オーネット家への疑念
フィリアオールが魔法大学に救援を出している間に、私は離宮の従士らの、命の選別をしていた。助かる命を優先させて、手当てを行い、助からない命は見逃し、場合によって、私の手で命を終わらせることもやらなければならなかった。私と大して変わらないくらいの少女もいて、ここまでしてまで、私を付け狙う輩に、初めて怒りを感じたかもしれない。
「ロウ。ごめんないさい。損な役回りを任せてしまって。」
「私のことはお気になさらずに。本当にお辛いのは、フィリアオール様の方ですから。」
亡くなった人たちは、彼女に仕える者たちだ。王妃の世話をし、王妃のために離宮の管理をする。そして、王妃のために、命を賭ける。それを使命とした者たちが、現に亡くなったのだ。
ここ最近のフィリアオール生活を予測すると、あまり彼女たちとも話をしていないようだから、余計暗しい気持ちだろう。
魔法大学から来た救援は、大学の魔法使いで構成された師団だった。騎士とは違い、魔法武装した兵隊のことで、数は騎士団ほどではないけれど、このヘイローズの警察的な役割を担っている。駆けつけた者たちは、中の惨状を見て、ショックを受けるものもいたが、彼らは動かなくなった死体の処理を、手早く行ってくれた。
生き残った従士たちは、彼らの中の特級魔導士によって、その命を繋ぎとめていた。応急手当はしたものの、まだどうなるかわからない状態だ。無事に一命を取り留められればいいけれど。
彼らを見送るフィリアオールの表情は何とも言えないものだった。彼女は、自分の宝物だと言っていたから、塞ぎ込む前から、仕えてくれていた者たちなのだろう。
「さて、ロウ。これからどうするつもりですか?」
「あ、はい。・・・正直、私を付け狙うだけならば、来るものすべてを返り討ちにすればいいと思っていました。ですが、フィリアオール様にご迷惑をお掛けしてしまった以上、この件にはしっかりと向き合わなければいけないと思っています。」
「ええ。そうするべきでしょう。しかし、わかりませんね。オーネット家のシルビア嬢が、こんな愚行をするとは思えません。」
一番の問題点はそこだ。彼らがオーネット領の騎士なのかどうかは、調べればわかることだが、実際に彼女が私の捕縛を命じたというのは考えにくい。当の本人は、アダマンテ領の北部戦線で、戦の最中なのだから。だが、偽りであったとしても、それはそれで問題である。オーネット公爵家がアダマンテ公爵家に、間違いであったとしても、令嬢を捕縛使用したなどというのは、不名誉以外の何物でもない。思惑が何もなかったとしても、オーネット家は立場を悪くすることになる。私が本当に反逆罪でも起こしていれば、それらは全て正当化されるのだが、生憎私の罪状は、ジエトの恩赦によって白紙にされている。それに、アーステイルの客卿とするよう、シルビアは進言していたというんだから、今回の事件はますます訳が分からなくなっている。
「今回の件、私もとことん付き合いましょう。場合によっては帝国の威厳に関わることかもしれませんから。」
「ご助力、感謝いたします。ですが、私、この都市でまだ調べたいことがございまして。」
「龍化、についてですね。わかっています。とりあえず、王城へ使いを出します。私の名において、オーネット公爵、およびシルビア嬢に召喚を命じましょう。話はそれからです。調べ物をするくらいの日にちはあると思いますよ。」
フィリアオールが、先導してくれるのなら、心強いものだ。この都市も、こんな大事件が起こっていれば、都市の警備強化に力を注ぐだろう。怪しい輩に襲われることも無くなるはずだ。
「それじゃあ、私は怪我をした従士たちの元へ向かいます。ロウ。こんなことが起きてしまったけれど、会えて嬉しかったわ。ヘイローズを出るときは、また一言声をかけて。」
「はい。フィリアオール様も、お体に気を付けてください。」
「ふふ。ありがとう。」
まさかこんなことになるとは思っていなかったが、本当にあえてよかったと思う。暖かな時間を過ごすことが出来たし、また新たな目標というか、王妃からの教育として、龍族と絆を結んで見せろという難題を突き付けられてしまった。彼に対して他意は本当にないけど、なんだかうれしくなってしまったのだ。どうにかして、あのアルハイゼンを振り向かせようと必死だった、あの頃を思い出してしまって。
宿舎に戻ると、既に騒ぎについて聞き及んでいたエルザは、帰るなり私に怪我無いかを調べ始めた。
「もう、大丈夫だってば。」
「本当に、肝が冷えましたよ。ですが、無事ならば、何も言いません。今後はなるべく私がお供いたしますので。」
出来れば断りたかったが、彼女も自分の使命を全うしなければいけないのだ。黙って受け入れるしかない。彼女も来ていたら、もしかしたらあの場で殺されていたかもしれない。どれだけ腕のあるものでも、奇襲と人数差には敵わない。だが、守られる存在である自分は、誰も死なせたくないと考えるのは傲慢だ。
「それで、挨拶は済んだのか?」
「ええ。とりあえずね。・・・別の問題は、出てきちゃったけど。」
「ん?」
「・・・ねぇ、アレン。」
秘密というのは、知られてはまずいからか、知られたくないからか、どちらにせよ、まだ隠し事しているかどうかすらわからない。だが、どんな関係でも、はじめの一歩は踏み出さなければならない。
「人と龍族って、友達になれると思う?」
「・・・え?」
その驚いた表情は、無邪気な青年のものだった。年相応という言葉はこの際意味を成さない。だが、見た目だけで言えば、アレンのそれは私と大して変わらない姿をしていると思う。まぁ、アルハイゼンよりは、間抜けそうな顔をしているけど。
となりでエルザも不思議そうに首をかしげている。自分で言っておきながら恥ずかしいのはわかっているけど、これが私のやり方だから。
「・・・どう、だろうな。なれないことは、ないんじゃないか?」
「そう。・・・ありがと。」
尚も訳が分からない様子だったけど、今はそれだけでいい。それだけ聞ければ、あとは自分で活路を見出して見せる。




