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ロードオブハイネス  作者: 宮野 徹
第二章 龍との契り
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ハンターズギルド

アダマンテ領城の城下街は、4つある領城のなかでも一番小さな城下街だ。小さい、というのは、単に人口が少ないというだけで、街の規模はそれほどのものではない。というのも、アダマンテ領城は、丘の上に建っていて、丘の周辺は、窪みのようになっているのだ。窪みの底には、至るところに巨大な土柱が立ち並んでいて、自然見溢れる街ではあるのだが、そのおかげで人々が住める範囲は限られているのだ。これはこれで、趣のある、いかにも異世界らしい街並みだと私は思うが、元からこの世界の住人にとっては、迷惑な土柱だ。


ハンターズギルドは、そんな土柱の中でもひときわ大きな土柱を建物に見立てて建っている。ツリーハウスならぬ、マッドハウスと言ったところか。土柱を掘って、中を木材で支えている建物だ。


「これまた不思議な街だな。観光名所にでもなってるのか?」

「この世界じゃ、そんなに珍しくないわ。それに、観光でお金取るような文化は、帝国にはないわ。」

「私も初めて見ましたが、面白いものですね。」


自然と共に歩む街、名をテムザという。土柱と天然の崖に囲まれたこの街が、アダマンテの城下街だ。

初めてその情景をみたアレンとエルザは、心底楽しそうに辺りを眺めていた。


「あれが、この街のハンターズギルドの支部よ。」

「土の柱を建物にするなんて、斬新だな。」


ここへ来るまで、市民の視線が痛いほど刺さっていた。まぁ、一応公爵家の令嬢だから、それなりに市井にも名は知れているけど、顔までは覚えられていないから、こんなことは初めての経験だった。彼らが見ているのは、私の旅服の隙間からはみ出しているボロボロの翼なのだろう。視線を躱すことには慣れているから、特に気にならなかったけど、人攫いにでも絡まれればかなり面倒なことになる。いっそ自分で翼を千切ってしまおうか。


ハンターズギルドには、いつも多くの人が入り浸っている。酒場ではないが、お金を払えば食事も出してくれる場所だ。ハンターだけでなく、依頼をしてくる市民もよく出入りしているのだ。


「いらっしゃいませ。ハンターズギルドへようこそ。」


こんな私みたいな姿でも、受付の人は相変わらず明るく振舞ってくれる。プロ精神はこの世界でも変わらない。


「アダマンテ公爵家のロウ・アダマンテ・スプリングです。ギルド長にお目通し願えますか?」

「はわ。公爵家の方でしたか。失礼いたしました。ギルド長は、今不在でございまして、緊急の要件であれば、すぐにお呼びいたしますが。」


緊急、と言われるとそうではないが、出来るだけ早く話は通しておきたいし。ただ、それよりも、わざわざ長に聞かずとも頼りになる人物がもう一人いる。


「なら、エイフリード殿はいらっしゃいますか?」

「はい。エイフリードさんでしたら、2階で待機していらっしゃると思います。」

「そうですか。それでしたら、ギルド長へは、私が来たことは伝えなくて結構です。エイフリード殿に、直接依頼をいたしますので。」

「わかりました。正式な手続きが完了したら、再度受付までお越しください。」


笑顔でニコニコ笑う受付に一瞥してから、2階にいるというエルフリードの元へ向かった。


彼は、以前から公爵家が頼りにしているハンターの一人で、父の古くからの知り合いだという。直接会うのは、随分久しぶりで、向こうは私のことなど覚えていないかもしれないが、アダマンテの人間としてなら、きっと快く受けてくれると思う。


そんなエルフリードは、二階の窓際のテーブルで他のハンターたちと、なにやらテーブルゲームに興じているようだった。ハンターたちはみな平民だ。こういう場でバカ騒ぎするのも当然だけど、ノリが前世のものに近いのは、私としても話しやすい。


私たちが二階へ来ると、多くの視線が私たちを突き刺した。これは、私の翼を見て驚いている視線じゃない。よそ者を見る目だ。ハンターたちはみんな平民たちだ。だから、日ごろから顔を合わせている面子には快く接するが、そうでないものには警戒をするものだ。まぁ、子供相手に突っかかってくるような野蛮人はいないみたいだけど、ここも随分がらが悪くなったものだ。


そんな視線を躱しながら、エルフリードの元までたどり着くと、テーブルゲームに興じていたハンターたちはすっと静かになってしまった。


こういう時、どう対処するかも、貴族として学んできたつもりだ。


「失礼。興がさめてしまったのならごめんなさい。エルフリード殿に御用あってきました。」

「・・・旦那、知り合いですかい?」

「・・・お前さん名前は?」

「バロックスの娘のロウです。私のこと覚えていらっしゃいますか?」


名前を名乗ると、エルフリードはぱっと顔を明るくさせて立ち上がった。


「おぉ。バロックス・・・。あいつの、あの時のお嬢ちゃんか。いやぁでかくなったなぁ。」

「お久しぶりです。」


後ろでエルザの右手がすっと上がりかけたのを制止しして、私は話をつづけた。


「今、お時間ありますか?大事な話がありまして。」

「話?いいぜぇ。わりぁな皆。少し空けてくれるか?」


テーブルを囲っていたハンターたちは、それまで張り詰めていた糸をすぐに緩めてくれて、周囲の者たちからも変な視線がそれていった。エルフリードはテーブルの上を片付けてくれて、ようやくまともに話ができるようになった。


「済まねぇな。こんな騒がしいところで。」

「いいえ。私としては、これくらい賑やかな方が、なじみがあります。」

「そうかい?あー、そんで?話ってのは依頼についてって感じか?」

「はい。とある魔物の捜索と、討伐です。」


私はそう言いながら、用意しておいた羊皮紙を、周囲に気づかれずにエルフリードへ差し出した。

彼はしばらくそれを黙読しながら、


「親父さんは元気かい?」

「はい。元気すぎるほどで。最近は溺愛っぷりがますます増した気がして、困っています。」


などという世間話をし始めた。


「相変わらずだなぁ。まぁ、元気そうならなによりだ。」


声では陽気に笑っているように聞こえるけども、その目はやや険しいものとなっていた。


私が渡した羊皮紙には、依頼の内容ではなく、これまでの経緯が書かれている。この依頼が、帝国の防衛に大きく関わっているということ、国王直々のお達しであることなど、およそ市井では公に公言できないようなことを綴っている。読んでいるうちに、事の大きさを理解したのだろう。


「うーん。これまたえれぇ話が舞い込んできたもんだなぁ。」

「父は今、・・・仕事で忙しくて。ハンターの皆さんに頼るほかないのですよ。」

「うーん・・・。」


エルフリードは、もう思案を隠すこともなく、声をうならせて考え込んでいたが、ようやく勧化がまとまったのか、すっと立ち上がった。


「よしわかった。依頼は受けるぞ。ただ、俺たちにも事情があってな。ここじゃ話せないことなんだが・・・。」


そういって首を奥の部屋の方へ傾てきた。


「・・・わかりました。詳しく聞きましょう。」


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