無礼者
フィリアオールと優雅な一時を過ごしていると、離宮の中が何やら騒がしくなってきていた。ドタバタと音を立てながら、何かが走り回っている。おおよそ人間なのは間違いないだろうが、甲高い悲鳴が聞こえだした。
「フィリアオール様、申し訳ありません。もしかしたら私のせいかもしれません。」
「あら、狙われているの?」
「わかりません。ですが、まさかこんなところにまで追ってくるとは、思っていなかったので。」
警戒していなかったわけではないが、ここまで執念深いとは。自分だけならば、特に気はしなかったけど、フィリアオールを巻き込んでしまったことだけは、非常に悔やまれた。
しばらくして、フィリアオールの私室の扉が乱暴に開かれ、数人の騎士の姿をした男が入り込んできた。
「ロウ・アダマンテ・スプリング。貴様を、帝国反逆の意を唱えるものとして、捕縛する。おとなしくその身を捧げよ!」
男たちの武装は、到底騎士が扱うようなものではなく、武骨な斧槍や長槍、返しの付いたメイス。人を殺すための道具ばかりだった。帝国騎士団は、そんな得物は使わないし、容疑者を捕える際の口上も違う。
何より、ここヘイローズクラウンを含めた離宮には、騎士団は入れないことになっている。いかなる理由があろうと。貴族特権があり、ある意味権力者を守るシステムではあるが、それを守らなければ、罪に問われるのは、彼らの方だ。
「・・・おかしな人たちですね。ここは、あなた方のような人が気安く入っていい場所ではありません。身の程をわきまえなさい!」
「反逆者の身で何を。抵抗するならば、殺害も許可されている。オーネット領騎士団の名において、成敗いたす!」
ペラペラ内情を話してくれるのはありがたいが、ちょっと嫌な名前を聞いて、もう少しだけ話を聞きだしたいと思った。
「オーネット。なるほど、シルビアの使いでしたか。彼女がいったいどうして、私を捕えようとするのかは不明ですが、濡れ衣もいいところです。後ほど、正式な書面をアダマンテの領城へ届けていただけますか?」
「なっ、何を訳の分からんことを。」
「訳の分からないことを言っているのは、どちらでしょうね。恐れ多くも、フィリアオール王妃の御前でこのような蛮行を働くなど。シルビアも、こんな凡愚を騎士に持ってしまって、大変ですね。」
フィリアオールの名前を出した途端、彼は一瞬ひるんだように見えたが、改めて武器を構え、私たちを取り囲もうとした。
「っ。愚かな人たち・・・。」
「ロウ。」
それまで黙っていたフィリアオールが、物静かな声音で言った。
「親指の青の宝石の指輪を、貸してもらえるかしら。」
「フィリアオール様?」
「ここは、私があの人から頂いた大切な離宮。私の大事な宝物を脅かすものは、私自身が排除します。」
彼女真剣な目は、先ほどまでの人親のものではなく、人の上に立つ、為政者の者に変わっていた。彼女に青の指輪を渡すと、彼女はそれを右手の中指にはめ込んだ。
「あんたたち、ここへ来るまでに、私の守衛や、従士たちに会ったはずですか、・・・彼らをどうしたのですか?」
「抵抗するものは、全て殺害を許可されている。これは、オーネット家による粛清である。お前たちも無駄な抵抗は無意味d・・・。」
「無礼者めが!」
彼女に一括によって、彼らは雷に打たれたかのように、尻込みをした。決して大きな声ではなかったけど、フィリアオールの一声は、その場にいるすべての人間の背筋を凍り付かせたのだ。
「私の大切な宝を傷つけたのであれば、相応の報いを受けてもらいます。」
フィリアオールが、右手をすっと振り上げると、どこからともなく周囲の空気が渦巻き始めた。
「て、抵抗すれば命はないぞ!」
「・・・絶望せよ、神聖なる水の恵みを受けし者よ。汝の時が止まるその一瞬まで。震えよ、恐れよ、その身が冷たき屍になるその時まで。」
渦巻いた空気は、あらゆる熱量を奪っていきながら、騎士たちにまとわりつくように、漂い始めた。
「な、なんだこれは!?」
悲鳴のような叫びをあげながら、彼らの足は徐々に氷はじめ、まるで彫像のように動かなくなっていく。
「汝の魂は我のものなり、地の果てにて、悠久の苦しみを味わいたまえ。・・・言い残すことはありますか?」
「ま、待ってくれ。我々は、命じられただけなん・・・。」
「零結界。」
詠唱の完了と同時に、彼らは足の先から頭まで全てを氷に覆われていた。時間そのものを止められたかのように、恐怖の表情を浮かべながら。中には逃げ出そうと体をひねっているももいるが、彼女の怒りを買った時点で、手遅れだったのだ。
「ロウ。私は、魔法大学に救援を求めに行きます。あなたは生き残った離宮の従士たちの手当てをお願いできるかしら。」
「はい。わかりました。」
そういってフィリアオールは、軽く身支度を整えて、足早に出ていった。私も彼女に続き、離宮のそこら中で倒れている人たちの手当てを始めた。ひどい有様だ。男女問わず、中には幼いメイド見習いもいる。
息はあるけれど、助かるかどうか、かなり厳しい状態の者ばかりだ。生憎私は、治癒の魔法に関しては全く使えない。もっとも、ここまでの重症者を完全に治癒できる術士は、そういないから、どの道助けられなかっただろう。
オーネット領の騎士団と名乗っていたけれど、正直それも怪しいものだ。あのシルビアが、こんなバカみたいな真似をするとは思えない。彼女は性格こそ、ひん曲がっているけれど、貴族としては一流の人だ。
何より、こんな不名誉な行為を自身の騎士団に命じるとは・・・。
ここまで大事になってしまった以上、放っておくことも出来ないだろう。フィリアオールも動くだろうし、この陰謀はここいらで明らかにしなければならないだろう。
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