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潜入調査!異世界キャバクラ!

「お隣失礼いたします。」


 横に座ったのはまさに美女を絵にかいたような女性だった。

絵画の聖母はこの見た目だろうと思われるほどの姿は、No1が当然のことだと確信させられる。

すらりと伸びた手足は細く、シルクを思わせる滑らかさだった。

顔は言うまでもなく整っているが、尖った耳がさらなる視線を集める。


「ネアウェンです。よろしくお願いいたします。」


 ネアウェンと名乗る女性は、ハープのような声で自己紹介をした。


「えっと……アンノです。よろしくお願いいたします」


 ネアウェンはにこりと微笑みながら頭を下げる。やばい。これだけで惚れそうだ。


「アンノさんはこちらのお店初めてですか?」

ネアウェンは尋ねる。一言一言にドキドキする。


「初めて……です。アイスさんの紹介で来ました」

正直に答える。


「アイスちゃんですね!親しみやすくてとてもいい子だから私も仲良くしてもらってるんです」

ヒョーカは人当たりがいいのだろう。確かに親しみやすい性格をしている。


「アイスちゃんかわいらしいから、お目当てのお客様も多いんですよ」


 なんとなく想像がつく。あの性格であの見た目。暴力的な体つきは確実に人気になるだろう。


「ネアウェンさんもおきれいですよね……なんというか……神秘的です」

素直な感想を述べる。照れて伝えないほうが失礼と思えるほどの美貌だった。


「ありがとう。私はエルフの生まれなんだけど、ヒューマンの方にはそういってもらうことが多くてうれしいです」


 なるほど……エルフは初めて見たがこんなにもきれいなのか。



 ネアウェンと他愛もない話を重ねたのち、ようやく本題に入った。


「少しうわさで聞いたんですが……こちらのお店ってすごく儲かっているみたいですね」

へたくそな入りだが、調査なんて初めてだから許してほしい。


「お店以外でもいろいろ稼いでいらっしゃるとか。うらやましいなあ。何か秘訣とかご存じだったりします?」


 なるべくアホのふりをして質問をした。いや、実際作戦が浮かばなかったからふりではなくアホなのか……


「秘訣かはわからないですが……やっぱり夜のお店なのでいろいろやられているって噂は聞いたことあります」


 まさかのヒット。高揚と緊張を悟られないように返事をすると、ネアウェンは続ける。


「お店だけの売り上げではないんでしょうけど……船が何十艘も買えるくらいにはもうかっているみたい」


 船の値段なんてわからないが相当なものなんだろう。しかしなんで船でたとえを……


「みたいってことは実際にはご存じではないんですか?」

もはや直接的な質問だが、ネアウェンは優しく答える。


「お店の売り上げを見たことがないので……おそらくは事務所で会計されているのかと」


 なるほど……店の売り上げを別の場所でまとめるのは手間な気がするが、それは何かを隠しているからなのだろうか。


「あとはいろいろな輸入業もされていらっしゃるみたい。ユグドラシル国外から貴金属をもってきているって伺ったけど、海外から安く手に入るとも思えないし不思議だなあと思っています」


 輸入業に違法性があるとは思えないが……やはりよく聞くマネーロンダリングなどで稼いでいるのだろうか。


「私もお店の方にいただいたことがあるんです。珍しい金属みたいで……」


 そういうとネアウェンはコインを見せてきた。

きれいな手に乗せられたコインは……


「やっぱり珍しいですよね。なんだか私の知らない国の硬貨なんでしょうか」


「そうですね……遠い国の硬貨だったり……」

必死で答える。



 遠い国の硬貨、それは間違いない。

手のひらの硬貨は明らかに"日本国"と刻まれた500円玉だった。





「残念だけどお時間みたい。延長はされますか?」

ネアウェンは尋ねる。本当はいつまでも話していたいが、そういうわけにもいかない。


「申し訳ないけど帰ります。楽しい時間をありがとうございました」

嘘偽りのない本心だった。


 ネアウェンは黒服に声をかけると、ゆったりと席を立つ。

去り際にこちらを振り向くと、困ったような顔で話し始めた。


「最後に一つだけ。アンノさんから凶星の相が見えます。私の占いはかなり正確だから近いうちは気をつけた方がいいと思います」


 なんて恐ろしいことを……確かに美人とはなした罰はどこかで受けそうだが……





「お会計はこちらになります」


 夕飯で見た金額の100倍近い数字が記載されている。1時間もいなかったと思うんだけど……

半べそをかきながら端末を差し出し支払いを進める。


 支払いを終えたタイミングで思い出した。調査がうまくいったら経費で落ちるかもという話だった!


「えっと……領収書ください!あて名は……上様で!」




 あて名欄にはしっかりと"ウエサマ"と記載されていた。そりゃこの世界に上様なんて言葉はないよな。

領収書は落ちないだろうな。がっくりと肩を落として店を後にした。ネアウェンの忠告通りだ。





 多少は得られるものがあったかと、夜風を浴びながらぼんやり思考する。

ただ遊びに行っただけにならずによかった。今日のうちにまとめて明日キョーコに報告するか。


・資金調達のために店の売り上げをいじっている可能性がある。

→裏帳簿のようなもので管理をしている可能性あり。帳簿は店にはなくどこかの事務所で保管している。

・違法な資金源の一つとして、どこからか貴金属を輸入している。

→異世界から持ってきている線が最有力。硬貨の件もキョーコに報告が必要。


 今日の収穫をかみしめながら報告の内容を考えていると、路地の方から急に声がかかった。



「おい」



 そこにいたのは入り口で受付をしていた大男だった。



「何をこそこそ嗅ぎまわっているんだ?」



 まずいことになった。

突然の出来事に焦りながら、ネアウェンの忠告はこのことだったのかとさらなる後悔をした。

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