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ロードオブハイネス  作者: 宮野 徹
第一章 魔物の大侵攻
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魔物の親玉

「さて、ユース侯爵。そろそろ話を聞かせてくれないか。」


私たちはしばらく有意義な会話に勤しんでいたけど、ライラが紅茶を入れてくれてたのを機に、父は本題に乗り出した。


「はい。・・・近年稀に見る魔物の大侵攻が、すぐそこまで近づいていると考えています。」

「規模はどのくらいだ?」

「正確な数は把握しきれていませんが、小物から大物まで、200万規模の大軍勢だと思われます。」

「200万!?」


私は思わず声を上げてしまった。今までも、魔物が帝国へ向けて侵攻をしてくることはあったが、その規模は、2000程度。多くとも2万ほどの軍勢だったから、その数の大きさがどれくらい馬鹿げていることなのかよくわかるだろう。


「アダマンテ領の帝国騎士団の戦力は8万。ロウお嬢様のお力や、各州公からも援軍を含めて、10万人規模の戦力を用意できたとしても、太刀打ちできるかどうか微妙なところです。」


200万の数とはいえ、相手は魔物だ。所詮は人間よりも知能の低い獣たち。冷静に対処できれば、帝国騎士一人当たり10頭の魔物を屠ることくらい訳ないはず。要するに、10倍の戦力までは、順当に対処できる相手なのだが、その倍の数を相手にしなければならないというのは、かなりの劣勢を強いられるだろう。


「それに、一番の問題は、集まっている魔物の種族です。」

「何がいた?」

「ほとんどがウルフ系の魔物ですが、斥候が望遠魔法で確認した中には、ブラッドベアや有翼型の魔物の姿もあったそうです。特に、空の魔物の数が尋常ではなく、翼竜もちらほら混じっているとの報告を受けています。」

「厄介ですね。」


それほどまでに多種多様な種族が集っているとなると、今回の大侵攻は単なる偶然が重なって起きたものではないのかもしれない。


魔物の侵攻と呼んでいるのは単に、人間が被害を受けているから、そう呼んでいるだけで、その実態は、食料を求めて魔物が群れを成し、人間の領土へ踏み込んでくるというだけのことだ。帝国の豊かな資源を求めて、そして人間を食すために。その行動原理はある意味、理にかなっている生態行動と言えるが、魔物には考える能などありはしない。本能のままに生きる獣だから、大侵攻はすべて偶然によるものだと考えられている。


しかし、今回のように大規模な群れを成す場合、偶然では片づけられない理由がある。


「おそらくですが、タイタンネストがいると思われます。」

「うむ、可能性としてはなくはない話だな。」


タイタンネスト。本来は魔物の親玉のような意味合いで使われる言葉だが、今回に限っては別の意味で使われる。知性ある魔物、とでも言えばいいだろうか。魔物の中にも、より優れた種族、あるいは特殊な個体というのは、当然のように生まれてくる。よく、物語の中では伝説の獣とかで呼ばれる奴らだ。タイタンネストの厄介なところは自身の力を認識していることだ。


生物は、たとえ魔物であっても魔力を以て生まれてくる。そこら辺にいる犬猫も微量ながら魔力を持っていると言われている。しかし、犬猫は自身に魔力があるなんて知ることはないし、知っていたとしても、それをどうやって使えば魔法を発現できるのか知る由もない。道具があっても、使い方を知らなければ何の役にも立たないのと同じだ。


タイタンネストは、自身の魔力を認知し、その使い方をしっている、つまり、魔法を使えるということだ。それくらいには知性を有していて、そんな奴だから、魔物を従えることも出来るのではないかと考えられている。


「お父様。姿を確認するまでは、断定するのは早いと思います。」


仮にタイタンネストが、200万の軍勢を組織しているのだとしたら、話は早い。タイタンネストをどうにか屠れば、群れは総崩れを起こすか、最悪逃げ出す魔物も出てくるだろう。


たいていの場合、魔物は恐怖によって服従する。畏怖する対象がいなくなれば、魔物が帝国を襲う理由がなくなる可能性だってある。


「相手は魔物です。いくらタイタンネストといえど、獣であることには変わりありません。奴らが欲しているのは、大量の食糧です。けれど、その食料は目の前にあるはずなのに、手を出さない。」


魔物は、なんでも食べる雑食生物だ。確かに、人間の街には豊富な食料がある。食べられればなんでも食べるのが魔物だ。だったらなぜ奴らは、目の前の同族たちに手を出さない?同族を食すのを拒んでいるのだとしても、多種多様な種族が集っている大軍勢では説明がつかない。


まず初めに、種族ごとの食料争奪戦が始まるはずなのだ。それなのに、群れの秩序を保っていることを考えると・・・。


「もしかしたら、タイタンネストよりも、もっと危険な存在がいるのかもしれません。」

「ロウ。お前の言いたいことはわかるが、いささか突拍子すぎないか?」

「いえ、アダマンテ公。私も同じこと考えておりました。以前から、魔物の動きに不可解なところがあるとお伝えしていましたが、まさにそのことなのです。」

「どういうことだ?」

「ここのところ、北部州への魔物の被害は、限りなく少なくなっています。北端の防衛線を守っている常駐部隊もほとんど戦闘を行っていません。」

「確かに、異変と捉えてもいいかもしれないが・・・。」

「はい。不信に思って何度も北の雪原へ偵察を送りました。冬が終わりましたので、魔物たちは北のエルレインへ帰っていったと思ったのですが、決してそんなことはなかったのです。奴らは、雪解けた雪原で、じっと何かを待っているのです。」

「待っている?」


ユース侯爵の話は、確かに不可解だった。魔物は得物を見つけたらすぐにでも襲い掛かってくるものだが、偵察隊は誰一人襲われることはなかったそうだ。


「雪原には日に日に魔物の数が増えていったそうです。危険を感じた偵察隊はすぐに帰ってきましたが、・・・これは、何かの前兆だと私は考えています。よくないものが、帝国に近づいてきていると、そう考えています。」


(よくないもの・・・か。)


ユース侯爵は、生まれた時から北部州で育った、いわばその土地のことをよく理解している人物だ。そんな人が、何かを感じ取っているというのは、確かに良くないことが起ころうとしているのかもしれない。単なる大侵攻だけではなくて・・・。もっと大きな存在が、帝国に来ようとしているのかもしれない。

私は、おもむろに父の顔を見た。それに気づいた父は、しばらく考え込んでいたが、何かを決心したように頷いた。


「長年、州公務めたお前が言うんだ。仮に間違いであったとしても、万全を規すべきだな。・・・ユース侯爵、貴殿はすぐに自州へ戻り、防衛線の構築を急がせろ。」

「は!」

「ジエト陛下に、事の顛末を伝えよう。ロウ。悪いが翼竜を使って、王領へ飛んでくれるか?今は時間が惜しい。お前が向かえば、事態の性急さを伝えられるはずだ。」

「はい。お父様。」

「ハイゼン、いるか?」


応接間の隣の控室で待機していた、従士長のハイゼンが音もなく入ってきた。


「各州公への連絡を頼む。それと、帝国騎士団の招集も。」

「かしこまりました。」

「事態は一刻を争う。皆、焦らず迅速に頼む。」


こうして、帝国の存亡を賭けた戦いは、幕を開いたのだ。

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