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ロードオブハイネス  作者: 宮野 徹
第二章 龍との契り
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客卿

客卿とは、本来他国からの有力者らが、亡命してきた際に、与えられる称号のようなものだ。


国王自らそれを私たちへ与えるということは、事実上帝国の保護下に、あるいは、国王直々の庇護を受けているということになる。そうなると、たとえ国内外から法による裁きが下されても、一時的になかったことになる。要するに、権力で守られているのだ。


本来そんな立場に、私もアレンもなるはずはないのだが、それはジエトの温情ということだろう。国王が決めたことに進言できる者はいても、逆らえる者はいない。この騒動は私が思っていたよりも大きなものとなっていたから、そうでもしなければ短期収拾に繋がらないと判断したのだろう。


「なにより、そなたはまだ子供だ。帝国随一の魔法の使い手だろうと、竜使い(ドラグーン)を操ろうと、それは変わらぬ。今回の騒動は、これでどうにかできる。」

「本当に、感謝しております。陛下。」

「うむ。そなたの傍仕えの者たちを連れてこよう。とりあえず、そんな恰好では体に毒だ。」


確かに、エレオノールの屋敷を飛び出した時から寝間着のままで、傍から見ればさぞ寒そうに見えているのだろう。実際は、ほとんど寒さなど感じないのだが、わざわざ否定することもないだろう。飛べもしない翼が貫いていて、脱ぐのは大変そうだが。


連れてこられたのは、エレオノールの公館だが、人目に付かない小さな部屋へ通された。ようやく明るい部屋で、一息を付けることが出来て一安心したいところだ。けど、これからどうなのか心配で、そうも言ってられない。


「ジエト陛下に、どれくらい話したの?」


一人壁に寄りかかってくつろいでいるアレンに、先ほど牢屋でジエトに話したことを聞いてみた。


「あんたが龍化していること、俺が異世界から来た存在だっていうこと、俺の目的が門の破壊ってこと、そのくらいは話したよ。経緯もな。」


ほとんど話を聞いたジエトは、いったい何を思っているだろう。私だけでなく、アレンまで客卿にしたと言うことは、少なくとも、アレンが持つ情報を引き出したいのだろう。もしかしたら、その役目は私に向けられるのかもしれないが。ただ、アレンはそれほど秘密を隠しているようには見えない。聞いたことには答えてくれるし、なによりちょっと間抜けっぽいし。


「まぁ、所詮俺は、この世界じゃ魔物同然な存在なんだろうから、決して受け入れてはくれないだろうが。」

「あなたの、態度次第じゃないかな。少なくとも、人の姿でいれば、警戒されることはないと思うよ。」

「ふーん。そういうもんか。」


人間の社会のことは、私が教えてあげないといけない。そういうのに疎いのは、見て居ればわかる。400年も孤独に生きてきたというのなら、それも頷ける。


「ねぇ、さっきのことだけど。」

「ん?」

「他に、やりようはないの?発作が起きる度に、その、あんなことしなきゃいけないのは、こっちの気が持たないんだけど。」

「・・・悪いことをしているとは思っている。あとは俺が龍の姿に成って、あんたが噛みつけばいい。」


それは、そうだけど、そうできない場合もあるだろう。今回みたいに。どこでも龍の姿に成れるわけじゃないはずだ。今後人間の社会に溶け込むならなおさら。


「自分に言い聞かせるんだな。必要なことだって。形式的なものだと思えばいい。」

「それが出来れば苦労はないわ。生まれて初めてだったし・・・。」


生まれてというか、前世も含めても、初めての経験だった。無我夢中で、ほんの一瞬だったから、特に思い出にも残らないだろうけど、私は一応女だ。貴族だとか、身分が高いだとかを抜きにしても、自分の唇をそう安物のようにされるのは納得がいかない。


「あんたが我慢できれば、それに越したことはないけどな。」

「うん。そう、ね・・・。それが出来ればいいんだけど。」


この、本能に逆らうという行為は、アレンが言っていたように、理性でどうにかできることじゃない。頭でわかっていても、発作が起きてしまえばもう、望むものを手にするまで、体は満足しない。アレン曰く、それは彼の魔力だというが。そんなに魔力を吸われても、彼は平気なのだろうか。


「アレンは、平気なの?」

「別に。口づけくらい、減るもんじゃないしな。」

「そうじゃなくて、私が噛みついたり、口づけをするのは、魔力を吸うためなんでしょう?龍族ってそんなに多く魔力を持っているの?」

「・・・まぁな。あんたたち人間が想像もできないくらいの魔力量があるって言われてる。」

「言われてる?」

「元居た世界の人間たちがそういっているだけだ。実際は知らない。魔力が足りないっていうのも、今まで経験したことないけどな。」

「龍族って、やっぱり、人智を超えた種族なのね。」


どんなおとぎ話にも、龍は邪悪で強大な力を持っているものだ。さして不思議には思わないけど。


でも、それはある意味、兵器としては最優の存在ということになる。私もそうだが、魔力が多い、あるいは類稀な魔法の才能があるだけで、一戦力としてかなり優遇されている。こと帝国においてはなおさらだ。実力主義の理念がある以上、力のあるものを上へ持ち上げようとするのは当然だろう。


「そういえば、その翼。飛べないんだってな。」

「え?あぁ、うん。そうなの。最初は飛べたんだけど、その時は、本能に飲まれてたと思うから。どうやってたのかわからないし。」

「動かすことも出来ないのか?」


肩甲骨から生えているから、肩に力を込めれば鳥のように羽ばたけると思ったのだが、うんともすんとも言わないのだ。これでは、本当にただの飾りだ。動かせない割に、小羽根が落ちて、そこら中にゴミだらけになってしまう。


