エルフリード
エルフリードに通された部屋は、こじんまりとしているが、なかなかいい雰囲気の部屋で、おそらくそういう客人をもてなすために用意されたものなのだろう。小さいが果実酒のセラーがあって、多種多様な酒瓶が並んでいる。イスやテーブルも表のものとは違い、しっかりとしたソファのようなものだった。
「さ、座ってくれ。」
エルフリードの促されて、私とアレン、そしてエルザは、ソファに腰かけた。上座にエルフリードが腰かけると、彼は再び考え込んでいた。
「今回の件、ハンターである皆さんのお力が、必要不可欠とわたしは判断しています。」
「・・・最近に、騎士団がこぞって出払っていったのは聞いていたが、まさかそんな大事になってるとはなぁ。」
あれだけの遠征の規模なのだ。城下街なら詳細は知らずとも、異変を感じ取って当然だろう。だが、彼の表情を見るに、想像を軽く超えたものだったらしい。
「お嬢ちゃんがそんな姿に成ってしまったのも、なんか理由があんだな?」
「これは、まぁ、直接関係のあることじゃないので、今は置いておいてください。それより、私たちの依頼について、詳しく話したいのですが。」
「あぁ、そうだな。魔物の探索と討伐って言ってたな。」
「はい。実のところ、かなりあいまいな情報しか提供できないのが事実です。」
私は、現状の魔獣についてのことをエルフリードに話した。見分ける方法は、紫色の気色悪い角があるということと、ここ1、2ヵ月に現れたということだけ。たったそれだけの話でも、エルフリードには十分な情報だったらしい。
「うむ、わかった。帝国中のハンターズギルドに掛け合ってみよう。」
「!?いいのですか?」
「うん?」
「まだ、報酬に関しても話していませんが。」
「あぁ、それなんだがな。ここ最近、俺たちハンターは、いろいろやらかして信用を失っているのさ。」
エルフリードが言うには、新米ハンターをはじめとして、ガラの悪い人たちが、ハンターの格を墜としてしまっているらしい。それゆえに仕事の数が減り、市民からの信用も谷底まで落ちてしまっているという。おそらくそれが彼の言っていた事情というやつだろう。
私はほとんど城下に降りていなかったから、そういった話には聞き及んでいなかった。一昔前までは、ハンターと言えばそれなりに人々からの人気があり、むしろ貴族である私たちのほうが、領民から疎まれるようだったのに。
「そんなんだから、俺たちは仕事を選ぶ余裕なんてなくてな。ましてや、公爵家の依頼だ。俺たちにとっては、大きな機会でもある。面倒くさいって理由だけで見逃せるわけねぇよ。」
「・・・そう、ですか。」
それに関しては、私は何も言うことが出来ない。エルフリード自身が悪いわけじゃないだろうし、信用を失って、当事者たちも痛い目には合っているだろうから。あとは彼ら自身の問題だ。それに、そういったことは、ハンターに限った話じゃない。私たち貴族も、そういう風に没落していくという話は身近にあるのだから。
「討伐対象は、現在3体。今後増える可能性もあります。ただ、それはその時に追って連絡します。報酬は、一体に付き、レイブ硬貨3000枚。」
「なっ!レイブ3000!?そりゃぁ本気で言ってるんか?」
「ええ。これは単なる魔物退治ではありませんから。」
レイブ硬貨というのは、帝国で一番価値の高い効果だ。前世で言えば、レイブ硬貨一枚で諭吉さんと同程度の価値と考えればいいだろう。この世界では、平民の家族が一か月に必要なお金は、大体3レイブと言われている。
「討伐人数に対しての山分けの方法は、ハンターの皆さんに任せます。また、発見報酬として、レイブ硬貨100枚もつけてください。こちらも分け方は同様に。」
「随分気前がいい話だが、それだけ難易度の高い仕事でもある。やりがいという意味では、十分すぎるくらいだなぁ。」
「そうですが、個人的には、こういうやり方はあまり好きではありません。」
ハンターは私兵だ。誰のためでもなく、自分のために、金を稼ぐために魔物退治を行う。時に大きな仕事を得て、莫大な富と名誉を得ることも可能な職業だが、誰に知られることなく、命を落とすものもたくさんいるという。どれだけ気前のいい報酬を提示しようと、私は彼らに命懸けで餌を取らせようとしているにすぎないのだ。
「お嬢ちゃんが気にすることじゃあねぇよ。みんなわかってハンターやってるんだ。そんな顔しないでくれよ。」
命を賭けるものへの冒涜とわかっていても、それでも私にとって、人が無意味に死んでいくことは、この上ない悲しいことだ。
「よし。そんじゃあ、1階の受付のねぇちゃんに、これ持ってってくれるか。この証をもってけば、正式に受理してもらえる。俺は、仲間たちに話をしてくるから。」
そういってエルフリードは、部屋をあとにし、外で騒いでいたハンター仲間たちに依頼のことを話していた。
「とりあえず、一段落か。」
「ええ。まずはハンターズギルドに情報を探ってもらいましょう。」
「それにしても、意外です。ハンターは、王領でも人々から指示を受けるくらい、立派な職業だと思っていたのですが。」
エルザの指摘は最もだ。いったいいつからハンターに悪い風潮が吹き始めたのだろう。それこそ、子供たちからは、憧れの存在として映ることもあったのに。
「・・・とにかく、受付に戻りましょう。」
私たちも部屋をあとにし、去り際にエルフリードに一言挨拶をしてから、1階の受付に向かった。




