表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロードオブハイネス  作者: 宮野 徹
閑章
100/153

戦う理由

読んでくださり、ありがとうございます。

良ければいいね、ブックマークをよろしくお願いします。

決闘、当日。私は私室で着せ替え人形と化していた。両手を水平に広げてメイドたちに戦用の礼装を着させてもらっているのだ。

「お嬢様の体形維持は完璧と言ってもいいので、新しいお召し物を仕立てる手間が無くて、少し残念です。」

「いいことでしょ?みんなの仕事を奪ってるのは悪いけど。」

縫物が好きでメイドをやってるライラは、いつもそのことを愚痴ってくるけど、必要以上にカロリーを摂取するのは自殺行為というものだ。この世界の貴族の服装というのはドレスだったり、ダボっとしたローブだったりで極端なのだ。ドレスは体の線が極端に強調されるし、ローブは見た目なんて関係ないくらい全身を覆うものだけど、普段着としては動きづらくてしょうがない。

こういう時は、いつだって礼装を着ている。ドレスより布の量が多いし、ロングスカートだけどベルトの役割を果たす腰巻も、コルセットほど締め付けないから気軽でいい。前世で言えばスーツに身を包んでいるのと同じだ。難点としては、こうして人に手伝ってもらわないと、時間がかかってしまうという点だろうか。

「御髪はどうなさいますか?お嬢様。」

「後ろで一つに結ってくれる?」

「かしこまりました。」

戦いの時、女子は髪を一纏めにすると相場が決まっている。・・・イメージだけど。その方が動きやすいし、きつめ縛っておかないと、戦いの最中乱れてしまっては敵わない。最後にメイドたちがスカートの裾を伸ばしてくれて、私は椅子から立ち上がる。

衣装台の鏡に映るいつもと違う自分を確かめる。ポニーテールにしたせいか、少し幼く見えるけど、その目つきは真剣そのものだ。冷たくも鋭い視線が、私を見つめ返していた。

「いかがですか?」

「ええ。いい感じ。ありがとうみんな。」

五つの指輪を左手の指すべてにはめ込み、アルから借り受けた儀礼用短剣を、腰帯に吊るす。馴染みのある刺剣ほどではないが、頼もしい重みだ。

鳴いても笑っても、今日は私の人生の転換点となる。この巨大な帝国の正式な妃となる運命を定められるのだ。

元々望んだ将来の選択ではなかった。いずれは結婚し、アダマンテ家の存続のために生きていくのだと思っていた。それが虚しいと思ったことはない。どこまでも自分を愛してくれる父のためにも、その役目を負えることを誇りに思っていた。

しかし、何の因果か、私は彼に選ばれてしまった。本来辿るはずだった道から、無理やり外せられ、より困難な道へ路線を変えられてしまったのだ。いや、私は嬉しかったのかもしれない。父には申し訳ない気持ちもあるけれど、この道を辿ることに私は仄かな期待を抱いている。王子に見初められ、運命的な出会いよる後先の見えない旅路に。



決闘を行う場所は、どういうわけか泉の階で行われることとなった。次期王妃を決める神聖な決闘、とそれっぽい名を打てば、実にふさわしい場所と言えるだろう。階は以前アルと決闘をしたときとは違って、戦いやすいように簡易的な囲いが出来ていた。おそらく大地の記憶(アーステイル)の魔法で大理石を変形させて一時的な決闘場を作り出したのだろう。

私が階にたどり着いた時には、既に挑戦者たちと、決闘を見届けるべき人物たちが集っていた。ジエト、フィリアオール、アルハイゼン、宰相のクリスハイトに、宮内を司る大臣のミコト・フランベル、帝国議会の決闘委員の者たちが数名。それから、挑戦者それぞれの親族が、重苦しい空気を携えて待っていた。

大多数から向けられる視線は、まるで親の敵とでもいうようなものだった。私は別に彼らに対して恨みを買うようなことはしていないはずだが、出来ればその視線は、貴方たちの王子に向けてほしいものだ。

