みえないなにか
疲れて帰ってきて、部屋にどかっと座りため息をつくと、背後からふいに包み込まれるような感覚と背中にふにっと感じる柔らかなもの。
『おつかれさま…』
左頬に触れるさらりとしたものと甘い香り。そよ風のような囁きが耳もとを掠める。
背後には誰もいない。
テレビを見ててついうたた寝していると、ふわりと背中に毛布がかけられる。
『風邪ひくよ』
幽かな微笑みを感じる、そよ風のような囁きが顔のそばでした。
目の前には誰もいない。
失敗して落ち込んでいると、正面からふわり…とやさしく包み込まれるような感覚と、ふにっと顔に触れる柔らかなもの。
『だいじょうぶ…だいじょうぶ…』
背中をやさしく擦られてる感覚…耳から流れてくる、そよ風のようなやさしい囁きが体内を透明にしてゆく。
でも、そこには誰もいない。
人肌恋しい寒い夜。布団のなかで寒さに震えていると、ふわりと全身が包み込まれるような感覚。そして、ひたり…と頬に幽かに触れるなにか。
『体内から…温めてあげる』
唇に触れるそよ風のような囁きと、ふにりと触れる甘くて柔らかなもの。
何度も何度も唇や口内に柔らかいものが触れる絡まる。
すべすべとした卵のような滑らかなさわり心地。それでいてマシュマロのようにふわふわとした柔らかいものが身体中に触れる。
身体に触れる幽かなそれにあたたかさはないけど、じわりじわりと体内から身体じゅうがあたたかくなる。
熱くなる…
そよ風のような囁きが乱れてる…
でも、そこには何も視えない。