Act.3 自覚症状
あんな告白の後でも、彼女と一緒に帰らないんだな、と思ったのは、もう1週間も前のこと。
彼女ができたことを、光司の口から聞いたのはほんの数時間前の昼休み。
今は放課後。誰もいない教室。
「お前、彼女と一緒に帰らなくていいのかよ?」
窓の外を見てうつぶせたまま、光司を見ないで聞く。
「あの子にも部活あるし、俺はこれからバイトだし、一緒に帰れるわけねーだろ?」
「じゃあさっさとバイトいけよ」
頭を上げて、光司を見ると、なんだか複雑な顔をしている。
「実はさ、俺、やっぱ別れようと思っててさ」
「え!?なんで!?まだ1週間じゃん」
言ってから、しまったと思った。光司が怪訝そうな顔で俺を見る。
「何で一週間って、知ってるんだよ」
光司から顔を逸らして、小さくため息を吐く。
「あの時、屋上にいたんだよ、俺。あのまま、体育サボって、次の授業も出なかっただろ?」
「そうか・・・。聞いてたんならわかるだろ?お試しだったんだから・・・いつ終わらせたって・・・」
「可哀想じゃないのか?その気もないのに、付き合ったりするから悪いんだろ?」
「じゃあ、このまま、その気もないまま付き合い続けろって言うのか?」
珍しく光司が声を荒げる。それに驚いて、思わず体ごと起きて光司を見る。
はっとしたように光司が口ごもる。
「悪い。なんかさ、違ったんだよ。付き合ってみたら好きになるかもって思ったんだけどさ、週末に2人で会ってみて思ったんだ。なんか、違うんだよ。俺が求めてるのはこんなんじゃねえなぁとか思ってさ。だから、可哀想だけど、別れようと思ってるんだ」
あぁ、俺ってなんて性格が悪いんだ、彼女と別れるという光司の言葉に、確実に喜んでいる。
「まぁ、しょうがないんじゃないの?確かにそんな気持ちのまま付き合ってるのも失礼だし」
なんて、いい友達ぶってみるけど、内心は跳ね上がる鼓動を抑えるのに必死。ついつい緩んでしまいそうな頬を押さえるのに必死。
「お前、嬉しそうな顔してんじゃねーよ」
ひくついてしまった頬を見逃してはくれなかったらしい光司に頬をつねられ、ひっぱられる。
「いひゃ、らっへ、おえほいっひょに・・・」
「何言ってるかわかんねー、ほれ、離してやるからもっかい言ってみろ」
ヒリヒリする頬を押さえながら、へらっと笑った俺は言う。
「俺と同じ彼女ができない男に戻るって事だろ?」
言い終わると今度は両頬をつねられた。
「できないんじぇねえよ、作らないんだ!」
知ってる?光司、こんなことされても、俺は嬉しいって思ってしまうんだ。
「いひゃい・・・」
「しるか」
その日の夜、光司は電話で彼女と別れたらしい。
彼女のほうは泣いていたと、光司は言っていた。
「まずいな、俺・・・。押さえられなくなる前に、この気持ちなんとかしなきゃ・・・」
そんな自覚症状を、とりあえずはどうすることもできないまま、また日常に戻っていく。
いつまでだましていけるのか、俺は気が気じゃないんだけど・・・。