10.ジャムとお手伝い
「朝、母上が部屋に入って来て、『四十秒で支度しな!』ってこの服を渡されたんだ。それで急いで着替えたら馬車に押し込まれて、ここまで連れて来られました……」
リード侯爵……私の前では上品な淑女って雰囲気だけど、意外とグイグイいく性格だったとは。
だけど、流石は母親。クラレンス様のことをよく分かっている。
「あっ。今年も来てくれたんですねぇ、シャロンお嬢様」
「毎年毎年ありがとうね!」
私たちを出迎えた老夫婦は、マーガレイド夫妻。
他にも息子夫婦や、ご近所の人たちも集まっていた。
一日かけて数種類のジャムを作り続けるから、大人数が必要となる。
広場では、既に材料や道具がスタンバイ済み。
山のように積み上げられた果実の量に、クラレンス様が圧倒されていた。
「これを全部ジャムにするの? 今日一日で……?」
「みんなで頑張れば、今日一日で終わるから大丈夫です!」
今から怖気づかれては困る。私は出来るだけ明るい声で言った。
まずは果物のヘタや皮を綺麗に取り除き、大きいものは一口サイズに切る。
そしたら砂糖とレモン汁を加えて、大鍋でゆっくりと掻き回しながら煮詰めていく。
「ふぅふぅ……」
この作業がとっても大変!
かなりの量だからレードルで掻き回すだけで重労働だし、火の近くだから熱くて汗が出て来た。
クラレンス様は大丈夫かな。力尽きてないかな。
心配しながら、婚約者の方をチラッと確認してみる。
「あの、こんな感じでいいですか?」
「そうそう、その調子でやっておくれ。いやぁ~、見かけによらず体力がある兄ちゃんだなぁ」
クラレンス様は近所のおじさんの指導を受けながら、平然とした様子で鍋を掻き回していた。
袖を捲っているんだけど、腕の筋肉がすごい。
思わず見惚れていると、おばさんたちが私に話しかけて来た。
「あの人、シャロンお嬢様の婚約者なんでしょ? 綺麗な顔して、随分鍛えてるのねぇ」
「いい筋肉してるじゃないの~」
「それに優しそうな男の子だわ。シャロン様にぴったり」
自分の婚約者がこうして褒められるのって、何だか嬉しい。
「貴族の中にはシャロンお嬢様を悪く言う人もいるけど、あたしらはあんたの味方だからね。あの坊やと一緒に頑張るんだよ!」
そう言ってくれたのは、マーガレイドおばあさん。
その力強い言葉に、私は大きく頷いた。クラレンス様となら、絶対幸せになれるって信じているから。