14.密輸と調査
馬車から降りて来たのは、背格好からして恐らく文官。
彼は玄関の前で待機していたメイドに茶色の封筒を渡すと、すぐに馬車へ乗り込んで帰って行った。
王家の方々がいらっしゃったのかと思ったわ……
ふぅーと息をついて、私は教科書に目を通し始めたのだった。
それから数時間後。この日の授業が全て終わり、私は大きく背伸びをしていた。
今日もお疲れ様……じゃない。まだ抜き打ちテストが残っている。
だけどクラレンス様がなかなか部屋にやって来ない。もしかして忘れているのかも。
気になるので、クラレンス様の部屋に行ってみることにした。
「クラレンス様、いらっしゃいますかー?」
ドアをノックしてから呼んでみると、部屋の中から「アッ」という声が聞こえて来た。
こ、これは完全に忘れてたパターンだ!
「ご、ごめん! もうテストの時間だったのに……!」
部屋から出てくるなり、焦った様子で謝るクラレンス様。
その慌てぶりが何だかおかしくて、私はちょっと吹き出してしまった。
「ぷっ……ふふ。わ、笑っちゃってごめんなさい……」
部屋の中を覗いてみると、大量の書類がテーブルの上に置かれていた。
「先にお仕事を済ませちゃってください。テストはその後でもいいですから」
「あれは仕事じゃなくて……」
クラレンス様はそこで少し間を置いて、
「……いや、君にも話しておこうかな。さあ、部屋に入って」
「お、お邪魔します」
ペコリと一礼してから入室する。
書類に視線を向けてみると、それらは様々な商品の取引内容を詳しく纏めたものだった。
「え……?」
商品が全てジャムだと気づき、私は首を傾げた。
「これは一体何ですか?」
「ここ数週間で、うちの国から他国に密輸されたジャムの調査結果だよ」
「みっ、密輸ぅ!?」
まさかの内容に、上擦った声が飛び出した。
何でそんなブラックなデータが、今ここに!?
私が困惑していると、クラレンス様は書類を一枚ずつ手に取りながら語り始めた。
「マーガレイド農園の火事で、全焼した小屋に入った時に違和感があったんだ」
「……違和感?」
「火事の前日、僕たちは大量のジャムを作って小屋に保管していたよね。その個数に対して、床に散らばっているガラス片が少ないと思ったんだ」
「ぜ、全然気づきませんでした……」
「犯人が持ち去ったって分かったし、その目的もすぐに見当がついたよ。こっそり販売して、利益を得るつもりだろうって」
クラレンス様の言葉に、私は言葉を失った。
小屋に火を付けただけじゃなくて、盗んだものを売るなんて、あまりにも酷すぎる。
「農園のニュースが出回ってるこの国より、他国の人間を相手にする方がリスクは低いはず。そう考えて、色々な機関を使って調査をしてみたんだ」
そういえば火事があった翌日、クラレンス様はたくさんの手紙を用意していた。あれは調査依頼のものだったのかもしれない。
よく見ると、書類の下には茶封筒が埋もれていた。……これって、文官がメイドに渡していた封筒なのでは。
「色々な機関って、どこにお願いしたんですか?」
「それはちょっと言えないかな……名前出したら、僕怒られそうだから」
私から目を逸らしながら、小声で言うクラレンス様。
怒られるだけで済むのかな、という疑問は置いといて。
「やっぱり犯人は、クラレンス様の読み通り密輸をしていたってことなんですね」
「うん。ジャムの種類も、マーガレイド農園で作られているものと同じだった」
「許せない……! 早くその犯人を捕まえに行きましょう!」
「お、落ち着いて落ち着いて。まだ確実な証拠がないんだ」
やる気満々でシャドーボクシングをする私を宥めるように、クラレンス様が「どうどう」と両手を前に出す。
「農園のジャムと種類が同じなのは、単なる偶然だと言われたらそれまでだ。密輸の罪を問えても、ジャムを盗んだことが証明出来ないと……」
「……証明出来ればいいんですか?」
「そうだけど……味が同じって主張は、理由として弱すぎるから使えないよ」
「ううん。味以外で、今年マーガレイド農園で作られたジャムだって証明する方法があるんです!」
私は両手を握り締め、自信満々に言った。
絶対に犯人を追い詰めてみせる。私の心は闘気の炎で、メラメラと燃えていた。