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7.コンラッド

 

「ワージントン公爵家次男のコンラッドです。メルティナ殿下にご挨拶に参りました」


 父王がメルに婚約をしろと言ってきたその日のうちに、相手であるコンラッドが挨拶にやってきた。


「コンラッド様。今さらそんな挨拶はいらないわよ。子どもの頃から会っているんだし」

「ありがとうございます。念のため、形式は必要かと思いまして」

「あいかわらず真面目ね」


 コンラッドはメルが辺境伯領での療養から帰った後すぐに引き合わされた人だった。父王はユリウスのことで落ち込んでいるメルのために、同年代の友人を用意した。そのうちの一人がコンラッドなのだ。


 コンラッドに椅子をすすめながら、メルもその向かいに座る。


「コンラッド様もいきなり私と婚約の話を出されて困っているんじゃない?」

「いえ、私には前々からお話がありましたので」

「え? お父様は以前からコンラッド様との婚約話を進める気だったの?」


 そんな話は聞いてなかった。

 驚きに身を乗り出してきたメルに、コンラッドは背筋をピンと伸ばしたまま少し困った顔をした。


「殿下が15歳になられたあたりでしょうか。殿下がもし結婚する気になり、そのとき私に婚約者がいなければ、よろしく頼むとお声をかけていただいておりました」

「うそぉ。お父様ったら勝手なことを。近衛騎士のコンラッド様にそんなことを言うなんて! 嫌でも断れないじゃない」

「いえ、私は嫌などとは」


(まあ、本人を目の前にして嫌とは言い辛いわよね)


 国王陛下から声をかけられては断りにくかろう。メルは結婚する気はないことを隠していないため、社交界からは変わり者の王女だと思われている。それに兄である王太子にはすでに息子もいるし、今のメルと結婚しても血筋に少々箔が付くくらいの効果しかないのだ。その王女を押し付けられるなんてコンラッドにしたら貧乏くじだろう。それに――。


「コンラッド様は恋人はいないの?」

「はい。私は仕事一筋できましたので、そのような浮いた話はありません」

「そうなの? 密かに思う人とかいるんじゃないの?」

「いえ」


 堅物というか生真面目というか。

 椅子に座った瞬間から微動だにせずメルとの会話につきあうコンラッドを見て、メルは首を傾げた。


(うーん。コンラッド様はセアラ様のことを好きなのよね?)


 セアラはメルが辺境伯領から帰ってきたときに引き合わされたメンバーの一人だ。ヒューズ公爵家の二女で、子どもの頃はコンラッドとセアラと三人で遊んだりしていた。もともとワージントン家とヒューズ家の夫人同士が友人だったらしく、その関係でコンラッドとセアラも幼いころから仲が良かった。


 辺境伯領から帰ってすぐは落ち込んでいたメルも、王女としての教育や社交をこなさねばならず沈んでばかりもいられなくなった。ふだんは明るく過ごしているが、時折自分を囲む人間関係がわずらわしくなるときもある。そんなとき、誰に対しても媚びずに生真面目な返事をするコンラッドと、おっとりした時間の流れるセアラと一緒にいると癒された。

 だんだんと三人で過ごすことが多くなるなか、メルはあることに気が付く。それはセアラがコンラッドを目で追う瞬間があること。コンラッドがおっとりなセアラの動作に合わせてゆっくり行動していること。二人が思い合っていることにメルは気付いたのだった。


 だが、なかなか婚約しない二人に、どうしてだろうと思っていたのだ。両家も互いのことを気に入っているので特に障害はないはずなのにと。


(なんことなの! わたしが障害になっていたんじゃない)


 国王からメルとの婚約をチラつかせられていたから、コンラッドは身動きが取れなかったに違いない。


「その、セアラ様は元気かしら?」

「母が先週、ヒューズ公爵夫人とセアラを誘って観劇に行ったと言っていました。話を聞くかぎり変わりなさそうでした」

「そ、そう」


 あいかわらず生真面目な返答だ。

 メルに配慮して二人で会うことを避けているのだろうか。


(それとも二人で会っているけど内緒にしているとか?)


