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ロードオブハイネス  作者: 宮野 徹
第二章 龍との契り
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始まりの旅路

公館では、すでに私とアレンの噂でもちきりだった。詳細は知らないけど、ジエトより特命を授かり、実質、嫌疑が晴れたのだから、中には気に食わない者たちもいるだろう。もっとも、詳しい事情を知っているのは大体上の者たちだから、私としては、何を言われても気にならない。まぁ、自分に仕えてくれた騎士たちには申し訳ない、いや、申し訳なく思う必要もないのかもしれないけど、彼らの気持ちを否定することはできない。あと一歩のところで、騎士団にもアレンが被害を出していたかもしれないのだから。


「ロウぅぅぅぉぉおおおおおおおおおおおおおお」

「お、お父様。落ち着いてください。この通り、私は元気ですから。」


今何をしているかというと、公館で父と面会中だ。会うなり、抱き着いてきて、反応に困ったが、相当心配をかけてしまったようだ。泣きながら、私を抱く力は今までにないくらい力強くて、それでも息苦しいなんて、言えるわけがなかった。


「私は、お前に何かあったらと思うとぉ!」

「・・・本当に、申し訳ありませんでした。」


しばらく父の泣き上戸に付き合ってから、ようやく水入らずで話をする時間が出来た。


「はぁ。ジエト陛下から、話は来ている。これから、いろいろと大変なことになるのだろう?」

「はい。もしかしたら、アダマンテからも、少し離れるかもしれません。」

「うぅ。いや、娘の門出だ。陛下から直々に、特命を受けたのだ。公爵家の名に恥じない活躍を期待するよ。本当は寂しいけどな。」


それは私もだ。母を失って、唯一の肉親である父のためにと、令嬢として恥じない行いをしてきたつもりだった。傲慢なる妃とか言われたりもするけど、私も名誉はすべて父のため。竜騎兵としても、貴族の人間としても。そんな父と、しばらく別々の目的の元動かなければならないというのは、本当に寂しいことだ。


「あの、お父様。」

「ん?」

「・・・私、いつも、いつでも、家族を想っております。」

「・・・あぁ。辛くなったら、いつでも戻って来なさい。まぁ、私は領城には戻れないだろうが、あそこが私たちの家なのだからね。」

「はい。」


門出。ちょっと意味が違うかもしれないけど、確かに門出かもしれない。大きな間違いを犯したわけじゃないけれど、私はアダマンテとしてではなく、ロウという一人の娘として、この任を全うしなければならない。だから、ある意味今回の件は、父を巻き込まずに済んだといえる。私が、単独でアレンと共謀したと。騎士たちの目には、アレンは魔物としか映っていない。そんな彼と、道を進まなければならないのだ。左遷と言えば、わかりやすいけど、結局は厄介事を押し付けられたようなものだ。


魔獣の発見と討伐。それが成されるまで、私は元の居場所に戻れないし、帝国北部戦線の戦いは終わらない。私の体についてだけど、アレンにもわからないというから、そっちもおいおい調べなければならない。ただただ魔物の群れと戯れているほうが、まだましだっただろう。妙な成り行きになったものだ。


「それでは、ロウ。そろそろエクシアの元へ戻らないといけないんだろう?」

「はい。少し顔を見せる、お許しが出たので。」


ロイオの計らいというわけだが、そのロイオも今や北部戦線の重要人物だ。王領騎士団をジエトに変わって束ね、父が指揮するアダマンテ領騎士団と共に、戦線を維持しなければならないのだ。


当初200万の軍勢を退けて終わりと思われた戦いは、それ以上の戦いへと成り代わってしまった。人によっては武功を揚げるチャンスでもあるが、国としては思いやられることばかりだ。


