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斯くて少女は、新たな一歩を踏み出す  作者: takosuke3
終章 ~新たな世界へ~
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3:その後の三ヶ月、それぞれの三ヶ月

 エリッサは、座席越しでもわかるほどの怨嗟に満ちた目をアレクシアに向け、

『よく、おめおめと私の前にっ!』

 今にも法術を展開するなり、座席越しに首を絞めかかりそうな勢いであった。とはいえ、実際にそうなった場合の対策として、この浮揚機には法力を封じる結界が張られているし、前席と後席の間には、頑丈な格子組まれている。窓は、人力では破るどころか傷をつけることも不可能であり、扉の鍵も前の席から操作しないと開ける事も出来ないから、逃げだすことも無理だろう。

 エリッサも、移動する際に何度も説明されているはずだから、無駄に暴れるようなことはしない。

(──だと良いんだけど)

 今のエリッサでは、それこそ何をするか分からない。ましてや、完全な逆恨みと自業自得とは言え、自らの失墜の原因となったアレクシアを前にして、果たして大人しくしていられるかも怪しい。

 それを何度も忠告された上で、それでもアレクシアは最後の護送を願い出た。

 これが最後──エリッサと二人だけで話せる機会は、これが本当に最後だから。

 『……それじゃ、出発するわよ』

 エリッサの殺意を受けつつ、アレクシアは浮揚機を発進させる。

 教習所に通い始めた時ほどではないにせよ、公道を一人で走る事には、まだ少しばかりの緊張がある──とはいえ、覚えてしまえば操作は難しくは無いし、運転しながらお喋りする程度の技量も余裕も、アレクシアにはあった。

『……話は聞いてると思うけど』

 浮揚機の速度が乗ったところで、アレクシアは、まずは真面目な話から始めた。

『貴方は国外退去、そして強制送還よ。これから非公式の渡航船に乗って』

『うるさい……』

『まあ、ちょっと形は悪いけど、貴方は帰れるわ』

『うるさい、黙れ……っ』

 エリッサは呻くように吐き捨て、アレクシアの話を遮った。

『国外退去? 強制送還? 下民共が、ふざけるなっ!』

『まだそんなこと言ってるの? 貴方のしたことは、盗んで、傷つけて、無理やり奪い取って……貴方は、この国じゃれっきとした犯罪者なのよ。法に則った判決だし、船で送ってらえるだけでも、破格の待遇だと』

『黙れと言っているんだ出来損ないがっ! 大体、何が〝法に則った〟だっ! 何が〝判決〟だっ! 法とは、神の御名の元に定められた神聖なる意思っ! それを、穢れた者共が行使しようなどと、許されない冒涜だっ!』

『……』

 アレクシアの言葉をまたも遮って、エリッサは次々に喚きたてる。アレクシアも、一度話を中断し、運転に集中することにした。

 その間にも、エリッサの喚き声は続く。

『大体貴様も貴様だ! 〝出来損ない〟とはいえ、法術師の矜持も神聖帝国貴族の誇りも忘れたかっ! こんな得体の知れない〝箱〟まで操ってっ! なるほど、すっかり野蛮な世界に染まってしまったようだなっ! 〝出来損ない〟も、ここまで堕ちたか……っ!』

 大声で怒鳴り続けて、さすがに息切れしたらしい。エリッサの喚き声はそこでようやく途切れ、荒い呼吸に変わる。

『おかげさまでね。ついでに言えば、ああいうのも動かせるわ』

 アレクシアは隣を走る、旅客用の大型浮揚機を示す。

『どうせなら、この機会に色々取っちゃいましょう!』

 と、アレクシア本人よりも乗り気な鏡華によって、様々な訓練教習所に申し込まれてしまった。後で知ったのだが、取得するには様々な制限があるのだが、鏡華がごり押しで通したとのこと。

 それだけの権限や影響力を持つ鏡華が何者なのかはさておき──そのおかげもあり、アレクシアは様々な乗り物を公的に操れるようになった。

 鏡華の〝みっちりがっつり〟の地獄の三ヶ月で最大の成果と言ったら、やはり浮揚機を始めとする各種乗用機械や作業用大型重機などの運転免許を得たことだろう。

『まあ、持ってるのはあくまでも運転の資格免許だけだし、この乗り物は無理を言って借りただけなんだけど』

 ちなみに──新品の浮揚機の平均的な価格は、工房勤めの給料一年分をつぎ込んでも足りない。分割払いという手もあるが、いずれにせよ、自分の浮揚機の購入はまだまだ先の話であった。

 それでも──時間と資金さえあれば、アレクシアでも手に入るということだ。

 神聖帝国ならば、皇族や高位貴族でもなければ、お目にかけることもない乗り物だ。平民の手に届く日が来るとすれば、それこそ百年以上は先になるだろう。

 つまり──神聖帝国は、陽出よりも百年以上は遅れているということだった。

『それにしても……野蛮な世界、ね』

 エリッサの散々な言い様に、今更アレクシアは腹も立たない。むしろ、思ったよりは元気であることに安心した。

 そして、かつて恐怖の象徴だった相手がどれ程の者(・・・・・)かも、今はよく見えていた──嫌という程に。

 だから──アレクシアは、容赦しなかった。

『野蛮、下民──そんな下等種族(・・・・)が相手だと思ったから、平気で色々と盗んだのね。しかも、野盗みたいに襲い掛かって傷つけて』

『野蛮で下劣な者から取り上げて何が悪いっ! あんな奴らが使うよりも、私が有効活用して』

『……ねえ、エリッサ』

 息を吹き返したのか、エリッサは再び怒鳴り散らすが、アレクシアはそれを遮った──今度はアレクシアが、冷たく遮った。

『この三ヶ月、貴方はそんなことしか考えてなかったの?』

 だとしたら、呆れる他は無い。

 拘束されていると言っても、エリッサは三ヶ月もの間に何もしていなかったわけではない。幾度となく尋問は行われ、その流れで外部の情報は多少なりとも伝えられていた。

 尋問にしても、拷問などは一切行われない事務的な内容。更に、健康を損なわないよう食事にも気を遣われ、定期的な診断が行われていた。

 〝規則正しい〟という意味では、神聖帝国の貴族よりも良い暮らしで、それが事実だということは、エリッサの今の様子を見れば明らかだ。むしろ三ヶ月前に会った時よりも、健康的で美しくなっているように見えるのは、気のせいではないだろう

 見た目の美しさ、だけなら。

『貴方の言う〝野蛮な世界〟の中で三ヶ月も過ごして、貴方は何を見ていたの? それとも、ただただ憎んで恨んでいじけて不貞腐れてただけだったの?』

『だ、黙れっ!』

 冷えていくアレクシアの熱を奪うように、エリッサの熱は上がっていく。

『〝出来損ない〟が偉そうに説教など吐きつけるなっ!』

『それもそうね。いちいち説教されるよりも、その目で見た方が早いわ』

 アレクシアは手元の操作盤に指を走らせ、後席の窓を開けた。

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