Act.4 心を閉じろ
光司が彼女と別れてからもう1ヶ月。
俺は正直なところ、焦っていた。
恋なんかじゃない、抑えないと友情さえ失う!そう思って、抑え込んで抑え込んで、限界がやってきた。
「結城、俺と付き合わねー?」
俺の突然の発言に、隣にいた結城美香が、ガバっと俺の方を見た。
というか、俺の席の近くにいたほとんどのやつが、こっちを見た。
「はぁ!?なんで?」
「いやー、結城のこと好きだなー、俺…とか思って」
突然光司ががたっと席を立った。俺も顔を上げると、光司は何か言いたそうな複雑な顔をしている。なんだ?と思う暇もなく、光司が教室を出て行ってしまう。
それとすれ違うように次の授業のチャイムが鳴って、地理の先生が入ってきたから、みんなは今のことも忘れたかのように自分の席に戻る。
光司は戻ってこない。俺は、窓の外を見ていた。
放課後、ぼーっと席に座ったままの俺に、結城が話しかけてきた。
「ねえ、大地、何であんなこと言ったの?私のことなんて、好きでもなんでもないくせに」
「女の子って、すごいねぇ?なんでそんなことわかるの?」
結城は目の前に座ると、腕を組んで溜息を吐いた。
「女の子じゃなくたって、あの場にいた全員がわかってたことよ。あんたの態度見てれば、誰が私を好きだと思うのよ?」
「ん~…でもさ、結城と付き合いたいと思ったのは本当なんだけどなぁ…」
俺の発言に、結城は2、3回瞬きしたあと、じゃあ、と言葉を続けた。
「ためしに付き合ってみる?私、今フリーで暇してたところだし」
「じゃ、そういうことで、よろしく」
「うん、よろしく。それじゃ、また明日ね」
たった今、付き合うことになったはずの俺たちは、特に変わったことはなく、いつもと同じように、また明日、と挨拶をした。俺はまだボーっと自分の席から立ち上がらない。しばらくぼんやりしていると、光司が入ってきた。
「今の、本気かよ。結城と付き合うって」
「本気だよ、なんか悪いか?」
いつもどおりのへらへらした笑いにのせていった言葉は、なんとなく乾いていた。
「結城に失礼じゃないのか?好きでもないのに…」
「お前だって付き合っただろ?それに、俺は結城のこと好きだからいいんだよ」
俺の言葉に、ピクリと光司の眉が動いた。
「そうか、それならいいんだ」
「おぅ、いいだろ。んじゃ、俺、帰るわ」
「あ、あぁ、またな」
光司はうつむいたまま、こっちを見なかった。
誰のために、こんな嘘までついてるんだ…そう思ったけど、それは口に出しちゃいけない。
なんだかうまくいかない。
乾いてる。
飢えている。
何に…?
そんなの決まってる!!
だめだ、心を閉じろ、俺!
欲しがっちゃいけないものもあるんだって、高校生になって初めて気がついて、唇をかみ締めた。