Act.1 きっかけ
初めて人を好きになったのは、幼稚園の年長さんの時。恋なんて言えたもんじゃないけど。
相手はみんなみたいに、幼稚園の先生…ならよかったんだけど…俺が好きになったのは、隣のクラスの男の子だった。
大好きでいつもいつも金魚のフンみたいにくっついてたっけ。でもある日、男の子が同じクラスの女の子を好きになって振られちゃって、幼いながらに泣いたなぁ。
今となっては名前も顔も、なんで好きだったのかも思い出せない。
小学生の時は3年の時は同じクラスの女の子が好きで、5年の時はバスケ部の先輩、もちろん男だけど、好きになった。
中1の時は女子バスケの先輩と付き合って、童貞じゃなくなった。
恋愛経験は、多分その女の先輩だけじゃないかな。他は何となく誰が好きって聞かれたらそう答えるかな、っていう程度に好きなだけだったから。
そう考えてみたら、俺って意外と男でも女でもイケるんだ、と思えた。
それなら、ここ数日のこの胸の鼓動も、納得できる。
それは…高1になってすぐの席がえで、俺の斜め右前になったやつ。
こいつが気になって仕方がなかった。
入学式が終わって最初の1週間は、顔と名前を覚えるためか、名前順だった。おかげで、大体の顔と名前が一致してきた。
女子と男子が半分ずつ、38人のうちのクラス。特に男女で分けるでもなく、バラバラにクジ引きで決められた。
ひいたクジの席は窓際の一番後ろ。なんてラッキー!とか思ってたら、前も隣も女子…。それはラッキーじゃない。男がいなきゃ、気軽な話し相手がいないじゃないか。
そんなふうに思って窓の外を見ていたら、無愛想な声で「おい」と呼ばれた。
「紙、落ちてんぞ」
床を指さしたそいつは、斜め右前の席に座った。
床に落ちていたプリントを拾って机の上に置く。
確か、こいつの名前は…。
「皆川光司くん、だよね!よろしくね」
俺の前の女が隣になったそいつに声をかけた。
そうそう、皆川だよ、うん。随分無愛想なやつだとは思ったけど、まぁ悪い印象を受けるほどじゃないし、そのうち話しかけてみよう。
一人でそう納得しながら、ホームルームが終るのを待った。