「遅いじゃない!女狐!」

そう叫んだのは、挑戦者の一人だ。確か、侯爵家の令嬢だったはず。家名は・・・流石に覚えていない。

「最後に登場だなんて、いい身分ね。」

「・・・時間通り来たはずです。それに、まだ4人ほど挑戦者の方々が揃っていないと思いますが?」

来ているのはまだ8人。残り4名がまだ階に来ていない。遅刻もしていないし、なんならその言葉は彼女らにかけるべきだと思うのだが。

「あんたが最後の一人よ。」

「・・・どういう意味ですか?」

私は決闘委員会にそう投げかけた。

「今この場に来ていない、アーシャム家、ミルドット家、バレル家、ヒューゲル家は、決闘を辞退、棄権いたしました。」

つまり私以外はそろっていたということか。だとしても、時間通りに来ているのだから、文句を

言われる筋合いはない。まぁ半分以上が腹いせの意味を含んでいるんだろうけど。

おそらく棄権したというのは、フェイクで、本当は棄権させられたのだろう。

12人を同時に相手にすると言ったときから、彼女らの中で何らかの動きがあると思っていたけれど、どうやら昨日のうちに水面下でこぎたないやりとりがあったようだ。

12人の挑戦者の名前は覚えておらずとも、一応一回、目を通しはしたのだ。名前ではなく、その身分を。確認したところによると、12人のうち、侯爵家が1、男爵家が2、その他はみんな帝国王族だった。帝国王族には、爵位は存在しない。アーステイル家と血を分け合った、王家と所縁のある家々だが、アーステイルの名を継承していない、分家にすら籍を置いていない家は無数に存在する。それらには身分の上下関係は、基本的に存在しないが、家同士の関係で従わざるを得ない間柄もなくはないだろう。そこまで綿密に調べをしようというわけではないが、その見えない身分差によって、辞退者がでても不思議ではないと思っていた。

来ていないのは、男爵家の内の一つと、残りは帝国王族3つだ。多かれ少なかれ、今来ている家のものに引き下がるよう伝えられたか、あるいは力ずくで黙らされたのだろう。とにかく相手が減ってくれたのは好都合だ。向こうも、勝つのに12人もいらないと踏んでいるのだろうけど、生憎数が減れば減る程、こちらが優位になることは変わりない。

「なにはともあれ、決闘に参加する全員が揃いました。お互い、適切な距離を取ったのち、魔法発動の準備を行ってください。」



決闘委員の指示に従い、8人の令嬢と距離を取った。彼女たちの服装は、昨日のドレス姿などではなく、私と同じく、戦うための正装になっていた。銀色の甲冑を纏っている者もいて、本当に戦に行く格好のようだった。防具を着たところで、魔法を防げるとは思えないが。

私はアルから授かった短刀を抜き、その感触を確かめた。手には馴染まない。柄が太くて持ちづらい。武器として使うのは無理そうだけど、そういう目的じゃないから問題ないだろう。

少し離れたところでこちらをチラチラ見ながら内輪で話し合っている挑戦者たちを見ると、なんだかいじめを受けているような気分になる。まぁ、学校で人気者の男子に手を出したのと同じような状況だから、あながちいじめというのも間違っていない。そして、いじめを解決するには、強くあらねばならない。そして、大抵は当事者が少しお痛を与えてやれば、いじめる側はおとなしくなったり、関わろうとしなくなるものだ。

やばいやつ、と思われるのはごめんだけど、それ以上に私には、私を認めてくれる人たちがいる。前世のように孤立することにはならないだろう。

「両陣、準備はよろしいでしょうか?」

決闘委員の審判が、間に入って指揮をとった。私はいつものように、左手の指輪に魔力を込める。向こうでこちらを睨む彼女らの、耳飾りやら手持ちのステッキやらが光りだす。8人もいれば、それぞれ異なる輝きを放つものだけど、4人が火属性の赤色、4人が雷属性の黄色の光だった。

触媒が放つ色というのはそれだけで発動する属性を意味する。これも彼女等の作戦ということか。

「それでは・・・・、決闘、始め!」

審判が旗を振り下ろして、ついに決闘の幕が下りた。私も彼女らも一斉に詠唱を始めた。

ここから先は私にとっては未知の領域だった。魔法決闘で複数人を相手取ることなんて本来無いから、どの魔法を選択し、どう展開していくのかを、綿密に考えなければならない。ある程度の作戦は考えてある。あとはうまくいくかどうかだ。



(アル、見ててよね?あなたが認めた者の、その真価が本物であることを、私が証明して見せる。)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