 コンラッドの生真面目な性格からは、どうやって恋愛をしているのか想像がつきにくい。

 メルが頭を悩ませている間に「そろそろ仕事に戻ります」と一礼してコンラッドは退出していった。


「ねえ、ケイト。コンラッド様とセアラ様のこと、どう思う?」

「コンラッド様は生真面目な方で、セアラ様はゆったりと落ち着いた方だと存じます」

「いえ、そういうことじゃなくて。二人は思い合ってるんじゃないのかなと私はにらんでるんだけど」

「ああ、そういうことですか。そうですねぇ」


 メルの質問にケイトは頬に手をあてて考え始めた。ケイトはどんなに小さなことでもメルの言葉に耳を傾けて、真剣に応えようとしてくれる。メルはケイトのそんなところを好きだった。信頼するケイトからは、あの二人はどのように見えているのだろう。


「まだ姫様たちが王宮の庭で遊ぶような年齢の頃から、お二人はお互いを気づかい合っているように見えましたわ」

「そうよね! やっぱりわたしの勘違いじゃなかったのよね。だったらなおさらコンラッド様と婚約するわけにはいかないわよね、うん」


 ケイトもメルと同じように感じていたと知り、メルは自分のカンが正しかったのだと力強くうなずいた。


「ですが陛下は姫様とコンラッド様の婚約を望んでいらっしゃるのでしょう。どうやって陛下を説得なさるのですか?」

「うーん、問題はそこなのよねぇ」


 メル自身はユリウス以外と結婚をする気はない。それに王女の体面を守るために、思い合う二人を引き裂くなんて、絶対に嫌だ。さいわいワージントン家もヒューズ家も名家であるし、両家をないがしろにすることは国王といえども避けたいだろう。そこに活路を見出せる気がする。


「とりあえず、コンラッド様とセアラ様の気持ちをちゃんと確認したいしな。ケイトも二人について何かわかったら教えてね」





 それから3日後。ケイトから一つの情報がもたらされた。


「コンラッド様がセアラ様のもとへ私的に訪問?」


 両家の夫人同士は仲が良いし、二人も幼馴染だ。邸を訪ねることも珍しくはないだろう。ケイトから告げられた情報の重要性がわからず、メルはキョトンとした。


「侍女仲間に聞いたのですが、コンラッド様は次の休みになったら、大切な話をしにセアラ様に会いに行くと同僚に話されていたそうです。コンラッド様は人気な近衛騎士のなかでも1、2を争う堅物……いえ、生真面目さで知られた方ですから、仕事以外で大切な話とはなんだと揶揄われていらしたのです」

「セアラ様への大切な話……。それってもしかして婚約のこと?!」

「ええ。わたくしもタイミング的にそうなのではないかと思いメル様にお知らせしたのです」


 メルはケイトの話を聞いて、推理を始める。


(もしかしてコンラッド様とセアラ様は水面下で婚約の話を進めていたんじゃないかしら)


 コンラッドは父王からメルとの婚約を願われていた。でもそれは、メルが結婚する意志を持ったときはよろしくね、という仮のもの。コンラッドやセアラには、メルとユリウスの経緯を話していたので、二人はメルが結婚する意志をもつことはないと理解していたはずだ。だから父王の様子をうかがいつつ、二人の婚約を発表できる日を探っていたのではないだろうか。


(それなのに、急にお父様が私とコンラッド様を無理やりにでも婚約させる気になったから)


 コンラッドは慌ててセアラのもとに今後の話を詰めに行くつもりなのではないだろうか。


「ねえ、ケイト。コンラッド様の次のお休みはいつかわかる?」

「それが今日らしいのです」

「今日?! 今、コンラッド様はセアラ様の元にいるというの?!」


(これはチャンスじゃない?!)


 メルは勢いよく椅子から立ち上がった。こうしてはいられない。


「ケイト。急いで馬車の準備をお願い」

「え? 外出なさるのですか?」

「そうよ。今すぐセアラ様のもとへ向かうわ」

「え? 今すぐ?」


 驚くケイトを横目に、メルは外出の準備にとりかかる。いきなりの外出宣言。しかもコンラッドがいるセアラの元へ行くなど邪魔をしに行くようなものだ。おろおろしていたケイトもメルが本気で出かけるつもりだとわかると、メルの準備を手伝い始めた。


「それではヒューズ公爵家に先触れを出しますので少々お待ちください」

「先触れはいらないわ」

「そんな。先触れをしないなど失礼に当たりますわ」


 ケイトの言うことはもっともだ。なんの連絡もなくいきなり王女が訪ねてくるなど迷惑極まりない。しかも相手は来客中である。ふだんのメルなら絶対にこんなことはしないのだが。


「今日はいきなり行くことに意味があるのよ」

「意味ですか?」


 訳が分からないという顔をするケイトに向かって、メルはこぶしを突き上げる。


「二人の逢瀬現場に突撃よ!」




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