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ロードオブハイネス  作者: 宮野 徹
第一章 魔物の大侵攻
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兵長とボス

拠点の指揮所で、身も心も温まっていると、竜騎兵の鎧を着た人が近づいてきた。竜騎兵の兜はフルフェイスだから、顔がわからないのだ。


「見事な演説でしたな。ロウお嬢様。」

「その声は、ソラン兵長。」


名前を言い当てると、その少し魚っぽい兜を取り外して顔を見せてくれた。やっぱりソラン兵長だった。


「燻っていた、騎士の心を、ああも容易く燃え上がらせるとは。さすがは、バロックス様のご息女ですな。」

「からかわないでください。ああでも言わないと、みんなの士気を上げることはできなかったですから。」

「ふむ、ですが実際、部隊の士気を上げるというのは、難しいものです。私も少し見習おうと思います。」


ソランは、竜騎兵の兵長を務めているが、その役職は在って無いようなものだ。普段は、竜騎兵の訓練や戦略を練っているが、実戦で実際に指揮をするのは私の方だから、兵長というのはまとめ役みたいなものだ。


「部隊の調子はいかがですか?」

「もちろん万全でございます。最近、私もようやくタイタン級の翼竜の扱いに慣れてきたところでして。」

「彼らは誇り高いですからね。普通の翼竜と違って、人間の言うことなんて聞きたくないんですよ。」


タイタン級というのは、要するに、野生でいれば、タイタンネストと呼ばれる魔物であるということだ。竜使い(ドラグーン)を用いれば、たとえタイタンネストだろうと、従えること自体は難しくはない。だが、竜騎兵としての調教は、かなり苦労するのだ。私は、竜使い(ドラグーン)があるから、そう難しくないけど、騎士たちにそれをやってのけるのには、かなりの時間を労したものだ。


「ですが、彼らの力は本当に素晴らしい。ようやく、私が考案した戦闘を、実戦に投入することが出来ましたよ。」

「頼りにしてます、ソラン兵長。」


最近は、ほとんど竜騎兵の訓練の手伝いをしていなかったから、騎乗の腕は私の方が落ちているかもしれない。なにせ、久々の空の旅で値を上げたくなるくらいに体が鈍っていたから。もっとも、戦場では、私は後方から魔法を振りまいているほうがいい仕事ができるだろう。


「そうだ。兵長。夜になる前に、現在の魔物の群れの動きを、高高度から偵察をお願いできますか?」

「わかりました。すぐに小隊を編成します。」

「向こうにも翼竜や有翼の魔物がいるそうなので、高度は1500ルクス以上を飛ぶよう指示してください。」

「はっ。」


この偵察は、敵の動きを見張るという意味合いでしてもらっているけど、本当はそうじゃない。


タイタンネストを超える大物。まだその存在が、いるかどうかもわからない状態では、騎士たちの不安を取り除いたところで、焼け石に水だ。いや、実際に大物がいるのなら、焼け石を通り越して大火事になってしまうけども。


現状、200万の魔物が押し寄せてきたとしても、戦いというのは、一瞬でカタがつくようなものじゃない。直接戦いを行えるのはぶつかり合った者たち同士だけ。200万が一斉に襲い掛かってくるわけじゃない。それほどの規模になれば、ホコテンみたいに最前から最後尾までにかなりの距離が出てくる。


前列からしっかりと対処していけば、全消しするのは難しくない。ただ、空の魔物や、タイタンネストには、苦戦を強いられたり、前線が崩壊する可能性もあるから、何か対策を講じなければならない。


「空の戦力は竜騎兵で対処したとして、魔晶砲弾と魔法が使える騎士たちを主軸に、どうにかしてタイタンを抑えられれば・・・。いやでも、魔物の種類も多いから、何気ないところから抜けられる可能性もあるし、処理層を幾つかに分けて、部隊を配置したほうがいいかな。そうなると部隊を密集体系にするよりもあえて、間を開けて配備しないときつきつになるなぁ。でも、それやると、それぞれが孤立してしまうことだってあるし、・・・Etc。」


戦略とは、ありとあらゆる事態を想定しておくものだ。近代兵器であふれた前世の世界では、敵に合わせるよりも、あるものすべて使ってシミュレーションし、一番有効な攻撃手段を選ぶのというのが戦争だ。ミサイルなんて、先に撃ったもの勝ちなんだから、話が簡単でいい。


しかし、この世界では、戦争は下手をすれば何日も長引くし、敵の動きに合わせて、こちらも動かなければならない。防衛戦に至っては、なおさらだ。何かを守りながら戦うというのは、普通に戦うよりも難しい。


魔物たちの目的が、食料にせよ、純粋な侵略にせよ、目標は防衛に当たる騎士団ではなく、帝国内部へ向けて進軍することだ。こっちにこい!、そう呼びかけても、敵の目標が自分になければ、当然のように素通りされてしまう。だからこそ、城壁を築いたりして、物理的に侵入できなくさせるのが定石だ。だが、エルレイン山脈から、北部州に至るまでは、見渡す限りの大雪原だ。だだっ広くて、野戦をするにはうってつけでも、防衛線を敷くとなると、兵力を横に広げなくてはならない。


