1:新生活
「今日からこちらでお世話になります、アレクシ……いえ、高桐詩愛、です」
本名を口にしかけて、アレクシアは慌てて言い直す。集まっているのは、手の平大の小人から見上げるような巨人まで、これまた様々な種族達。
「至らぬ点も多いですが、よろしくお願いいたします」
だいぶ流暢になった陽出語で挨拶し、行儀よく頭を下げた瞬間、
「よろしくぅっ!」
「まさかのカワイコちゃんだなっ!」
「魔力……じゃなくて法力持ちだな? 陽出じゃ珍しいな」
「高桐ってことは、もしかして鏡華さんとこの?」
「まさかあの、枯れた若造についに嫁が来たのか!?」
人類含む様々な種族たちに群がられた。中には、何ともよく分かっている事を仰る輩もいる。
「おいテメェらっ! 新顔の紹介はそこまでだ!」
騒ぎ声を一気に吹き飛ばす大喝を放ったのは、豊かな口髭を蓄えた地精族の男。神聖帝国で言えば、ドワーフというところか。
「さっさと仕事につけ! 詮索するなら、体動かしながらやれ!」
名をゼル──〝親方〟と呼ばれるここの長であり、体躯はアレクシアの半分にも満たないのだが、貫録は間違いなく確かなものらしい。ゼルが次々に飛ばすと、アレクシアに群がっていた連中が一斉に持ち場へと散っていく。
「さて、新入りよ」
ポツンと残されたアレクシアに、ゼルは思い出したように話しかけた。
「高桐の奥さんの話じゃ結構なモノを持ってるようだが、それが日の目を見るのはまだ先だ……おい、エリィ!」
「は~い」
と、光の尾を引きながら、蛍精族の娘が飛んできた。
「しばらくは、お前んとこで世話してやれ。使えねえようなら、さっさと切り捨てろ」
「分かりました~」
間延びした返事をしながら、エリィと呼ばれた蛍精族の娘はアレクシアの前にやって来る。蛍精族としては大柄だが、どこか気の抜けたような顔が印象的だ。
「……それじゃ、え~っと詩愛ちゃんだっけ? しばらくはよろしく~」
「は、はい」
「声が小せえっ! 気合入れねえと潰されっぞっ!」
「わ、分かりましたぁ、親方っ! よろしくお願いします、エリィ先輩!」
「はいは~い。それじゃ私についてきてね~」
忍び笑いを漏らしながら飛んでいくエリィに、アレクシアを慌ててついていった。
*****
ここは、〝匠の荘〟と呼ばれる工房──様々な分野で使われる、精密部品を製造して卸すのが、主な仕事であった。
工房主であるゼルは、陽出において指折りの職人であり、その下に集うのも腕の良い者達ばかり。規模こそ小さいが、陽出における随一の工房であった。
アレクシアが働くことになったのは、そういう場所だった。
「高桐詩亜、ねぇ……」
わき目も振らずに駆け回るアレクシアを睨みつけながら、ゼルは懐から小指の先ほどの小石を取り出す。
「アンタや皇龍様のお墨付きだから、何かあるとは思っちゃいたがよ~」
それをしばらく眺めると、ゼルは疑念に満ちた目で後ろを振り返った。
「蓋を開けりゃ、こんなモノをホイホイ出すようなバケモノときたもんだもんなぁ」
こんなモノ──それは小粒ながら、面接の際にアレクシアが複製して見せた緋日金だった。やはり本物には及ばないものの、燐耀や蒼真達の前で初めて複製した物に比べると、格段に品質も強度も向上していた。
「そんな奴を、どこでどうやって拾って、何だってこんな場末の工房に連れてきたのやら……聞きたい事は山ほどあるが、聞かない方が良いのかい?」
「まあ、いずれはお話しします」
ゼルの横に並びながら、鏡華は言った。
「あまり大っぴらには出来ないけど、かと言って隠し通せることじゃありませんからね……それで」
鏡華は、忙しなく駆け回るアレクシアに目を向け、
「実際働かせてみてどうですか、あの子は?」
「どうですかって言われてもなぁ……挨拶して半日も経たねえ内に、何が分かるってんだ?」
「名工ゼルは、さすがにお目が高いことで。ニセモノとは言え、緋日金の錬成じゃご不満かしら?」
「能力だけ(・・)なら、こんなちっぽけな工房に収まる器じゃねえさ。間違いなく、な。けど」
「ちょっと~これじゃないのよね~何やってんかな~?」
「すみませんすみませんっ!」
間延びした顔で、ネチネチと吐きつけるエリィに、アレクシアは何度も頭を下げる。そしてまた、戸惑いながらも駆け回る。
「……見ての通り、能力に見合うだけの〝実〟が伴ってねえ。まあ、こればかりは、化けることを期待するしかねえな」
「甘やかせとは言わないけど、あんまり虐めないであげて」
鏡華の苦笑に、ゼルは鼻を鳴らし、
「それも、あの娘次第だな。まあ、今日一日で潰れない事を祈るぜ」
「それは大丈夫です。今のあの子は、三日ぐらいは余裕でぶっ通せますから」
鏡華は、自信満々に告げた。
「それに、もし潰れるようなら、あの娘はそこまでの器だった……そういうことでしょう、親方風に言えば」
「よく分かってるじゃねえか」
と、ゼルは獰猛に笑い、
「なら、こっちも遠慮はしねえぜ」




