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斯くて少女は、新たな一歩を踏み出す  作者: takosuke3
一章 ~異郷と格差~
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4:〝魔力酔い〟の洗礼

 衝撃じみた酷い揺れでアレクシア達を掻き回した末に、ようやくキョーカが浮揚機を止めたのは、リッタイチュウシャジョウとか言うらしい多層の建物だった。どうやら、神聖帝国で言う共用停車場のようなものらしいが、共用の便所まで設けられているのは、何とも奇妙だ。

 奇妙ではあるが──今は、とてもありがたかった。

「~~~~~っ、う、げほっ」

 便器に顔を突っ込み、口の中でどうにかせき止めていた腹の中身(・・・・)を盛大にぶち撒けた。走ってる最中は衝撃に打ちのめされてそれどころではなかったが、停車して気を抜いた瞬間、腹の奥からこみあげてきたのだった。

「……そりゃ、病みアガリで無茶すればこうナルヨな~」

 と、ソーマは同情的な視線を向けつつ、便所からふらふらと出てきたアレクシアに、手拭いを渡す。

 ちなみに、アレクシアをこんな風にした元凶(キョーカ)は、停車場を使う手続きをしているとのこと。

「シバラクすれば治るけど、それまでは気ヲツケ……て、言ってるソバからっ! オイ、××、××××××っ!」

 ソーマが何やら喚いているが、分からない。きっと、言葉が拙いか陽出語で喋っているのだろう。それにしても、真っ直ぐ歩けない。幻術にでも掛かったのだろうか。

「っ?」

 横合いから現れた大きな何かぶつかり、アレクシアは尻餅をついた。

 霞んだ眼をこすってそれを見上げ、

「──っ」

 出かかった悲鳴は、〝詰まった〟と言うべきだろう。

 そこにいたのは巨人──身の丈は、アレクシアの軽く五倍以上はある、文字通りの巨人。

 肌は染めたかのように赤く、頭には二つの角がそびえ、口の端からは鋭い牙が伸び、巨体からは魔力があふれ出て──アレクシアは尻餅をついたまま、立つのも忘れて凍り付いた。

「×××、××××××~」

 赤い巨人は、何かを呟きながら、その巨大な手をアレクシアに伸ばしてきた。

「~~~~っ!」

 今度は悲鳴が口から飛び出し、尻餅をついたまま、全力で後じさり、

「××っ?」

 今度は背中がぶつかった。背を反らせる勢いで見上げると、ソーマが眉をひそめて見下ろしていた。

「何やっテンだお前……×××、××××、××」

 アレクシアにぼやきを吐きつけると、ソーマは赤い巨人に陽出語で何かを言いながら頭を下げ、

「ホラ、お前モっ」

 と、ソーマは頭を下げたまま、尻餅をつくアレクシアの頭を掴んで強引に下げさせた。

「××××××。×××」

 巨人は、口の端を釣り上げながら何かを言うと、重たい足音を響かせながら立ち去った。

「コウキゾク──ソッチで言エバ、オーガに近い種族ダ」

「オーガっ?」

 アレクシアは、仰天して立ち去った巨人に向ける。

「何だ? いきなりツカマッテ、頭からボリボリ食われるトデモ思ったケ?」

「それは……」

 オーガとは、凶暴で知性が低く常に飢えた魔族であり、特に生きた人類が好物であり、捕まった瞬間、そのまま腹に収められる──そう、教えられてきた。

「ソレジャ、今のコウキゾクは、どうダッタ?」

「……」

 教えられた内容とは似ても似つかないほど、穏やかだった。逆に、教えられた内容と同じなのは、巨体と強面くらいか。

「ソウだ。陽出のオーガは、とても賢くて紳士的ダ……まあ、人類に比べレバ、短気で荒っポイ奴が多いから、チョットしたコトでケンカにはなるカモ?」

 ちょっとしたこと──いきなりぶつかって、自分の非を認めないばかりか相手を非難するばかりという、ケンカにおいてよくある原因。

「デモ、それは人類モ同じダ」

「……」

 人類も魔族も同じ──アレクシアの中で、何かがひび割れる音が響いた。


*****


 オーガ──もとい、コウキゾクだけではなかった。

 亜人や獣人、魔獣が闊歩し、大小の鳥や翼竜、更には妖精や霊体までが飛び回っている。まさに見上げるような巨体から、手のひらに乗るような小さな者まで。

 身を隠すことなく。

 我が物顔でもなく。

 行きかう人々は、何の疑問もなく、むしろ当たり前のように気にも留めずない。

 そんな中でアレクシアは、

「……ぅ~」

 目を回していた。

「〝魔力酔い〟ってヤツね。法術師──というか神聖帝国人なら、こうなるのは当たり前よ」

 法術を扱う神聖帝国人は、法力という形無い、しかし確かに存在する力を感じ取ることができる。必然的に、魔力に対しても鋭敏になるため、その影響も強く受けることになる。感覚を鍛えられた法術の専門家たる法術師ならば、尚更。

 魔族が当たり前のように行き交う──当然ながら、漂う魔力は濃密極まりなく、そんな場所にいきなり放り込まれたものだから、アレクシアは強く当てられてしまった。

「オイ、シッカリしろ」

「だ、大丈夫……」

 事実、頭は揺れているが倒れるほどではないし、ソーマの手を借りるまでもない。

「普通なら、立つこともままならないんだろうけどね」

 振り返ったキョーカは、アレクシアを観察し、

「確かに、思ったより大丈夫そうね。アレクシアちゃんの場合は、しばらく眠っていたから、少しずつでも慣れたんじゃないかしらね」

「怪我の功名っテカ? 運のイイ」

 あまり喜べる事ではないのだが、魔力酔いのせいで言い返す気力など無かった。

 キョーカは、そんなアレクシアの腕を引き、

「安心しなさい。あと少し……ほら、そこのお店だから」

 と、すぐ目の前の店を指さした。

「ここなら、小一時間くらいで良くなるわよ……色々と」

 色々って何だ──その質問も、魔力酔いのせいで口から出ることは無かった。

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