竜使い
父の招集を受けて、領城へやってきたはいいものの、お城の中はどうにも好きじゃない。数百の人間が、この城で働いている割には、嫌に静かだし、人とすれ違うたびに、ごきげんよう♪、なんていうものだから、対応に困る。人と会ったら、おはようございますでしょうが!
社会人としてのマナーは、この世界では通じない。でも、魔が差しても、ごきげんよう、だなんて言いたくないものだ。私はいつも、作り笑いをして小さく頷くだけで、これをやり過ごしている。そのおかげかどうかはわからないが、城内では寡黙な人と言われている。静寂は、貴族の間では美徳だ。不必要に騒ぎ立てるようなことを嫌っているのだ。
長い廊下を経て、ようやく父が待つ応接間へたどり着くことが出来た。ライラが扉をノックすると、中から、入れ、と聞きなれた声が届いてきた。
「失礼します、お父様。」
「ずいぶんと早かったな、ロウ。いつもならあと半時間は、遅れていただろうに。」
「それならライラに感謝してくださって?私が自発的に起きたわけじゃないもの。」
「本当、苦労を掛けるな。」
「いえ、これが私の務めですから。」
他愛もない会話も適当に、今日の本題に入ることにした。
「それで、お父様。ユース侯爵と、そのご子息がが来ると聞きましたが。」
「あぁ、北部州のさらに北にある大地で、魔物の動きが活発になっているのは知っているな?」
アダマンテ領、北部州は、このグランドレイブ帝国において、最北端に位置する領土だ。この領土を守るものの使命として、帝国のさらに北にある、エルレイン山脈からの魔物を退けるというものがある。
エルレイン山脈は、人の手が加わってない、まさに大自然そのものだ。それゆえ、魔物の巣窟ともいわれ、常に防衛線が敷かれている。北部州を治める貴族は、その指揮と運営を任されているのだ。
「州公自らおいでになるということは・・・。」
「あぁ、何か、よくないことが起きたのかもしれん。すでに、騎士団には招集をかけてある。場合によっては、お前の力も借りなければならないかもしれん。」
「・・・わかりました。心の準備だけはしておきます。」
「助かる。今や竜使いの使い手はお前だけだからな。頼りにしている。」
竜使い、というのは、アダマンテの血統にのみ発現する、魔法特性のことだ。
この世界には、魔法が存在する。人はそれぞれ体内に魔力を持って生まれてくるのだけど、その特性は、人によってさまざまであり、血筋によってある程度は継承される。要するに遺伝するのだ。貴族や、帝国王族の人間は、それぞれ特異な魔法特性を持っていて、同じものは一つとして存在しない。だからこそ、人間によるブリーディングが盛んに行われるわけだが・・・。
アダマンテの血統の魔法特性、竜使いは、一般的には、翼竜と意思疎通ができるというものと言われている。翼竜、別名ワイバーンは、帝国北部に生息する、大型の有翼生物だ。最大全長は、10メートルくらいだと思う。翼を広げると、もっと大きくなるかもしれないけど、頭から尾の先まではそのくらいだ。
竜使いを使うことによって、私は翼竜を従え、意のままに命令することが出来るのだ。アダマンテ家で、この力を発現できたものは、帝国防衛の要として重宝されている。翼竜に騎兵を乗せた翼竜部隊の数は300ほどだが、一夜にして城を攻め落とすと言われている強力な戦力だ。その中核にいるのが、竜使いの使い手なのだ。
現在のアダマンテ家において、この力を使えるのは、残念なことに私しかいない。実を言うと、父は婿養子なのだ。母がアダマンテの人間で、その母も私が幼いころに病で亡くなっている。アダマンテの後継者は他におらず、私が最後の砦ということだ。
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