「・・・うーん。」

「なに?なにかあるわけ?」

「いや、わからん。とにかく俺には、何もかも初めてのこと過ぎて、直感的なことしか言えない。」


直感的なことでも案外間違ってはいないことだってあるから、馬鹿にできないことだ。400年も生きてきた者が言うのだ。それなりに説得力があると思うが。


「龍族って、本当に不思議ね?」

「なんだよ急に?」

「400年も生きてきて、他に同族とか会ったことないの?」

「あるぞ。一人、可笑しな奴が。」

「可笑しな奴?」

「あぁ。龍族のくせに、妙に人間っぽいし、なぜか龍の姿に成らないし。俺よりあほみたいに強いくせに、人間の国を統治してるし。」

「龍が、国を統治しているの!?」

「統治っていうか、守り神みたいに思われてて、いざというときだけ、人間の力になっているらしい。」


そういう彼の口ぶりは、なんだか楽しそうだった。表情もなんとなく、愛想のないものから明るいものになっているし、きっと、聞いた感じよりも、いい人なのだろう。


「そのあほみたいに強いやつでも、本能には逆らえなかったって言ってたよ。」

「え?」

「そいつもな、一時、オス・・・、男の龍と、一緒に過ごしていた時期があったらしい。たぶん、今のあんたみたいになったんだと思うぜ。」

「その人は、どうやって抗ったの?」

「あのな、そいつは龍族なんだぞ?抗う理由がないだろう?一緒に過ごしたって言ってたから、たぶん、それなりに幸せな時間を過ごしたんじゃないか?」

「・・・。」


たぶん、それが本来のあるべき姿なのだろう。本能に従って、男と結ばれ、子にも恵まれれば、さぞ幸福だろうて。人としても、獣だとしても、本能に従ったのなら。


そういう、ロマンチックな世界の話に憧れがないわけじゃない。偶然の出会いで、熱のような恋に堕ちて、結ばれる。この世界でも、実際にそういう風に結ばれた男女はいるだろう。ただ、私は、アルハイゼンに、惹かれていたから。それこそ、本能的に彼についていきたいと思ったのだ。彼が私のことをどう思っていたかは、今では確かめようがないけれど、もっと長くに同じ時間を過ごしていれば、もしかしたら・・・。


「龍族も、恋に堕ちるのね。」

「どうだかな。俺が最後に会ったときは、少なくとも一人だったから、一時のことだったんじゃないか?」

「ふふ、寿命が長いんだものね。それもそうか。」


出来ることなら、その人に会ってみたいと思うが、アレンの世界へ行くのは、私には無理なことだろう。




しばらくすると、事情を聴いたライラがやってきた。部屋に入ってくるなり、大泣きしながら私に抱き着いてきて。私は彼女に謝罪をした。ライラの両手は酷いやけどの跡があって、怪我はしていないようだが、酷いことをしてしまった。彼女は、謝罪なんていらないと言ってくれたけど、長く私の面倒をくれた彼女を、もっと大切にしなければと、心に誓った。


その後私とアレンは、身なりを整えられたあと、このエレオノールに集まっているお偉方の元へ通された。その場では、ジエトが場を仕切っていて、そのおかげか私たちを非難する言葉は飛んでこなかった。


けど、私はともかく、アレンを危険視する意見は様々飛んでいた。当然だ。今でこそ人の姿でいるが、あの龍の姿に成れば、数十万の魔物の軍勢でさえ瞬く間に屠る化け物になる。彼が、帝国に対してそうしないとも限らない。その疑念がある限り、たとえジエトの決定だとしても、納得のいかないものは現れるだろう。そこで、・・・



「なぜウチが身元引受人みたいになるんだ?兄者。」

「お前にしか頼めないから言っている。とりあえず、私の元で、アレンを引き取る。お前はロウを守ってやってくれ。」


また面倒なことになったものだ。同じく戦場へ来ていた、王弟ロイオ。私はなぜか、彼の客卿にされることになった。一番危険なアレンをジエト自身の元に置くというのはわかるのだが。


「お前の元なら、とやかく言う輩もいないだろう?」

「兄者はウチを買いかぶり過ぎだ。エクシアの力は、リンクスほどのものじゃない。第一、バロックスに返せばいいだろう。もしかして、以前言ってたうちの息子とロウをくっつけるって話、本気でしようとしてるんじゃあるまいな。」

「バロックスも納得してることだ。身内では容疑者の擁護に説得力がない。だからお前に頼んでいるんだ。」


ロイオは、かなりの間ジエトと言い争っていたようだが、ジエトに心変わりの意思がないことを悟ると、渋々引き受けてくれた。


「お前も、可笑しなことになったもんだな。」

「はい。本当に。」

「まぁいい。とりあえず、この戦がひと段落すれば、ほとぼりも覚めるだろう。それまでは、面倒を見てやる。」


そんなこんなで、ロイオの、エクシアの庇護下に入ったのだが、さすがに気まずい。だが、例の縁談について調べるいい機会かもしれない。どのみち戦場へ出ることは、私もアレンも禁じられているから、リンクスとエクシアの勢力が、エレオノールから少し南西に向かったところにある、フォルゾという街で軟禁される。戦が終わるまで、腹を探ってみてもいいだろう。


「面白い兄弟だな。国王と弟。」

「私もそう思う。本人たちには言えないけどね。」


仲睦まじいというか、とても人間味のある人たちだった。



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