愛を創る方法
「きれいな羽。龍化だなんて、世界は未だ未知にあふれているのね。」
ここへ来た経緯と、私の体についてを一通り話すと、フィリアオールは決して毛嫌いするようなそぶりも見せず、背中の翼に興味津々だった。
「でも、自由に動かせなくて。」
「最初は飛べたのでしょう?何か、別の力が働いていたんじゃないかしら。」
「別の力、ですか?」
「それこそ、魔法の力で飛んでいたとも考えられるんじゃない?」
フィリアノールは、王妃となる前はしがない子爵令嬢だったそうだが、魔法の才に秀でていて、知識は豊富な人間だ。優秀でなければ、この実力の世界で王妃になれるはずもない。魔力特性こそ血統そのもであるが、こと魔法学においては、彼女の右に出るものはいないと言われている。
「魔法大学で、このような現象について、調べようと思っていたのですけど。」
「んー。そうね。龍族、という存在も、この世界じゃ確認できていない未知の種族。でも、あなたの話を聞く限り、これは、龍化、とは違うように思えるわ。」
「どうしてですか?」
「そのアレンという青年は、あなたに自身の魔力が混ざり合って、龍に近づいているという見解を述べたのね?」
「はい。」
「それっておかしなことだと思わない?だって、その青年に、翼は生えていないのでしょう?」
言われてみれば、龍化とは言われているけれど、彼の言うことが本当なのであれば、龍族は見た目はほとんど人間の姿と同じということになる。違いはただ、龍に成ることが出来るかどうか。そうアレンは言っていた。人の姿に翼が生えたり、腕が異形化したりするのは、人間が想像する龍に体が成ろうとしているということだ。
「効く限りだと、龍族というのは、人の姿と龍の姿、二つを持っていて、本人の意思で自由に変化できる。あなたのように、人の姿でありながら、龍の姿に近づく、というのは筋が通らないと思うわ。」
「そう、ですね。ただ、アレンも何が起こっているのかわかっていないようなので、彼の言葉もどこまで本当かどうか・・・。」
本当は魔法大学でいろいろと調べてみるつもりだったけど、こうして学の人に私的な見解を聞けるのは、大いに参考になるだろう。それでも、答えを導き出せるほど、容易な問題ではない。なにせ、こんな姿に成った人物は、おそらくこの帝国においては、私が初めてなのだから。
「・・・そういえば、貴方の剣、そのアレンって子が直してくれたのね?」
「はい。体の一部を使って繋いだそうです。」
フィリアオールに腰に吊るしていたベルトごと剣を差し出した。彼女は恐る恐るそれを抜くと、相変わらず下手の修復具合の剣先が見て取れた。
「龍の体が、魔力で出来ているとしたら、彼は、魔力を物質に変えたといってもいいのかもしれない。」
「魔力を物質に?」
「ええ。何年か前に、魔法大学の研究者が、魔力を固形化する技術について、提唱していたはずだわ。もっとも、当時はそれで何をするかまでは、議論されていなかったから、今はどうなってるかわからないけど。でも、龍族が同じようなことをできるのだとしたら、その研究者を訪ねてみるのもいいかもしれないわ。」
「・・・フィリアオール様は、どう思われますか?その、魔力の物質化について。」
「そうね。剣を龍の姿の、体の一部、つまり、魔力を剣の繋ぎに変えたのだとしたら、いろいろと辻褄が合うと思うの。あなたの背中の翼。これも魔力が物質化したんじゃないかしら。」
確かに辻褄は合う。この不可思議な変態現象に対してのみだが。この際、どうしてこのような形に物質化したかは置いておこう。問題はどうやって私がそれを行ったかだ。
折れた剣は、アレンが自分の意思で物資化を行った。ここまではいい。私がこんな姿に成ったのは、彼が作った剣の繋ぎに、私が触れてしまったからだ。そこから魔力が私の体内に入り込んで、こんな姿に成ってしまった。では、その入り込んだ魔力を、どうやって物資化させたのだろうか。私はそんな技術、見たことも聞いたこともない。龍化による本能に飲まれた際に、無意識にやったのだろうか。いや、そもそもなぜ私は彼の魔力を求めるのか。動物的本能、人間的に言えば、性欲を満たすため、と今までは考えていたけど、少しだけ解釈違いなんじゃないだろうか。
翼はもうほとんどその原型が無くなるくらい羽が散っていて、見るも無残な姿に変わっている。左腕の方も、今は包帯を巻いているから見えないけど、帯を変えた時に見た限りでは、肌が荒れて鱗状に皮膚が切れていたのだ。必要な栄養が足りていない草花のように。しおしおに干からびて・・・。
「彼、何か隠し事をしているんでしょうか?」
「ふふ。そうかもしれないわね。」
私は真剣に悩んでいるのに、フィリアオールはやけに楽しそうだった。
「私はその子のこと、よく知らないから何とも言えないけど。どんな人でも、本心っていうのは、表に出さないものよ。もし本当に、アレンって子があなたに隠し事をしているのだとしたら、それを引き出すのは、あなた次第よ、ロウ。・・・お互いをよく知り、信頼しあえるようになるには・・・。」
「・・・永遠に近い、時間が必要なのである。」
これは、かつてフィリアオールが教えてくれたことだ。初めてアルハイゼンとお見合いをしたときに、そして、王妃となることが決まったときに、彼女はそれを教えてくれた。
国王と王妃、という関係は、その間に愛がなくても成立する。いわゆる政略結婚でも、その勤めを果たせば問題ないのだ。王は国を導き、妃は王を支え、子を産み、未来を創る。これは貴族においても同じことが言える。私は、そういう世界に生まれたのだ。けど、そんな中でも、彼女、フィリアオールは、愛を育む術を教えてくれた。そうあるべきだと、私に指導した。そして、彼の、アルハイゼンの心を射止めて見せよ、言ってのけた。
彼女はまた、同じことを私に言っているのだ。
「こんな離宮にいてもね、噂くらいは流れてくるものよ。あなた、縁談を悉く断っているそうね。」
「あっはは。知っていたんですね。」
「もちろんよ。言ったでしょう?あなたは娘みたいなものだって。あの子が亡くなってから、私は自分のことで精一杯だったけど。もしかしたら、貴方も前を向けていないのかなって。」
「・・・私、別にアレンのこと、そんな風に思ってませんよ?」
「なら、なおさらいいじゃない。もっと気軽に、友達のようになって、いろいろ聞けるようになればいい。隠し事なんてしないでもいいように、むしろ、なんでも話せる間柄になれれば、それは一生の宝物になるわ。」
友達。この世界では、なかなか手に入りずらいものだ。貴族である以上、対等でいられること自体少ない。確かに彼は、そんなしがらみに囚われない存在だ。種族も違えば、生まれた世界も違う。違うことばかりで、話やノリが合わない。そんな相手に、フィリアオールは、絆を結んで見せろと言っている。かつてアルハイゼンの心を射止めようとした方法では、きっとできないことだ。
「あなたならできるわ。ロウ。そして、自由になりなさいな。」
「・・・はい。」
人生の恩師とは、彼女のような人を言うのだろう。
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