一応エレオノールは城壁で囲われてはいるが、相手が200万もいるのであれば、魔物の群れに街ごと飲み込まれてしまう。飛行戦力がいる以上、籠城戦もさほど意味をなさないだろう。


一番最悪のパターンは、エルレイン山脈からまっすぐ南下せずに、他方面から帝国領土に侵入してくるパターンだ。これまでにも、魔物は何度か侵攻してきてはいるが、どれもエルレイン山脈からまっすぐにエレオノールに向かって来ていた。だからこそ帝国防衛の要といわれるのだけど、もし頭のいい魔物がいて、別の方角から攻めようなんて考え始めたら、ここにいる兵力は全く無意味なものになってしまう。


「はぁ、・・・・とにかく偵察の報告を待つしかないか。」


ひとりで悶々と考えていても、事態はまだ動いてすらいない。何かしなければとは思うが、貴族である私が、騎士たちの仕事を手伝うわけにもいかない。私は、やってもいいと思うけど、お互い気を使って気まずくなるだけだ。何より、外は寒い。前世でも、北海道に行ったことはなかったから、同じ国にいても、これほど気温が違うことにはとても驚いている。寒いんだろうなぁ、としか思っていなかったから・・・。


それでも、翼竜たちの様子が見たくなって、とりあえず外に出いていた。砦を守るように取り囲んでいる翼竜たちは、先ほどの騒ぎは静まりかえり、のんびりとしている。相棒の竜騎兵と、楽しげに遊んでいるものたちもいる。


この300頭の翼竜たちをまとめているのは、3頭のタイタンネストの、その中でもさらに大きな一頭の翼竜。黒色の甲殻を身にまとった、黄色い目をした子だ。全長で言えば25メートルはあるだろか。翼を広げた時の姿は圧巻で、まさしく龍に等しい存在といえるだろう。


そんな翼竜たちのボスは、地べたでくつろぎまくっていた。近づくと、私をちらりと見てきたが、すぐに目を閉じて知らぬ顔になった。


――― オマエ ミタコト アル イツモ セナカ ノル ニンゲン ―――


さすがはタイタンネストと言ったところか。ニンゲンという単語を理解しているのは、彼だけなのだ。他のタイタンネストは、言葉数は多いけど、人間という種族を認知できないでいる。


「退屈そうね?ちゃんとご飯食べてる?」


――― ハラヘル タベル イツモ スル ―――


そうは言うが、心なしか以前見た時よりも痩せているような気がする。寿命、にしてはまだまだ早い気もする。種類によって差はあるが、翼竜の寿命は150年ほどだと言われている。長年翼竜の世話をしてきたアダマンテ家の記録には、そう書かれているのだ。


タイタンネストともなれば、普通の翼竜たちの比ではないはずだ。少なくとも200年かそれ以上は優に超えているだろう。このボスは、先代の使い手である母が子供の時に出会った子だ。その時からタイタン級として扱われていたけど、それを加味しても100年もたっていないんじゃないだろうか。


「病気?ただ元気がないだけならいいけど。」


―――     ゲンキ アル      ―――


そういうと、ボスは大きなあくびをしてから、翼脚を支えにして立ち上がった。


「なんだ、元気じゃない。びっくりさせないでよ。」


―――     ノル ?        ―――


どうやら、その気があるようで、久しぶりにボスに跨ることにした。


これだけ大きいと、跨るというよりも、よじ登っていかなければならないから、結構大変なのだ。だって、あまりそういう姿って人には見せたくないでしょう。いつもは、乗る前に首を下げてくれるのだけど、どうしてか今回はそうしてくれなかったのだ。


背中に取り付けてあるめちゃくちゃ小さく見える鐙にようやくたどり着き、ボスが自ら空を飛ぶのを待った。こういう私的な時間では、わざわざ命令して飛ばすのではなく、彼らに好きに飛ばさせてあげたいのだ。だが、ボスは一向に飛ぶ気配を見せず、北の方をじっと見つめたまま動かなかった。


「飛ばないの?」


――― トバナイ ニンゲン タカイ スキ ―――


「嫌いじゃあ、ないけど・・・。」


まぁ、ボスの背中に跨っているだけで、結構な高さになっているから、普段よりはいい眺めが目の前に広がっている。私も、彼が見ている北の方に目を凝らしてみた。


人間の視力では、ただの大雪原が広がっているだけだが、きっとボスの目には、何か違うものが見えているのかもしれない。愛想のない性格をしているこの子でも、同じ翼竜たちを仲間と思う気持ちは、竜使い(ドラグーン)を通して知っている。なんとなく、これから起こる戦いを、察しているのかもしれない。


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