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ロードオブハイネス  作者: 宮野 徹
第三章 陰謀渦巻く貴族社会
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難しい話、私もよくわからない

朝を知らせる魔法の鐘楼の音が、ヘイローズに響き渡る。夜が存在しないこの都市では、都市の中心地に設置された魔法の鐘楼が、その日の始まりを告げてくれるのだ。


昨日は、いろいろなことが起きすぎたせいか、昨夜は熟睡してしまった。まぁ、長旅に、王妃への謁見、正体不明の勢力からの刺客を相手にしていれば、体力の限界もやってくる。今日も今日とてやらなければならないことがたくさんある。魔法大学へ行って、魔力の物質化に関しての知識を探すのだ。フィリアオールは何年か前の研究と言っていたから、今でもその研究が行われているかはわからないけど、その記録は残っているだろう。もしそれを閲覧出来て、この不可思議な現象を私自身でコントロールできるなら、願ったりかなったりだ。龍化についても、解決策が見えてくるかもしれない。


「そういうわけだから、一緒にいく?ここで一人待ってても暇でしょう?」

「んー。いっても退屈しそうだけどな。まぁ、ついていくよ。」


エルザは護衛としてついてくるとして、アレンの方は、行く理由もないし、待っていてもいいのだが、私としては、来てもらった方が都合がいい。もし研究記録が見つかれば、その場で彼の見解を聞けるかもしれないし、なにより、信頼関係を築くには、同じ時間を共有するのが一番だからだ。


「それじゃあ行きましょ。」




昨日とは違い、3人でヘイローズの街中を歩いていると、昨日の出来事で私のことが知れ渡っているのか、会う人、すれ違う人、それぞれに挨拶をされるようになってしまった。まぁ、本来はこういう身分なんだけどなぁ。一々返事を返すのも面倒だから、いつもの如く無言で会釈するだけにしておいた。沈黙は美徳である。


魔法大学へ着くと、司書のような人が出迎えてくれて、件の魔力の物質化についての記録を要してくれていた。どうやら昨日のうちにフィリアオールが来て、言伝をしていたそうだ。何から何まで世話になりっぱなしだ。本当に感謝しかない。


早速、大学のテラスを借りて、その記録について読んでみることにした。確かにそこには、魔力を物質化する技術についてが書かれていた。だが、実験はどれも失敗に終わっている。誰一人として、物質化に成功していないようだった。


「失敗の原因、魔力純度の不足によるものだと思われる?」


魔力の純度、というまた知らない単語が出てきた。これが始まると、この一文を理解するためにどんどん知らない単語が出てくる羽目になるから、おおよそで考えることにした。純度というからには、この大学で行った実験では、何らかの不純物が混じっていたと考えるべきだろう。


仮にだが、アレンが直してくれた愛剣の繋ぎや、フィリアオールの推測通り、この背中の翼や手の異形化が物質化の成功例だとしたら、これらは全て純度100%の魔力の塊ということになる。この実験と、これらの現象を比べれば、魔力の物質化について何かわかるのではないだろうか。


「・・・ねぇ、アレン。」

「ん?」

「あなた、どうやって私の剣を直したか、ちょっと説明できる?」

「んー。説明って言われてもな。龍の姿に成って、体の一部、まぁ龍の鱗と甲殻を使って剣の一部にしたんだ。」

「それは、・・・やっぱり魔法なの?」

「感覚的なものだからなぁ。魔法と言えばそうなんだろうが、口で説明できるものじゃないな。」


感覚的なもの、というのは、確かに曖昧で答えになっていないかもしれないが、こと魔法においてはそうとも限らない。少なくとも、この世界では。


なんといっても、私は前世の記憶に目覚める前から、魔法を使用していた。はじめは簡単な光魔法から、徐々に魔法の規模を大きくして言って、今では禁書に書かれた魔術を読み解いて、それを顕現させることだってできる。ただ、前世の記憶に目覚めた後では、それはとてもつもなく恐ろしいことのように感じたのだ。


前世では、年頃になると、自分には何か特別な力があるんじゃないかと考える時期がある。実際はそんなこと起こらないし、単なる妄想に過ぎないのだけど、この世界では違う。空に手をかざせば、その手に火を灯すことだってできる、かもしれないし、力いっぱい地面を踏みつければ、それだけで周囲に地震を起こすことだってできる、かもしれない。あるいは、誰かを見つめただけで、そのものを魅了してしまう、かもしれないし、目にとてつもない邪悪なオーラが取りついている、かもしれない。


それらはこの世界では、魔法と呼ばれ、実在する本物の力だ。そして、それは全部感覚的なもので、本来は、こうして文字で記録するのもおかしなものなのだ。


この、感覚で魔法を使う、というのも、才能のうちに入ってくるから、出来るどうかはわからない。でも、感覚的に魔力を注ぐことで、この物質化も行わなければならない。アレンの言うことを信じるならばだが。