「お父様。それではしばらく留守にいたします。」

「ああ。体に気をつけてな。また、元気な姿を見せに来ておくれ。」

「はい。」


父との別れを済ませ、外の廊下で待たせているアレンの元へ戻った。


「お待たせ。」

「お。なら、戻るか。」


随分待たせてしまったと思ったのだが、案外素直なものだ。まぁ、400年も生きている人からすれば、数十分待つくらいどうってことないのかもしれないが。


アレンと共に、馬車へ戻ると、幾人かの騎士たちが見送りに来てくれていた。領城で世話になっている者たちだ。彼らも、立場としては複雑な思いをしていると思う。それでもこうして愛に来てくれたことは素直にうれしかった。




「あんた、ほんとにお偉いさんなんだな。」

「あら。疑ってたの?」

「そんな風には見えなかったからさ。どこにでもいる普通の女子だと思ってた。」


間違いではないが、普通の女子、という言い方にやや違和感を覚えた。なんというか、前世の世界のような言い方だなと思ったのだ。まぁ、異世界の住人であれば、もはや何でもありだろうけど。


「それで。まずは何から始めるんだ?」

「うん。いろいろとやることが出来たけど、一つ確認させて。あなたがこの世界に来たのと同時に、門や魔獣が来たのかしら?」

「おそらくな。この世界へ飛ばされてすぐ、俺は門の破壊を試みたんだ。要は、あのエルレインっていう山脈に、俺たちは飛んできたんだ。」


アレン、門、魔獣、それらがほぼ同時期にやってきたのであれば、そこから逆算して、魔獣がどこまで逃げたかを確認できると思ったのだ。


「魔獣に関しては、姿は確認していないけど、邪龍がこの世界に送り込んだのは間違いないと思う。」

「それは、信じていいのよね。」

「あぁ。」


信じるも何も、アレンの言葉だけが頼りなので、たとえ嘘でも、それをもとに計画を立てなくてはいけない。


「俺がやってきたのは、・・・そうだな。1、2ヵ月くらい前・・・だったか。正確な数字はわからんな。人間みたいに、日付を確認しているわけでもないし。」

「1、2ヵ月・・・。それくらい時間が経ってると、探し出すのは困難ね。でも、強力な魔物であれば、目撃情報や人伝に何か聞けるかもしれないわね。」


それこそ、魔獣による被害が出ていれば、それを辿ることで発見することが出来る。まずは情報収集から始めるべきだろう。


「とにかく、ロイオ様に話をして、旅の仕度をしましょう。最初はアダマンテ領城へ行って、それから、帝国各地へ行きましょう。」


自分で言っていて何だが、途方もない旅路だ。少なくとも、公爵家の令嬢がするようなことではない。だけど、私は少しだけ、心躍っているのだ。帝国各地を巡る旅、と言えば、それは貴族の令嬢では決して味わえない大冒険だ。この世界へ転生して、まだ見たこともない、異世界を、帝国のあらゆる街を、見て回れる機会など、訪れる由もなかったのだ。


「俺とあんただけで行くのか?」

「うーん。確かに二人だけだと不安かも。」


アレンは人間社会に疎いし、必然的にお目付け役がいなければ、遠出などさせてはもらえないだろう。


「龍の姿に成れば、あんたを乗せてどこへでも行ってやるけどなぁ。」

「それはだめよ。そんなことしたら、あなたが魔獣扱いされるわ。」


この何をやらかすかわからない感じは、必然的に私がしっかり手綱を握っておかねばならないだろう。せめてもう少し人間くさければなぁ・・・。いや、多くは望まない。彼は龍族なのだ。人間らしくなくていいのだ。


「まぁ、俺は魔獣を倒せればなんだっていいよ。」

「簡単に言うわね。こっちはいい迷惑だっていうのに。」


人間らしくは無いけど、アレンとの会話は、なかなか飽きないものだ。実年齢は遥かに上だけど、精神年齢が近いのだと思う。口調が前世のものに近いのが、すごくありがたい。彼の前では、貴族の令嬢を演じなくて済むのだから。・・・?


「・・・どうした?」

「え。ううん。なんでもない。とにかく、頑張りましょう。」

「ああ。」


馬車に揺られながら、私たちは健闘を誓い合った。



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