令嬢、発つ
「というわけで、お前たちにはすぐにでも、経ってもらう。あまり長いすると、面倒なことになるだろうしな。
フォルゾに戻るなり、同じくエレオノールから戻ってきたロイオは、私たちにそう告げた。
「旅の手筈も整えてある。それと、監視役としてエルザを同行させろ。エルザ、済まないが頼む。」
「はい。主様。」
旅を共にする仲間の一人として、エルザが決まった。これは私たちを監視するためという名目だから、致し方がないけど、彼女は客観的に見ても頼りがいのある人だと思う。元騎士ということもあって、護衛としても十分だろう。それに、従士を連れていくのに、女が私一人だと、いろいろと不便だから、彼女の存在はありがたかった。
「俺もすぐにエレオノールに戻らねばならない。悪いが見送りをしている暇はない。最初はどこへ向かうかだけ聞かせろ。」
「はい。とりあえず、アダマンテの領城へ戻ろうかと。そこで情報を整理してから、改めて出立しようと思います。」
私の答えにロイオはしばらく考え込んでから、納得したように一つ頷くと、
「うむ。懸命だな。ロウ、お前はとにかく任務の遂行のことを考えろ。汚名返上などを考えるな。それが、本当に自由の身になる近道だ。」
「はい。」
「それと、アレン。頼むから、帝国内で龍の姿に成ってくれるなよ?」
「ん?どうして・・・?」
全くこの青年は。やはり、そのあたりは私がしっかりしなければならないだろう。
「なんでもよ。ロイオ様、ご安心ください。アレンには私が、しっかり言いつけますので。」
「あぁ、頼んだぞ。」
ロイオはそのままフォルゾを経ち、エレオノールへとんぼ返りしたみたいだ。ロイオもジエトからの無茶ぶりに奔走しているのだろう。
私たちも当初の予定通り、アダマンテ領城へ向かうことになった。ライラたちメイドたちは当然、エルザと、数人のエクシアの従士もアダマンテ領まで同行することになった。念のためだが、エルザに確認して、同行している従士たちの近辺を聞いておいた。彼らの中に、密偵の一派が紛れている可能性を考慮してだ。あくまでエルザ談だが、彼らにそのようなことをやる人物はいないとのこと。表沙汰で堂々と狙ってくることはないと思うけど、警戒するに越したことはないだろう。
「警戒し過ぎじゃないのか?」
「当たり前でしょ。命を狙われている可能性だってあるんだから。」
「なら、ロイオに事情を話しておけばよかっただろう。」
「・・・貴族社会ではね、誰が信用できるかを、見極めなければならないの。」
ロイオを疑っているわけではない。だけど、ここのところの妙な動きは、大体エクシアが絡んでいる。縁談の話だって、密偵が入り込んだのだって、エクシアがいたからと考えれば、彼らを怪しむ理由は十分というもの。
「同じ帝国の人間であっても、すり寄ってくる相手、不必要に毛嫌いする相手、それら全てに理由があって行動しているのよ。だからこそ、自分の身を守る術を知っておかなくちゃいけないの。」
それは剣や魔法を使って身を守ることじゃない。権力から逃げる術、とでも言えばいいだろうか。理不尽な人間の力から、身を守る術を、私はこの世界で、ひいては貴族社会で、学んできたつもりだ。全部私の直感でしかないけど、今、エクシアと大きく関わりを持つのは、危ないと感じているのだ。
「人間ってやっぱり面倒くさいよな。」
「私もそう思うわ。でも、それが出来ないと、ここじゃ生きていけないのよ。」
そうだ。このアダマンテ領城への、ごく普通の街道の道のりでさえ、どんなことが起こるか、この世界ではわからないのだから。