「もしかしてだけど、龍の姿に成るのも、感覚でやってる?」

「あぁ。それはほんとにそうだな。俺たち龍族は生まれてすぐ親元から離れる。」

「え、どうして?」

「離れるっていうか、親の方が、子を産んだらすぐどっかへ行っちゃうんだよ。別に人間みたいに面倒を見なくても、本能的に龍に成る方法を見出して、すぐに飛び立てるからな。」


そうだった。この種族は、本能で生きる動物的な一面がある種族なのだ。何もかもそれで説明がつくのは納得がいかないけど、とにかく龍族はあらゆる魔法を感覚的に行使しているのだろう。


「私は、私たちは、詠唱をしたり、触媒に魔力を流し込んだりしているどけ、確かに感覚的にやっているのよね。魔力が見えているわけじゃないし、魔法が顕現していくのだって、いうなれば、非科学的だし。」

「・・・非科学的・・・。」

「あぁ、こっちの話。もし、この翼にも、もっと魔力を集めたら、最初の時みたいに飛べるようになるのかな?」


もしそれが可能なら、物質化した魔力を、魔力に戻すことも出来るかもしれない。そうすれば、普通の人の姿に戻れる、と思うのだが、・・・とりあえずやってみるしかない。その前に、


「ねぇ、エルザ。私の翼、触ってみてくれる?」

「え?あ、はぁ。失礼します。」


恐る恐る触るエルザ。その指が確かに翼にふれたのを確認して、私の中で一つの結論が出た。触れられている感覚が、実際にあるのだ。エルザはつんつんしたり、根元を少し引っ張たりしてくれて、その感覚が肩甲骨のあたりにちゃんと伝わってきている。もともと存在しなかった部位だから、まだ体の認識がうまくできていないだけで、神経はちゃんとつながっているようだ。


つまり、この翼は間違いなく、私の体の一部ということになる。だけど、人間の主な構成要素の水やたんぱく質などではできていいない考えられる。そう、魔力が生物の体を作り出しているのだ。


「で?何がわかったんだ?」

「うん。この翼が、私の剣の繋ぎと同じ理屈なら、これも魔力によってできているんじゃないかって思ったの。」

「・・・無茶苦茶な考えじゃないか?」


もとより魔法というもの自体無茶苦茶な現象なのだ。今さらそんなことを言われてもどうしようもない。でも、憶測をたてて話を進めないと、何も得られないままだ。


「とにかく、魔力を制御して、この翼に流し込んでみる。」

いつも魔法を使うよりも、多くの集中力が必要だ。いままで使ってこなかった体の部位に魔力を集中させるのは、それこそセンスの問われる技だ。

「・・・・。」


と、やってはいるのだが、うんともすんとも動かない。いや、なんとなく動きそうな感じはしているのだが、微妙に届いていない感じがする。初っ端から推測が間違っていたのだろうか。それとも、他の要因があるのか?


「・・・あの、さ、アレン。」

「うん?」

「・・・ふーっ。魔力、くれない?」

「・・・・。」


これは決して、そういうことをしたくなったわけじゃない。発作が起きそうだから、という理由にしたいけど、実際はそうじゃない。たぶん、私の魔力では足りない、もしくは受け付けないのだと思う。アレンの、龍の膨大で特別な魔力だから、この形になったのではないか、なんて憶測にすぎないけど、やってみる価値はあると思ったのだ。


「いいのか?人の姿のままだぞ。」

「うぅ。でも、他に方法はないし、そのうち発作も起きるだろうし・・・。」

「・・・まぁあんたがいいならいいけど。」

「エルザは、あっち向いててね?。」

「は、はい。ごゆっくりどうぞ。」


その言い方は、ちょっといやらしくないだろうか。他に言いようがなかったんだろうけど。エルザが後ろを向いている隙に、彼との一瞬の口づけを躱した。魔力を受け取った影響なのか、少し頭が鮮明になっている、気がする。だが、なんとなく背中の、いや翼の感覚を感じられるようになっている。


私はもう一度、翼へ魔力を集中させた。魔力を、輝く翼になるイメージをしながら、背中で大きく羽ばたくように・・・。


翼が小刻みに震えているのが分かった。抜け落ちたはずの小羽根が時の流れを無視して生え変わっていく。翼は根元から足元へ垂れていたのに、徐々にその付け根お越しはじめ、セミのように畳まれていた翼は、大鳥のように左右に広がった。


「・・・おいおい。まじかよ。」

「これは・・・。」


アレンもエルザも、傍でその様子を見ていたから、劇的な変化に驚いているのだろう。輝きを失った翼は、見事に再生し、正しく天翼となっていたのだ。



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