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ロードオブハイネス  作者: 宮野 徹
第三章 陰謀渦巻く貴族社会
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問題解決?

「ロウ!しっかりしろ。おい!」

「ロウ様、お気を確かに、気をしっかり持ってください!」

そばで、二人の声がする。聞こえているはずなのに、内容が頭に入ってこない。龍化の発作にも似た息苦しさが、肺を締め付けている。だけど、これは発作とは少し違う感じがした。

翼を大きくはためかせるだけで、意識が飛びそうになる。魔力による翼の修復は成功したのに、その制御はあまりに重すぎるのだ。まるで羽一枚一枚を精密に動かしているような感覚が、背中から伝わってくる。

考えるよりも先に、刺剣を抜いて今すぐ自分の翼を切り落とそうとしたが、腕に力が入らない。というより、うまく扱えない。手が自由に動かせない。意識が翼にばかり行ってしまって、他のことが出来なくなっていた。まるで、背中から無数の腕が生えているかのようで、それらを制御するのに、精一杯だったのだ。

「エルザ、お願い。翼を、落として!」

「・・・し、しかし!」

「早く!」

歯を食いしばって、どうにか立っている状態だけど、もはや一秒たりとも、この状態を維持することはできそうにない。かといって、翼を元のボロボロの状態に戻せるわけではなく、物理的に切り落とすしか考えが浮かばなかった。

「やって!早く・・・。」

エルザはなおも渋っているようだったが、剣を抜き放ち、翼の半分を綺麗に叩き切った。その瞬間、肺を締め付けていたものはふっと消え去り、腕の感覚も戻ってきた。視界が鮮明になって、翼に引っ張られていた意識が、頭に戻ってくた。

「おい。大丈夫か!?」

「はぁ、はぁ、はぁ、ええ。平気・・・、だから。」

急な出来事だったので、みんな驚いてしまったが、まさかこんなにも負荷の掛かるものだとは思わなかった。生物として経験したことのない未知の部位の感覚は、いきなりで制御できるものではないらしい。

「いったい、何が起こったんですか?」

エルザに支えられながら、とりあえず椅子に座って息を整えることにした。

「はぁ、たぶんだけど、翼がちゃんと形になったことで、新たに意識がつながったんだと思う。」

「意識、ですか?」

「腕には、腕の感覚が、足には足の感覚がある。けど、人間には翼の感覚はない。そもそも無いからね。でも、急にそれが生えてしまって、その感覚が一気に押し寄せてきたから、新たな感覚に体、というか、私の意識がびっくりしたんだと思う。」

「今は大丈夫なのか?」

「うん。まだ、少し翼に引っ張られてる感じがするけど、半分落としてくれたから、どうにかなってる。辛さもないし。」

生物というのは、そんな急に進化を遂げたり、成長するものではない。赤ん坊が急に大人の姿に成長しても、精神や体の感覚が追い付かなければ、赤ん坊のままだ。立つこともしゃべることも出来ない。少しずつ、身長が伸びたり、個人を獲得していくことで、人は成長する。その過程を吹っ飛ばして、いきなり翼を生やしてしまったため、その急成長に私がついていけなかったのだろう。

「あんた、そんなんばっかりだな。」

「まぁ、ね。っていうか、これはあなたのせいでもあるんだけど?」

「それについては申しわけないと思ってるが、勇敢というか、無鉄砲というか・・・。」

そういう性格であることは認める。二回目の人生な故、思い切りが良すぎるというのも考えものだ。

「でも、魔力の物質化、何とか成功したんじゃない?」

まさかこんなにも早く成功するとは思っていなかったが、風向きがよくなってきたのは間違いない。

「それで?その魔力の物質化をして、何をしようっていうんだ?」

「何をしよって気はないけど、こういうのは解明していけばいろいろとわかってくるものよ。私の体に起きてる、龍化の現象についてね。」

実際に経験してみると、案外いろいろなことがわかるものだ。それを他人に説明するのはすごく大変だけど。

「アレン。あなたは、龍族の気配が本能的にわかるって言ったわよね?」

「ああ。龍族はみんな、他の龍族を感知できる。今もあんたからは、龍族の気配がしている。それは間違いない。」

「うん。ありがとう。でもあなたはこうも言っていた。私の魔力とあなたの魔力が安座りあってしまっていると。剣の先で指を切ってしまった表紙に、混ざり合ってしまったんだって。」

「あぁ。そう思ったけど、違うのか?」

「混ざり合ったっていうより、単にあなたの魔力が私の体に入り込んだって言った方が正しいと思う。今、私の体には、元々あった私の魔力と、貴方の魔力が同居しているのよ。」

「んー。何か違うのか?」

「実際はあまり違いはないけど、この魔力の物質化を説明するのには、かなり重要だと思う。最初、私だけの魔力で、翼を修復しようとしたけど、うまくいかなかったでしょう?魔力が少ないからかなって、思ってたんだけど、たぶんあなたの魔力じゃないと、物質化できなかったのよ。」

