目的地
領城に戻ってすぐ、ハイゼンに話しをし、追手の女を牢へぶち込んだ。
「お怪我はありませんでしたか?」
「私は大丈夫です。彼女の素性について、調べてもらえますか?必要なら、手段を選ばなくて結構です。」
「手際よく、聞き出します。」
追手をハイゼンに任せた後は、ようやく旅の荷馬車の手配に取り掛かれた。馬車を引く馬に関しては、騎士団が連れて行かなかったルクスを使うことにした。城の厩舎の管理人によると、まだ騎乗訓練を行っていない子らしく、どうせ乗るつもりはないからちょうどいいところだ。
とはいえ、普通の馬と違って一応魔物だ。こちらを襲わないとも限らないから、これから信頼関係を築いていかなければならないだろう。
荷馬車の方も、テムザの商人から買い取り、どうにか今日中には出立できそうだった。
「お嬢様。」
テムザを出るまえに、城の使いがハイゼンから文を預かってやってきた。どうやら彼女は、貴族の人間ではないらしい。本人がそういい張っているらしいが、疑わしいことだ。
魔法特性は、ある意味身分証といえる。その家特有の魔法として、遺伝していくのだから。大地の記憶の魔法を使えるのであれば、たとえ遠縁でもその血を引いているということになる。
「ありがとう。ハイゼンに引き続き調査するように伝えてください。私たちは、このままテムザを出ます。」
使いのものを送り返してから、最低限の食料等を買い込んで、私たちはテムザをあとにした。そのころには、既に空が暗くなっていたが、下手に街中で過ごすよりもどことも知れぬ街道を進んでいるほうが、安全というものだ。
「それで、ロウ様。最初の目的地はどちらまで?」
「・・・そうね。今のところ、魔獣に関しての情報も、まだないわけだけど、やれることはいろいろあるからね。とりあえず、王領第一都市のヘイローズに向かおうと思うの。」
「ヘイローズ・・・ですか?あそこは、人の流れがあまりないので、情報を得られないと思いますが。」
「ううん。ヘイローズには、ヘイローズでしか得られない情報がある。それを探しに行くのよ。」
グランドレイブ帝国中心部、王領には帝国王族が管轄する第一から第八までの大都市がある。その中でも、第一都市に当たるヘイローズは、平民の出入りが制限されている、貴族御用達の都市なのだ。そこには多くの貴族出身者や、帝国王族が居を構えていて、彼らに仕える平民以外は、基本的に入ることが出来ないのだ。それゆえに、閉鎖的な都市でもあり、貴族ならば気にならないのだけど、一般人からすれば、居心地の悪いことこの上ないだろう。
「そのヘイローズって都市で、何を調べるんだ?」
「第一都市ヘイローズは、別称として魔法都市ともいわれてるの。」
「魔法都市?」
「帝国で唯一の魔法大学があり、都市そのものが魔法によって守られている、特別な都市なんですよ。」
エルザの解説通り、ヘイローズには魔法大学がある。あそこには、魔法や魔力、魔法特性に関する、ありとあらゆる知識が詰め込まれている。単に書物としてあるのではなく、最新の魔法技術や、血統継承に関する生きた教材も。それを漁りに行くのだ。
「とりあえずなんだけど、魔獣に関してはハンターに任せようと思ってね。その前に、私の体のこと、どうなっているか調べようと思ったの。」
「なるほど、確かに魔獣の討伐は、今日明日で出来るようになるわけではありませんからね。」
「それで、その間にあんたの体の解明しようってわけか。」
「そういうこと。それに・・・。ヘイローズには、会いたい人がいるの。」
「へぇ。例の思い人か?」
「ちがうわよ!」
ヘイローズにいる会いたい人というのは、以前ジエトから会ってやってほしいと頼まれたものだ。息子を亡くし、意気消沈しているであろう、現お妃様。こんな姿に成ってしまったけれど、会うなら早方がいいと思ったのだ。
「そういうわけだから、エルザ。王領への街道を目指してください。」
「かしこまりました。」
「もう暗いから、少し進んだら休憩にしましょう。とにかく今はテムザからできるだけ離れましょう。」
進路が決まったところで、荷馬車に揺られながら、私たちの長い長い旅が始まりを告げたのだった。




