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斯くて少女は、新たな一歩を踏み出す  作者: takosuke3
一章 ~異郷と格差~
6/46

5:おめかし開始

「×××××~」

 キョーカの挨拶と思しき一声で入ると、まず目についたのは所狭しと並ぶ様々な服。どうやらここは、服飾品を扱う店らしい。

「××××××××~」

 その声は、店の奥ではなく頭上からだった。

「っ!」

 濃密になった魔力の気配に、アレクシアは思わず飛びのいた。

「あ、アラクネ……っ」

 上半身は、紛れもない人類の女。けれど下半身は──八本の足も禍々しい、蜘蛛の体。

 幾何状に張り巡らされた巣にぶら下がる亜人が、八つの瞳でアレクシアを見下ろしていた。

「××××? ×××××××××……」

 何とも言えない表情で。

「……いきなりそういう反応されると、さすがに傷つくと言ってるわよ」

「あ、うん……ごめんなさい」

「それを言う相手は、私じゃなくてそちら……ちなみに、こっちではアラクネじゃなくて、ツチグモっていう種族よ。で、彼女の名前はアミね」

「ごめんなさい、アミ」

 陽出語の謝罪をアレクシアが知ってるはずもなく、キョーカが陽出語に訳して伝えた。

 アミと呼ばれたツチグモの女は、尾部から伸ばした糸でスルスルと床に降り立つと、笑みを浮かべてアレクシアに手を振って見せる。

「気にしないで、だそうよ……アミチャン、×××××、×××××」

 キョーカとアミは何やら話を始め、すぐに結論が出たのかアレクシアに向き直り、

「さて、それじゃ本題に入りましょうか~」

 何故だろう、やけに目が光って見える。それに、どうして手を何度も開閉するのだろうか。その危うい気配に思わず後ずさるが、体に巻き付いた糸に止められた。その出所を辿れば、八つの瞳をやたらに光らせるアミの姿。

 ソーマを見れば、

「せいぜいガンバレよ。俺は、他の買い出しに回ってクル」

 と、薄情にもさっさと店を出ていった。残ったのは、蜘蛛糸でがらん締めの少女と、

「××××、×××××~」

「アミもいい仕事が出来そうだと喜んでるわよ~。さあ、お着替えしましょ~脱ぎ脱ぎしましょ~おめかしし~ま~しょ~」

 などとほざく、怪しい目つきの人類とツチグモのみ。アレクシアに逃げ場は無く、あっという間に裏へと引きずり込まれた。


*****


 アミはアレクシアを文字通り丸裸にし、全身を余すところなく測り、途中名残惜しそうに言いながらも、奥へと引っ込んだ。

 キョーカ曰く、

「久々に良い仕事が出来るって大喜びよ」

 実際、商売をそっちのけで〝休業中〟の看板を店先に出したらしいから、嘘ではないのだろう。

 そして残ったキョーカは、店に並ぶ服を次々に持って来て、あーでもないこーでもないとアレクシアを着せ替えていく。中には、そもそも服なのか布の切れ端なのか判別しかねるものまであった。

 キョーカ曰く、

「勝負下着ってヤツよ。これを着れば、あら不思議、人類の男共はコロリと魅了されて理性という服をかなぐり捨て、盛りのついたオスと化して群がり──」

 上着はおろか下着に至るまであれこれ選ぼうとするのはどうかと思うが、残念なことに、アレクシアに拒否権は無い。

 なので、

(……これは厳重封印ね)

 〝勝負下着〟の今後の扱いを、心の中で強く決めていると、出入口の呼び鈴が音を鳴らした。〝休業中〟の看板が見えない読めないということは無いはずなのだが。

 などと思っている間に、アミの返事も待たず、玄関口に設けられた小さな戸口が開き、

「×××~」

 そこから入ってきたのは、正に小さな来訪者──アミに比べればまだ人類に近い姿の、しかし人類の肩に座れそうな程に小さな亜人であった。

「ケイセイゾク……神聖帝国では、フェアリーとかピクシーとかって呼ばれてたかしら。ちなみに、その子はアゲハで、ここの隣でお店をやってるわ」

 アゲハという名のケイセイゾクは、蝶のような翼を揺らしながら飛んでくると、

「××××、××××××××っ」

 腰に手を上げて眉尻を吊り上げた顔で、キョーカに何かを喚く。

 言ってることは分からないが、この様子では、悪態だか文句だかを言っているようだ。

「×××~。××××××、×××~」

 キョーカは、手を合わせて何やら言い訳らしきことを言っている。

 そんなキョーカにひとしきり文句を言って少しは気が晴れたのか、アゲハは大きく息を吐き出すと、アレクシアに目を向け、

「×××……×××、×××××……」

 何やらブツブツと言いながら、アレクシアの周囲を飛び回り、

「×××っ!」

 不機嫌から一転して、何やら上機嫌に手を叩いた。その心情を示すかのように、アゲハから魔力の光が滲み出す。

「×××××~」

 すると、アミが逆さづりで下りてきて同意するように頷いて見せた。手書きのスケッチも交えて、アゲハと何やら話し合い始める。詳しくは分からないが、アレクシアの事であるのは間違いなさそうだ。

「実は、アゲハのお店にもお願いしたのよ。この後に行くはずだったんだけど、ちょっと遊び過ぎちゃったわね」

 と、キョーカは誤魔化すような苦笑を浮かべる。要するに、アレクシアの着せ替えが楽しくて、約束の時間を忘れていたらしい。おかげで、痺れを切らしたアゲハがこっちにやってきたようだ。

「というわけで、ちょっと惜しいけど、次に行くわよ。と言っても、隣だけど」

 キョーカとアゲハに押されて隣の店に入ると、アゲハとは別のケイセイゾク達が三体ばかり出迎え、アレクシアの手を引いて鏡の前に座らせた。これらの設備や並べられた道具を見たところ、どうやら化粧や整髪を行う美容所のようだ。

「×××××、×××××っ!」

「「「「「×××××、×××××っ!」」」」」

 アゲハが檄のような叫びを上げると、あちこちからケイセイゾクが飛び出し、それぞれの化粧品(得物)を掲げて群がり、アレクシアに化粧を施していく。

 その数、ざっと数えただけでも十以上。しかも、アゲハ同様に高揚しているのか、魔力光が溢れていた。

 一見小ぶりなフェアリーやピクシーだが、飛翔するだけで光の尾を引く程、内在魔力が高い。しかも、今は揃いも揃って気合充溢で魔力が噴き出す勢いで漏れ出ている。そんな集団に群がってこられたら、当然魔力の密度は凄いことになるわけであり、

「~~~~~~~っ」

 それに押される形で、アレクシアの意識は、一気に飛んだのだった。

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