔法大学を運営しているのもテレジア家で、常に魔法の研鑽を積んでいるのだ。
テレジアの城に来るのは実は初めてだった。もともとこの地下都市で魔法の研究を行っている、いわばインドア派の一族だ。貴族会議には、いつも代行者を派遣していたし、家長のフロストの顔は一度も目にしたことはない。話に聞く限りでは、自家から王族を輩出する野心も内容で、そんなことよりも新たな魔法の開拓や技術革新に熱心だとか。そのおかげで国王ジエトも信頼をおく帝国王族の一人だという。まぁ、実力主義のこの帝国においては、確かに珍しい部類だが、敵に回したら最も厄介な一家でもある。
先日も、離宮の事件で出てきた魔導師団は、数こそ多くは無いが、一領の帝国騎士団と同等の戦力とされている。テレジアが本気になれば、公爵領とまともにやりあえるのだ。そんな一家が野心がないことは、ある意味不気味ではある。最も私は、テレジアと敵対するつもりはないし、協力を仰げるのなら、ぜひ同盟を結びたいものだ。
城には門こそあるものの、衛兵の姿は一切なかった。ここでは生身の兵隊の守備は必要ないのだろう。この城では、あらゆる戦闘行為が禁止されている。いや、正確には戦闘行為自体は可能だけど、それを行えば、たちまちどこからか魔法の兵隊が現れ、制圧行動を取ってくる。魔法の兵隊は、物理的な攻撃が一切通らず、また城に施された領域魔法のせいで、城内での魔法はかなり制限されてしまう。まさにテレジアの城だ。魔法を極めた者たちは、この世界では圧倒的強者なのだ。
門をくぐると、どこからともなく、武装していない魔法の兵隊が現れた。彼らは何も言わずに私たちに同行しはじめて、行くべき道を示してくれた。どうやら道案内役のようだ。
「これが、領域魔法ですか?」
「こんなことまでできるなんて・・・。さすがはテレジア家ね。」
若干一名、魔法をものともしないものがいるのだが、入って大丈夫だろうか。別にアレンには中で大暴れする目論見なんてないだろうけど、万が一騒ぎになったりしないだろうか。
兵隊に案内されて通されたのは。どうやら謁見の間のようだ。話が早くて助かる。おそらくフィリアオールから話を聞いているのだろう。
兵隊が無造作に扉を開けてくれて、そのまま中へ通してくれた。私たちが中へ入るのと同時に、彼らは空へ消え去ってしまった。
「ようこそ、わたくしの城へ。アダマンテ公爵令嬢。」
奥で優雅に座っているのが、おそらく家長のフロストだろう。その隣には、フィリアオールの姿もある。
私は、彼女たちの御前まで進み、跪いた。
「お初にお目にかかります。フロスト・アーステイル・テレジア様。アダマンテ領、公爵家、ロウ・アダマンテ・スプリングと申します。」
私に倣ってエルザもひざを折り、形式的な挨拶を述べた。
「ロウ様の護衛を承っております、エクシア家に仕える、エルザと申します。」
最後にアレンは、適当に私たちの真似をした後、
「アレン。龍族だ。」
とだけ、挨拶をした。考えてみれば、彼が礼を失することの対策を考えてなかった。フロストが気を悪くしなければいいが、フィリアオールがいる手前、あからさまに彼を責めることはないだろう。
「龍族。ふむ。フィーから話は聞いていたけど、ごく普通の人みたいね。まぁいいでしょう。よく来てくれたわ三人とも。堅苦しいのは嫌いだから、楽にして頂戴。」
「ありがとうございます。」
挨拶を済ませると、フロストは指パッチンを鳴らして、魔法の兵隊を呼び出した。彼らはどこからともなく椅子とテーブルを持ってきて、いそいそと茶を入れる準備を始めた。私たちはそこへ座り、フロストも玉座からおりて、フィリアオールと共に同じ卓へ座った。テーブルの形は円形をしている。本来であれば、エルザ、アレンもだが、彼らと同じ卓につける間柄ではない。だが、円卓であるなら話は別だ。これは、それぞれが対等の立場であるあかしになる。
「さて、お茶が出来る前に、簡単な小話でもしましょうか。ロウ嬢?あなたのその翼。いったいどういう手品かしら。」
「実は、先日魔法大学にお邪魔いたしまして、そこで魔力の物質化についてを学んできました。」
私は、フロストとフィリアオールに、魔力の物質化についての話をした。
「さすがね。ロウ。実験記録を読んだだけで、そこまで体現させるなんて。」
「いえ、彼、アレンにいくつかヒントもらってのことですから。」
「それでもたった一日で、物質化を成功させるとはね。私に息子がいれば、貴方をお嫁にもらいたいくらいだわ。」
そういう話か・・・。フロストに本当に子供がいれば、この場で縁談話に花が開いていたところだ。テレジアの家にお嫁なり嫁養子なりにされた日には、毎日魔法の研究三昧。このヘイローズの街で都市の発展に貢献するだけの人生。自分に子供がいまれても、次期王選に推挙する才能があっても、この家の方針では、参加することはないだろう。完全なる引きこもり生活。引きこもりは言い過ぎかもしれないが、禁とされた魔導書を読み解くことが老後の楽しみになる可能性もありそうだ。・・・・・・まぁ、悪くないかもしれないけど。
「相変わらずね、フロスト。でも残念。この子、結婚話全部断っているの。」
「冗談に決まってるでしょ。息子どころか、夫だっていないんだから。第一、貴方の息子との件があったんだから、塞ぎ込んで当然でしょう?それについてはどうなの、フィー?ようやく離宮から顔を出したと思ったら、面倒事持ってきて。こっちはいい迷惑よ。」
「私が悪いみたいに言わないで。この子が人気者過ぎるのよ。ねぇ、ロウ。」
「そ、そう、ですね。」
それに関しては本当に申しわけないが、私の方でも何が起こっているのかわからないのだ。
ちょうどそのあたりで、魔法の従士が紅茶を入れてきて、私はこれまでの話をした。フォルゾの街での間者。テムザの街で狙われてから、先日の離宮での事件。エルザも一緒に説明してくれたので、信憑性は伝わるだろう。
キーワードとなるのは、見知らぬ紋章とアーステイル家の魔法特性大地の記憶、そして、オーネット公爵家。どれも嚙み合いが悪く、まったくもって繋がりが見えてこない。もし、これら全てに関連性があるのだとしたら・・・。
「帝国への反逆か、あるいはもっと腹黒い陰謀を企てているか、ね。この見知らぬ紋章がどこの誰の家かは知らないけど、あまりにも大物が動き過ぎている。」
アーステイル家にオーネット公爵家が、アダマンテ公爵家の人間を襲ったというだけで、前世であれば、大事件として報道されていたことだろう。生憎そういったメディアはこの世界にはないから、まだ公になっていないだけで、事の大きさは貴族としても平民からしても大変な出来事だ。
「オーネット公爵、もうすぐ娘に爵位を譲り渡すんですってね。そんな瀬戸際でこんな惨事を起こすとは思えないけれど。」
「すでに、王城へは使いを出しています。今は陛下もお忙しいでしょうが、私は明日にでも地上へ戻って審問会の準備をします。ロウ。あなたにも来てもらうわよ。」
「はい。」
ほぼ何らかの陰謀であることは間違いない。今回は人死にが起きているし、関係者は死罪を免れないだろう。私も、現場を見てしまった以上、次に相対したときは手加減をするつもりはない。敵の目的が何であれ、帝国を脅かすものに、断罪を下すつもりだ。




