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ロードオブハイネス  作者: 宮野 徹
第二章 龍との契り
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苦しみは永遠に

待てと言われたのだから、どれだけ大変でも待たなくてはならない。雪国の地下牢は、相当冷えるはずだが、今の私の体は人間のそれではない。龍族がどうして寒さに強いのかわからないが、とにかくありがたいことだ。しかし、本当に苦しいのは、その龍化に伴う、本能に逆らうということ。


「はぁ、はぁ、はぁ、あぁもう!」

「・・・大丈夫か?」

「・・・大丈夫、じゃない。」


ジエトが率いる王領騎士団が到着するのは、どれだけ早くても一日はかかるだろう。あの王女でのやり取りが、ちょうど五日ほど前になる。一週間もあればグランドレイブを降りて、帝国最北端へたどり着けるはずだ。おそらくだが、エレオノールに15万もの戦力を留めることはできないので、すこし南方のアダマンテ領の街々に、戦力を分散させているのだろう。そのうえで、ジエトをこの街へ呼んでくれているはずだから、今日か、明日には、私への裁量が決まるはずだ。


こちらとしては、時間の感覚がわからないから、あとどれくらい待てばいいのかがわからないため、余計苦しい思いをしている。


「・・・うぅぅぅぅぅ。ああぁ!」


吐き出したい思いを、牢屋の壁にぶつけてしまう。両手をついて、その固い石壁に頭をぶつけたくなる。それで何かが解消されるわけじゃない。むしろ頭から出血してしまうだろうし、私の体は決して満たされてはくれない。


髪の毛を力いっぱいつかみ、頭を左右に振っても、素足で地団駄を踏んでも、言葉にならない叫び声をあげても、苦しみは終わらない。飲み込んでも飲み込んでも、なお渇き続ける。


「・・・ねぇ、アレン・・・。」

「なんだ?」

「匂いは?」

「・・・こっちまでは届いていない。」

「そう・・・。」


自分の髪の毛を確認すると、毛先は色が抜けているのを通り越して、毛先から半分くらいは桃色に変わっている。このまま、完全に本能に飲まれてしまったら、私は私でなくなってしまうのだろう。いっそ舌を噛んでしまった方が楽になれるのでは、錯覚してしまいそうになる。


「っぅ、あああああああああぁぁあぁぁぁああぁぁあああぁあああぁぁぁあぁぁぁあああ!!!」


牢の格子を両手で叩きつけ、気が狂ったように声を上げて、私は失いつつある理性を、紙一重で繋ぎとめていた。




いつの間にか、気を失っていたようだった。


牢の真ん中で、口の端から涎をこぼしながら、いかにも無様な姿を晒してしまったものだ。


「起きたか?」


アレンの声ではなかった。牢屋の中で反響して聞こえてきたその声は、ジエトのものだった。


「へい・・・か?」

「そのままでよい。隣の者から、簡単に話は聞いた。」


説明しなくていいというのはありがたかった。もはや起き上がる気力すらない。アレンがいったいどこまで話をしたのかはわからないが、今の私には、今この場で刑罰を言い渡されても、弁明することも出来はしない。


「そなた達が、我ら帝国に仇なすつもりがないということはわかった。青年よ。そなたの言葉に嘘偽りはないのだろう?」

「もちろん。そっちがその気なら、戦争でもなんでも付き合うが、面倒事はごめんだ。」

「ふむ。私も、本物の龍と事を荒立てるつもりはない。」

「陛下・・・龍の・・・ことを、ご存じで?」

「ロウ。ここでの会話は、他言無用だ。我々だけの秘密とする。よいな?」

「それって、どう・・・いう?」

「詳しいことは後で話そう。今はとにかく、そなたの体をどうにかせねばな。」


ジエトはそういうと、守衛を呼んで、先にアレンを開放した。牢の格子に、彼の姿が映ったとたん、私は抑えられない衝動のままに、格子に突っ込み彼へと腕を伸ばしていた。


「うぅ、はぁはぁ。」

「・・・これがそなたの言う、龍化というやつか?」

「彼女が欲しているのは、俺の魔力だ。それに、甘い匂いがするだろう?これに当てられると俺も狂ってしまう。いや、匂いを嗅がされてそのままでいると狂う、が正しいか。・・・はぁ、とりあえず、あんたたちは見ないでくれ。彼女の名誉のために。」


私が伸ばす腕を捕まえて、彼は格子越しで私の唇に、自分のものを重ねてきた。それは、ほんの一瞬の出来事だったけど、私を苦しめていた苦痛は、すっと全身から抜けていった。こんな、情も愛もない形だけの行為だというのに、どうしてこんなにも満たされてしまうのか。


体が落ち着くと、膝が笑ってしまって、がくりと崩れ落ちてしまった。


「落ち着いたか?」

「・・・・・・うん。ありがとう。」

「なんと因果な・・・。バロックスは、このことは知っているのか?」

「・・・いいえ、父には、まだ・・・。」


ジエトは、なんというか、こういうことには達観しているというか、事情も話したし、卑しい行為とは思わないだろう。だが、父にこのことを話すのは気が引ける。結婚する気はないと言っている手前、思い人でもない相手と、こんなことをしなければならないのは、父親としては複雑なものだろう。


「ロウ。それに青年よ。我が権威を以て、そなた等を客卿とする。」

「陛下。私は・・・。」

「話はあとだ。今はそのような姿を人前にさらすのはよくない。そなたのためにもな。」


ジエトの意図はわからなかったが、どうやら私たちを囲うつもりでいるらしい。それが許されるなら、そうしてもらった方がいいのかもしれない。騎士団が私をどう思っているかわからないが、少なくともアレンを敵性勢力としているのは間違いない。一歩遅ければ、龍の姿で騎士団の一部を屠っていたかもしれないのだ。


「職権濫用じゃないのか?国王だからって、何でもしていいわけじゃないだろう?」

「そなたが気にすることではない。今我らが向き合わなければならないのは、魔物を殲滅することだ。敵かどうかもわからない龍に構っている時間はないのだ。」

「・・・申し訳ありません。」

「よい。ロウ。今は、自分のことだけを考えていなさい。」


わたしとアレンは、ジエトに連れられて、拠点の牢屋をあとにした。




うわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ

うああああああああああああああ

うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ

うわーーーーーーーーーーーーー


どれも叫び声・・・。文字であらわすのは難しいですね。


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