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斯くて少女は、新たな一歩を踏み出す  作者: takosuke3
三章 ~静寂にして不穏な一夜~
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7:若者たちの悪巧み

「さて、ずれた話を戻すとしようか」

 着崩した浴衣を整えると、燐耀は表情を引き締めて話を進めた。

「では、まずは手札の確認じゃな。そなたは何が出来るのじゃ?」

「おい」

「……私ハ、法術は」

「法術と言っても、様々あろうて。どんな小さなことでも良い、何が出来るのじゃ?」

 あるにはある──というか、今思いつくのはそれしかない。

「おいって」

「錬成ナラ……」

 言ってるうちに、萎んでいく。羞恥心が、アレクシアの声を抑えつけていた。

「錬成……ふ~む……」

「おいっつってんだろうがぁ!」

 低い位置から響いたのは、蒼真の怒声。見れば、荒縄で縛り上げられた蒼真が転がっていた。

「何なんだよこの扱いはっ?」

「そもそもの日ごろの行いと言動をしかと考えた上で、己の胸に聞いてみるがよい」

「ぐぇっ?」

 燐耀は蒼真を蹴りつけて喚き声を黙らせる。何故だろう。同情すべき姿なのに、それが蒼真というだけで小気味よかった。

「さて、話を戻すが……まずは、これを」

 と、燐耀が差し出した手には、小指の先もあるかどうかの小さな石。それを手に取ると、強い魔力を内側から感じた。どうやら、〝魔石〟と呼ばれる魔力を帯びた石のようだ。

「これの複製は出来るかの?」

「複製って……お前、そいつは」

「出来るのじゃろう?」

 目を剥いた蒼真を気にも留めず、燐耀はアレクシアを促す。

 蒼真の態度は気になるが、アレクシアは魔石を持つ手を握りしめ、法力を送り込む。法力を受けた石の魔力が内側で干渉し、強く反発する。小さい上に、燐耀の魔力に隠れて気づかなかったが、かなり強力で高純度の魔石らしい。

 アレクシアは、魔力の強烈な反発を無理に押さえつけるようなことをせず、少しずつ、しかし確実に自身の法力と馴染ませつつ、そこから石の構造や材質を読み取り、同じモノを頭の中に浮かべ、それを法力でもって再現、空いている右手の中に構築する。

 時間にして数分を経て、アレクシアが右手を開くと、大きさ、形、重さ──左手のそれと全く同じ魔石が乗せられていた。

「ふむ……」

 燐耀は、複製した方の魔石を手に取り、魔力を送り込む。それに反応したのか、複製魔石は赤い光を放つ。送り込む量が大きくなると、比例して放つ光も大きくなっていき、

「!」

 音を立てて無数の亀裂が走り、石は砕けてしまった。燐耀が砕けた破片を摘まむと、さらに細かい砂になって零れ落ちる。

「純度や強度は真に及ばずも特性は同じ、か」

「いやいやいやいやっ!」

 蒼真は驚愕の文字を張りつけたような顔で跳ね起きた──ほどかれた縄がバラバラと落ちた。何をどうやったのか、縄をほどいたらしい。

「特性が同じってのがあり得ねえだろっ! 緋日金(ヒヒガネ)だぞ緋日金っ!」

 蒼真の口ぶりを見る限りでは、かなり価値の高いモノらしいが、聞いたことのない魔石では、今一つピンと来ない──と、思っていたら、

「希少価値としては、オリハルコンにも相当するじゃろうの」

「……ぇ……」

 燐耀の言葉に、アレクシアは間抜けな吐息を漏らした。

 魔力を帯びる魔石に対し、法力を帯びる〝神造鉱〟──そんな稀少鉱石の中でも、オリハルコンは最高級とされており、別名〝神の血〟とも言われる。

「いや……正直、全~然期待してなかったけどさ、こりゃ思った以上にイケるか」

 これまでのやる気の無さが嘘のように笑った。

「……いや、イケるぞ」

 アレクシアの背中に悪寒が走るくらいの、恐ろしく悪い笑みで。

「こりゃ蒼真、アレクシアを怯えさせるでない」

 と、呆れたように諌める燐耀だが、浮かべているのはそれはもう、悪い笑み。ただでさえ強大な存在がそんな顔をするものだから、アレクシアは危うく気を失いしかけた。


*****


 その圧が、良くも悪くも後押しになったらしい。

 緋日金に始まり、手あたり次第を追い立てられるように複製した。そこから錬成を組み合わせ、更に細工を施しつつ、それを元にあれやこれやと策を考えながら細かい調整を重ね──気づけば夜空が白み始めていた。

「……少々不安は残るが、さすがに時間切れかの」

 燐耀は肩をすくめながら、あれこれ書き連ねた手帳を閉じ、

「それに、これ以上手を加えるのも、かえって逆効果じゃろうて」

「や~れやれ、徹夜なんて初めてだぜ~」

 蒼真は体を伸ばし、思い出したように大きな欠伸などする。今の今まで、絵に描いたような悪人ぶりだったというのに、そんな気配は一瞬で消え去っていた。

「ぼやくでないわ、阿呆が」

 と、燐耀は蒼真の頭を軽くひっぱたく。さすがなもので、全く疲労を感じさせない艶めいた顔のまま。

「そなたは、普段は人一倍の怠け者。なればこそ、そなたは人の三倍は働いて丁度良いのじゃ」

 思えば、驚くべき光景である。普段から今一つやる気を見せず、寝つきの良さは赤ん坊並。夕食を食べた後は、起きていても仕方ないとばかりにさっさと眠ってしまうのが、高桐蒼真という男である。

 そんな男が〝徹夜〟などと、冗談どころか奇跡である。

「あ~そうですかそうですね~……にしてもさ~」

 蒼真は、部屋の隅に寝ぼけた目を向ける。アレクシアの力で複製された魔鉱石が、山積みにされていた。

「ここまでやれる奴が何で〝出来損ない〟になっちまうんだ?」

「そなた、話を聞いておらんかったか? 一度に放出できる分が極めて少ない故に」

「だから、そこ(・・)なんだよな~」

 と、寝ぼけた目でアレクシアを見やり、

「放出が少ないってことは、法力の密度や強弱を、細かく調整が出来るってこったろ。時間が無いから今は大雑把にやっちまったが、もっと高度で精密な細工や錬成もできるぜ。そんな奴が、どうして濡れ衣を簡単に着せられるような〝出来損ない〟になるんだっつう話さ」

 寝ぼけた目のまま、鋭く指摘した。

「……錬成や細工の法術ハ、トテモ低級で低俗と呼ばれテル。才能に恵まれなかった術者が目指す系統ダッテ」

 故に、それを得意とするのは、決して誇れることではない。どころか、錬成系の適性は、〝無才非才の証明〟とまで言われていた。

 それこそ──オリハルコンのような神造鉱を扱えでもしない限り。

「地精族や単眼鬼族の連中には、とても聞かせらんねえな。じゃあ、高貴で上級な系統は何でございますかね?」

「決まっておろう」

 皮肉を込めた蒼真の問いには、燐耀が答えた。

「戦闘攻撃法術じゃ」

 皮肉を込めて、冷たい声で。

「神聖帝国の歴史は、突き詰めてしまえば〝戦争〟じゃからの」

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