「それは・・・、その翼や腕が、俺の魔力の影響を受けてできたからか?」

「それもあると思うけど、大きな理由は、この魔法大学の実験記録に書いてある通りよ。」

「・・・魔力の純度、ですね。」

「そう。おそらくだけど、アレンの、ううん。龍族の魔力の純度はものすごく高いんだと思う。逆に私たち、人間の魔力は、不純物まみれなんだわ。」

「その理由は?」

「純度っていうのが、その名の通り、純粋さを表しているなら、私たち人間は、子を産むたびに、その純度を濁していくからよ。」

帝国において、魔法を使えるものは、基本的に貴族の出身か、帝国王族となっている。彼らは日夜人間によるブリーディングを行っている。寄り寄り血統を作り出すため、よりよい人間を輩出するため。人間は血と血を掛け合わせて、新たな力を生み出してきたはずだが、龍族は違う。アレンの元居た世界では、龍族は希少な種族、世界に100いるかどうかもわからない種族で、その中で交配を重ねていれば、当然その血筋は濃くなる。それが魔力の純度に関わっているのだとすれば人間の魔力は、混ざりまくって、濁りまくったものとと言えるはずだ。

「龍族は、人間よりも子を産む機会も少ないだろうから、血が混ざることも少ない。だからあなたの魔力を分けてもらってから行ったの。で、私の魔力とあなたの魔力が同居している件についてだけど、もし混ざっていたら、純度が落ちるから、物質化には至っていないはず。そのため、私の体の中で別々に独立していると仮定したの。」

まぁ、なんで同居しているのか、とか、キス一つで魔力の受け渡しができるのか、とかはいまだによくわからないけど。

「つまり、ロウ様は、アレン殿から受け取った魔力だけを使って物質化を行った、ということですね。」

「そのつもり。実際できているかどうかなんて、感覚的なものだからわからないけど。」

魔力の物質化と、翼の形成についてはおおむねこんなところだろう。じゃあ、なぜ私はアレンの魔力を求めてしまうのか。彼の言うように、本能的に男を求めてしまっているという、不埒な見解は少しばかり見直すことが出来ると思うのだ。

「初めから思っていたんだけど、発作が起きると、貴方から魔力を受け取るまで、収まらないでしょう?あれって、欲求を満たすためじゃなくて、足りなくなった魔力を補おうとしているんじゃないかしら。」

本来人間の魔力は、寝ればある程度回復するし、そもそも魔法を使ったりしなければ、無くなることはない。けど、どうしてか私はアレンの魔力が体の中に入ってしまっている。そちらの魔力はどうだろうか?他人の魔力が同居しているものの、それが無くなりそうになったら、どうやって補うのだろうか。

「つまり、何らかの理由で、あんたの中にある俺の魔力が消費され続けていると。それを補おうとして俺から魔力を補充する禁断症状が現れると。」

「禁断症状って言わないでよ・・・。」

「でもそういうことだろう?大方、その翼や腕が、魔力消費に拍車をかけているのかもしれんな。」

アレンの言う通り、この翼は、ほとんど彼の魔力で出来ている。そして、翼の羽は抜け続けているため、ある意味魔力を消費しているとも考えられる。腕に関してもそうだ。鱗上の皮膚が渇いて、捲れて来てしまっている。体の一部が、たとえ薄皮一枚だとしても体から離れれば、それは、魔力の塊をそこら中に落としまくっているのと同義だ。

「なるほどな、筋は通っている。」

「まだ憶測の域を出ないけどね。けど、事実なら、今後あなたに頼る機会はぐっと減ると思う。」

そういって私は、エルザが切り落としてくれた翼の半分を、二つとも拾い上げた。

「これはアレンの魔力によってできていると考えていい。今も無くならないのは、まだ魔力が生きている証拠。」

「それを取り込むなりなんなりすれば、人前で恥を晒す必要もないってわけか。」

まぁ、おちた小羽根を一々拾わなくちゃいけないし、そもそも翼や羽を食べなきゃいけないのかって話になるけど。やり方おいおい考えればいいだろう。それに、一度の翼の形成で、彼から受け取った魔力が空になるわけでもない。

「この堕ちた翼も、魔力だっていうなら、このままくっつけることも出来るかもしれないしね。とにかく、これで問題が一つ解消されたといってもいいんじゃない?」

二人には特に関係ない問題だから、同意を求めてもしかたがない。けど、これで好きでもない男と口づけを交わす回数も減ると考えれば、気が楽になるものだ。

「では、またさっきみたいに、翼を完全に形成させるおつもりですか?」

「ええ。少しずつね。一気にやると、またさっきみたいになっちゃうから。少しづつ体に慣らしていって、最終的に元の大きさに戻せればいいと思う。腕の方はたぶん今すぐやっても大乗だと思うし。」

そういいながら、まだ残っているであろう、アレンの魔力を、左腕に集中させた。さっきやった感覚を思い出しながら、腕を異形の形へ変貌させていく。異形と言っても、包帯を巻いてしまえば少し爪が鋭い程度の、人間の腕と大して変わらないのだ。翼と違って気を使わなくていい。

「ほら、何ともない。」

どうやら推測は、なかなか当たっているようで、龍の腕っぽく形成してみても、特に体に違和感は感じなかった。

「まさか、こんな短期間で解決するとはな。貴族っていうのはやっぱり優秀なんだな。」

「まぁね。とにかく、この体についての調べはこの辺にして、そろそろ貴族としての務めを果たさないとね。」

魔獣の討伐、正体不明の敵性勢力、それらについて調べていかなければならない。この体についてはあくまでおまけだ。もっと面倒な問題が、この先に立ちふさがっているのだから。

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