あなたの元へ
体が焼けるように熱かった。まるで全身に火がついているかのような感覚だ。そんな状態では生きてはいられないとわかっているが、どうしてかその熱は心地よかった。熱にうなされるというのは、こういうことを言うのかもしれない。
現に私は、夢の中で不思議な生き物の背中へ乗って、大空を駆けまわっていた。不思議な生き物は、なんとなく、あの乱入してきた魔物に似ていて、私はそんな彼と仲良さげに空の旅を満喫している。
仲良さげ?そう、仲良く二人で空を駆けまわっている。二人?魔物なのに?なんだっていい。こんなにも楽しいひと時は、きっと今だけだから。この世界で、こんなにも幸せな時は、生まれて初めてなのだ。
目が覚めた。朝だった。と言っても、既に日は結構な高さまで上っている。こんな時にまで寝坊してしまっては、またライラに呆れられてしまうだろう。最も今は、熱のせいでまともに体を起こすことも出来ない。寝返りを打つのも億劫で、窓の外を見ることさえかなわない。
夢の世界のように、あの銀世界を飛んでいきたい。そんな欲望がふいに沸き上がった。あの魔物の元へ、行きたい。彼の気配を感じるのだ。いや、声、というべきか。竜使いを通しての声なのか、熱のせいでよくわからなかったけど、あの魔物が今、戦場にいる。私は呼ばれているような気がする。いや、私の中の何かが、あの魔物の元へ行きたがっているのだ。
「お目覚めになりましたか、お嬢様?」
部屋にライラが入ってきたけど、私は振り向かなかった。ただ外を見て、あの魔物の元へ行きたいという欲求がどんどん膨れ上がっていく。
「お嬢様?大丈夫ですか?」
返事をしない私を心配して、ライラは顔を覗き込んできたけど、その時にはもう、私の理性はどうにかなっていたのかもしれない。
ふいに体が自然と起き上がり、寝台から出ようとした。
「お嬢様?厠ですか?お嬢様?」
立ち上がったまま、何も言わない私に、ついにライラは私の肩を掴んできた。しかし、その手はすぐに離れ、ライラの両手が一瞬でやけどを負っていた。
「お嬢様!?どうなされたのですか?」
彼女の声は私には届かない。手を窓に向けてかざし、何をしたのかわからなかったけど、風のような衝撃波が、手から放たれ、窓を吹き飛ばした。ガラスが割れ、飛び散った破片が私の柔肌を切り裂いていく。
しかし、その傷は血を流す暇もなく、瞬く間に癒えていった。
背中に違和感を感じ、少し前かがみになると、肩甲骨のあたりから何かが這い出てくる感じがした。勢いよく出てきたそれは、私の寝巻を貫いて、周囲に小羽根をまき散らしながら、その姿を現した。
翼だ。白鳥も驚くような、見事な白翼が一対、私の背中に生えたのだ。これがあれば、彼の元へ行ける。そんな思いに取りつかれた私は、窓から外へ飛び立とうとした。
そんな私を、ライラが背後から羽交い絞めにするように止めてきた。
「お嬢様!目を覚ましてください。お嬢様!!」
彼女の両腕が焼ける音がすぐそばで聞こえる。必死に抑えられているけど、私はそっと彼女のお腹を押すと、まるで棍棒で叩かれたかのように吹き飛んだ。寝台にたたきつけられた彼女は、なおもその腕を伸ばしてきたけど、私は気に留めなかった。
割れたガラスの破片を踏みつぶしながら、窓枠に飛び乗り、そこから翼を大きくはためかせて、外へ、そして大空へ、自由に飛び立っていた。
体が焼けるように熱かった。まるで全身に火がついているかのような感覚だ。そんな状態では生きてはいられないとわかっているが、どうしてかその熱は心地よかった。熱にうなされるというのは、こういうことを言うのかもしれない。
こんな事を、前にも感じた気がする。けれど、そんなことはどうでもいい。あの人の元へ行くんだ。私の中の何かが、彼に会いたがっているのだ。それ以外、もう、何も考えられない。




